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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
第二章 挑戦と上達の街≪レイネシオ≫
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平和な森と危険な生物

「しまった間に合わねぇ!!フィオラぁ!!」


「いやあああっ!!」


「逃げろフィオラっ!!」


目の前の、二足歩行のくせに異様に大きい獣が私に向かってその腕を今、たたきつけようとしていた。


今さら逃げたところでアッシュさんの言う通り間に合わない。


私は死を覚悟した。


だが、同時にこうも思った。


このデカブツ、私が小さいからって完全になめきった動きを先程からしていたように思える。


今もそうだ、ロキさんを相手にしているときよりも腕の動き方が遅い。


殺≪や≫れる。今の私ならば。


私は自身が持っている剣を握り直し、こう叫ぶ。


「≪シャイニングブレード≫っ!!」



―――――――――――――――――――



朝ごはんを食べ終えた私は、レイネシオに依頼をこなしに来たことを再度思い出していた。


「さてと、出発の準備しに部屋に戻ろっか」


「あ、はい」


「おう、じゃあまたここでな」


「あんまり持って来すぎんなよ?動きが鈍れば命を落とす確率も高くなるからな」


「....はぃ」


そんな割とさらっと言われたロキさんの一言で、戦いに行くという現実とともに、背筋が凍るような想いをした私の度胸の無さを思い知らされた。



宿屋の廊下を部屋に向かって歩いていた。


先の出来事で水分と足取りが重くなった私を見て心配してか、ミラさんがこんなことを私に言う。


「大丈夫だよ、私もいるし。なんかあってもアッシュとかロキが守ってくれるから。そのための男だもん。ね?」


なぜだろうか、その一言がとてもありがたいと思える。怖かったんだな私は。死にかけたことくらい今まで何回もあったくせに、長く平和な場所で過ごしていたせいかな。いままで「死ぬ」という感覚が麻痺していたのだろう。それもそうだ、毎日当たり前のように周りで人が死んでいって、挙句その人たちを殺した人が私やほかの奴隷に殴る蹴るなどの暴行を毎日のように繰り返していたのだ。私たちだっていつ死んだっておかしくない状況だった。


それに比べて今はどうだ。


そう考えると納得できるな。


気が付くとすでに部屋の扉を通り越すところだった。


気合を入れ直すか! 


私は大きく深呼吸し、出発の準備に取り掛かった。



――その後のロビーにて―――――――――


支度を終えた私とミラさんがロビーに降りると、すでに男性組が待っていた。この前ミラさんが言っていた「女より男のほうが支度が早い」というのはまさにこのことか。


感心していると支度が早い組に気づかれてしまった。


「終わったか?」


「はい。....あの」


「ん?」


出発する前にどうしてもロキさんに確認しておきたいことがあった。


「私の荷物、多くないですか...?」


「あぁ、ちょうどいいと思うぞ」


これでやっと安心できる。私は安堵のため息を吐く。私が荷物についての不安を抱くようになった原因はロキさんで、初めて魔物を狩りに行く私には多い少ないの基準がいまいちわからない。であれば、その原因を作った張本人に確認してもらうのが一番安心できると考えた。効果は予想以上に大きかった。 


「さーってと、...行くか」


先程までのアッシュさんとは対照的に、真剣な表情を見せた。ロキさんもミラさんもそれに続いて表情が変わる。私は一度魔物と対面し、とどめを刺したことはある。が、思えばそれっきりだ。それにその出来事ももはや記憶が薄れている。そんな私でも、この唐突な空気の変化により脈が速くなった。


それぞれがそれぞれの想いを抱きながら、私たちは目的地である≪ハーヴェスト≫という森林へ、足を進めた。



――――――――――――



私は街を出てからの移動時間で、今回の依頼の確認を頭の中ですることにした。


依頼者:カール・ファーマー


内容:「俺の仕事はハーヴェストで実った果実を収穫し、それをレイネシオで売る、って感じだ。で、この前いつものようにハーヴェストに果実を収穫しに行ったんだが、基本ハーヴェストには魔物は生息していない。俺もこの仕事を始めてから今まで一度も魔物に遭遇したことはなかったんだ。そんなハーヴェストに、この前でっけぇ魔物がでたんだ!!最初は自分の目を疑ったさ。だけどそいつは、いくら目をこすっても俺の視界から消えねぇんだ。あれはちゃんと現実なんだ。頼む、あれがハーヴェストに居座り続けている限り、俺は仕事ができねぇんだ。どうかあの化け物をやっつけてくれ!!」


最寄りの街:レイネシオ


現場:ハーヴェスト


ターゲット:クロノベアル(目撃者からの証言による予測)


報酬金;5000z



ミラさんに見せてもらった依頼書は確かこんな感じだった。


私は依頼書をみるのは初めてだ。依頼場所から最寄りの街までよく書かれている、これは依頼を受ける側の人間にはとてもありがたいだろうな。いや、これがなければ依頼をこなせないか、記載がなくては依頼が成立しないか。

目撃された魔物に関しては正直知らないが、まずはその報酬金の量に目を奪われた。


5000zって、すごっ....



――――――――――――




街を出てほどなくして、草原だった私の歩いていた地面に少量だが木が目立つようになってきた。その風景が、目的地が近いことを伝える。


――――ふいに、何か地獄から響いてくるような、また自らを凶悪だと認め、象徴しようとするかのような獣の雄叫びが私たちの耳に飛び込んだ。


その瞬間、私の背筋が凍った。気づけばアッシュさんの眉間にしわが寄っている。


「気を付けろよ」


「アッシュこそ」


「全くだ」


三人は鼻で笑いあっていた。だが私にそんなゆ余裕はない。


緊張のせいか、自分がすでに森に入りかかっていることに気が付かなかった。どおりで雄叫びが聞こえたわけだ。どうやら魔物は森の中心あたりをさまよっているようだ。


「入るぞ」


アッシュさんを先頭に、慎重かつ確実に森を進むことになった。


―――≪ハーヴェスト≫―――――



森は森らしくやけに静かだった。か、それは勿論風がないときであり、風が吹けば森特有の葉の揺れる音が共鳴した。深い森なのにも関わらずしっかりと木漏れ日が地面にまで届いて、薄暗くはあるが視界に困るほどではない暗さだった。涼しいし、普通に観光か何かで来たらとてもリラックスできそうな場所だ。


「これは異常だな」


ロキさんが不意に呟く。


「ええそうね。普段なら小鳥の鳴き声が聞こえても珍しくないはず。でも今のこの森には鳴き声どころか小鳥の姿さえ確認できないわ。これは急に魔物が出たのと関係がありそうね」


「なんにせよ、とっととデカブツを片づけちまおうぜ」


ミラさんの冷静な分析にも、アッシュさんの考えた末とは思えない発言によって遮られる。反射的にミラさんは溜息をついたが、今回は「そうね、それが一番手っ取り早いわ」と同意の意思を伝えた。


そんなやり取りをしていると、前方、つまり森の中心部から木の倒される大きな音が聞こえてきた。


「...どうやらふざけてられるのもここまでだな。」


「そうみたいだな」


その音はだんだんとこちらへ向かってきているようだ。ロキさんの「もう少し広い空間を探そう」という一言で、私たちはロキさんの思考が読めた。今私たちがいる空間は空間と呼べるような広さはなく、森の一部というのがふさわしい場所にいる。こんなところでは魔物とまともに戦えやしない。それに目的の魔物は私たちの存在に気付き、自身の五感を頼りに私たちに向かって前進している。であれば私たちが移動しても魔物は私たちを追ってくるため、移動しても問題ないだろう。


しばらく森をさまよった末に、だいぶ開けた空間らしい空間に出会えた。


魔物はもうすぐそこまで来ていた。


「ここでヤツを打つ」


「おう!!」


「調子に乗らないでよーアッシュ」


「うるせぇ、...来るぞッ」


嫌な空気が漂う始める。どす黒く、冷たい空気が。大きな質量を持ったそれはもうすぐそこまで来ていた。


そして、木という障害物をまるで無視しているかのような一定の速さで近づいていた魔物は、ついに私たちの前の木々を粉砕し姿をあらわした。



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