欲望には逆らえません
「わぁー!!」
ドアを開け、ちょっとした廊下を歩いた先にあるのはなかなか広めの部屋だった。
この部屋は二人用ということもあって、ベットが二つありながらも窮屈と感じさせない工夫が施してあるようだ。私は窓だと思う。比較的多めに設置された窓がいい感じに夕日を部屋に取り込んでいる。
そういえばもう夕方か。
それに気が付いたのと同時に、私のお腹が鳴った。
「あっ.....」
「お腹減っちゃった?私ももうぺこぺこなんだ」
微笑みながらミラさんがそう呟く。そういえばシンテイムからレイネシオまでの道のりで、アッシュさんが「腹減った」なんて子供にも勝るとも劣らないほどの喚き具合だったので、仕方なしに早めに昼食をとったのだ。それだけならまだミラさんの機嫌は悪くならなかっただろうが、重ねてアッシュさんのとんでも発言である「東がわからない」だ。機嫌を損ねるのも無理はない。当のアッシュさんは空腹だろうか。ロキさんもお腹がすいたであろうか。
「よし。荷物整理したらみんなで何か食べに行こうか」
「はい!!」
今のお腹が減ったこの状態ならば何でも食べられそうな気がする。シチューなんてどうだろうか。がっつりとハンバーグもいいな。いや魚も割と.....
――――――――――――――――――――――
「あ”ー、腹減ったぁぁ.....」
ロキさんたちと宿屋の廊下で合流すると、やはりというか、アッシュさんが喚いていた。
「はぁ....。もう何も言わないわ」
「フィオラも、もう何も言うなよ」
「は、はい...」
アッシュさんって頼れるときは頼れるのだが、のんびりした日はとことんだらしないな。私と精神年齢ではいい勝負だろうか。だが結局お腹がすいているのは私も同じなのだから一刻も早くご飯にありつきたい。
「とりあえずなんか食べに行くか」
そう提案したロキさんを先頭に、私たちは夜の闇に染まりかけるレイネシオの街を歩き出した。
――
ミラさんたち三人に店探しを任せてしまった私は、三人について行きながら理想的な店というものを想像していた。
第一条件として、ゼリオさんの店のような店が一番の理想だ。あまり賑やかな場所での食事は好きではないので、静かで落ち着いた店が理想的だ。
第二条件は、レイネシオ近辺でしか取れない食材を使った料理が頼める店、だろうか。せっかく重たい荷物を背負ってまでこんな遠くまで来たんだ、シンテイムでは食べることのできない料理というものを味わってみたいものだ。万が一それがなかったとしたら仕方なくハンバーグでも食べるとしよう。
そういえばレイネシオ近辺で取れる特別な食材というものをよく調べてこなかったな。もう少し図書館にこもる必要があっただろうか。
「お、あそこなんてどうだ?」
そう指さしたアッシュさんの先には、周りの民家と大差ないほど普通な建物がひっそりと建っていた。あれが本当に料理を扱っている店なのか、いやそもそも店なのか。わたしは初めてアッシュさんを疑った。が、その建物の入り口付近には小さめの看板か立てかけてあり、その看板には「本日の日替わりメニュー・バーベナフィッシュの照り焼き」なんて達筆に近いような字で書いてあった。そのメニューを見た瞬間、私の口はこんな言葉を発した。
「行きましょう、是非」
「ほら、フィオラもこう言ってるぜ」
「目が輝いてる.....?」
「か、かわいい...」
なんだか好き放題言われているがそんなことはもう私の許容範囲ではない。私はミラさんとロキさんの有無も言わせず店内へ入った。
―――――≪レイネシオの名もなき料理屋≫―――――
中に入ると、民家と同じ外見に反して広々とした部屋がそこにあった。そこには勿論テーブルと椅子のセットがそれなりの数置かれていた。客も少ないが美味しそうに料理を食べている。
「いらっしゃいませ」
私に向かって優しめの声がかかった。その声の主もまたやんわりとしたオーラをまとった女性だった。
私に続いてミラさんたち三人が店内へ入ってくる。
「いらっしゃいませ、四名様...ですか?」
「そうです」
店員の質問にミラさんが答える。勝手な想像だが、この二人は普通に仲良くなれそうな気がするな雰囲気的に。勝手な想像を繰り広げながらも店員に案内された席へ腰かける。木でできたテーブルと椅子、なんだか落ち着く。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
店員の質問に、私は即答する。
「バーベナフィッシュの照り焼き、お願いします!!」
「ずいぶん早いなフィオラ、、あだメニュー見てないだろ」
「いいんです、これって決めてましたから」
メニュー片手にロキさんが驚いた様子でそんなことを言い出す。だがほかのメニューなど私の眼中にはない。この店に決めたのもこの聞いたことのない魚の料理が食べたかったからだ。シンテイムもレイネシオも決して海や川や湖には近いわけではないのだが、レイネシオのほうが湖に近いため魚料理が若干シンテイムより幅広く扱っていると、レイネシオまでの道のりでミラさんから聞いていたのだ。だが双方の街がお互いに近いため、街に届く魚の種類はあまり変わらないというのもロキさんから聞いていた。そのあまり変わらない魚に当てはまらない魚、つまり鮮度などの問題点からレイネシオに運ぶのが限界だという魚はここでないと食べられない。そういうことらしい。
その上でこの「バーベナフィッシュ」とかいう魚はレイネシオでは聞いたことがなかった、つまり私にとって未知の食材である。
「あー、なるほどね。そいうこと」
ミラさんは私の意図を察したらしい。流石というか、ミラさんには「なんでもお見通しだ」とかこの前言われたが....、いやまさかね。そんなことができたら人間ではないな。
「じゃあ私もそれで」
「俺はこのロールキャベツを頼もう」
「とりあえず肉」
「承りました」
承ったのか最後のアッシュさんの一言を。ここの店員はよく訓練されているなと、私は感心した。
―――――時間はあっという間に過ぎ去り―――――――
食事を終えた私たちは今、宿屋へ戻っている最中だった。
あたりもすっかり暗くなり、満腹感に浸っていた私は強い眠気に襲われていた。
「もう少しだから頑張ろうねーフィオラちゃん」
「はい...」
なんてミラさんとのやり取りはもはや何回目だろうか。あと少しはいつになればあと少しではなくなるのだろう。
その時はようやく訪れた。
あまりの眠気に瞼を閉じたまま歩いていた私の頼りはつないでいるミラさんの手だけだったが、その割には随分安心して歩いていたことに自分でも驚いている。と、おもむろに扉のしまる音が耳に飛び込んだと思いきや、周りの音が一気に遠くなった。
流石にいきなりすぎたもので、重い瞼をこすりつつ状況を確認しようと目を開ける。
「...ぁ」
私はすでに宿屋の部屋までたどり着いていたことに気が付いた。そうとわかった直後、私の足はベットへと歩みだした。
たどり着いた先のベットにゆっくりと沈み込む。とても柔らかく、いい匂いがした。
が、
「そこ私のベット...」
と、ミラさんの微笑ましいものを見つつも困ったような複雑な心情を乗せた言葉が聞こえた。
情景反射的にこんな言葉が私の口から弱々しく発せられる。
「すみませんミラさん....すぐ...どきます...から...」
それは言葉だけの、気持ちしかこもっていないものだった。どきたいのはやまやまなんだが、感情に反して私の体はどうやら言うことを聞いてくれないようだ。
「いいよいいよ、大丈夫。無理しちゃだめだよ。今日はいっぱい歩いたし疲れちゃっているんだよきっと」
「ごめんなさい...」
今日はもう活動限界か。
思えば確かに今日はたくさん歩いたな。そのせいでこんなに疲れているのか。
「おやすみ、フィオラちゃん」
ミラさんの手が私の頭を撫でているのがわかる。だがその感覚もどんどん遠のいていく。
おやすみなさい、ミラさん。
前回の投稿から少し間が空いてしまったことと、毎部の内容量が安定していないこと等、申し訳ないです。
ミラのキャラがいまいち自分の中で定まっていないのもあるせいか、ところどころにでてくる女性モブとキャラがかぶっている感じがありますね。
初めての小説なんでそこは大目に(ry




