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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
第一章 時計台の街「シンテイム」
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剣と少女

たぶん私は今、今までで一番怖い顔をしているだろう。


なぜって?それはこうして、生まれて初めて剣を持っているからである。


「なぁ、マジでやるのか?」


若干心配の色が混ざった声をアッシュさんが出す。

何が心配なのだろうか。剣の重量に耐えられないならまだしも、私はこうしてちゃんと剣を持てているではないか。ただ、ここで奴隷時代の労働で鍛えた体が役にたつとはあまりにも予想外だったが。


私が今手にしている剣はアッシュさんのもので、大体私の身長くらいのものだ。アッシュさんはこれを片手で扱っているようだが、私の場合は両手でやっとというところだ。重さ的にはアッシュさんの好みでずいぶん軽くなっているようで、幸い重すぎて持てないというほどではなかった。


「やります。やらせてください」


ミラさんから教わった「本気の時は相手の目をしっかり見て自分の意思をしっかり伝える」を実行してみる。そう、私は本気なのだ。剣と魔術を同時に使うヒスイさんがかっこいいからとか、魔術派として生まれたのが嫌だったからとかそんなのじゃなくて、単純に自分の生存確率をあげたかったのだ。魔術は基本的に目標に被弾した際に、周りに被害が及ぶ物が多い、というかそれに当てはまらないもののほうが珍しいくらいなのだ。そんなものをゼロ距離にいる魔物にあててみろ、魔物どころか私まで死にかねない。それを恐れる私はどうしても剣を扱えるようにしたかったのだ。最悪剣でなくともよかったのだが、思い立ったすぐそばにアッシュさんがいたものだから「ついうっかり」というやつだ。


「うっ.....でもなぁ」


私の必死の訴えもむなしく、アッシュさんは相変わらず眉間にしわを寄せたままだった。これでも頑張ったつもりだったがそれでもダメとなると、いよいよ最終兵器の出番だな。


「ダメ.....ですか?」


ミラさん直伝、必殺「ロリに許された上目づかい」。私には名前の意味が全く分からないが、男の人にはこれが一番効くらしい。ただやはり最終兵器というだけあってか、私にも精精神的ダメージがものすごいのだ。はっきり言って超がつくほど恥ずかしい。


ここまでやったんだ、流石のアッシュさんでも効果はあっただろう。これでも何ともなかったら心が折れてしまいそうだ。


「あーもうわかった!!わかったから、頼むからその目やめてくれ!!」


どうやら効き目はあったらしく、アッシュさんは私から視線をずらして顔を真っ赤にしている。まぁそれなりの犠牲はあったものの、ようやく剣を教えてもらえるらしいのでよしとしよう。



――――――――――――――――




「よし、そのまま勢いよく剣を下ろしてみろ」


「はい。......えいっ」


自分の頭の後ろまで振りかぶった私は、言われた通り思いっきり剣を振ってみる。ある程度剣は軽いとはいえやはり金属は金属、長時間持ち続けるには今の私では無理があったようだ。私の腕が限界だといっている。


「......少し休むか?」


辛いのが顔に出てしまったのだろう、私を見ながらアッシュさんは苦笑いをした。事実限界だったのでその誘いは願ったり叶ったりだった。ここはアッシュさんの言葉に甘えさせてもらうとしよう。


だがそこに一言付け加えるとしよう。


「すみません.....」


「気にすんなって」


そんなこんなで連れてこられたのはリビングにあるテーブルだった。アッシュさんの家には前に一度来たことがある。来た、というか連れてこられた感じだが。そう、私がこの街に住むことになったあの日、軍から逃げ、森で倒れたあの日だ。奴隷時代のことはあまり思い出したくないが、私を助けてくれた三人の、生まれて初めて見た人の笑顔は一生忘れないだろう。


私は庭から家に上がり、椅子に座る。


「ちょっとまってろ、今飲み物用意するからな」


私が席に着いたのを確認したアッシュさんはそんなことを呟く。アッシュさんはミラさんには少し厳しいものの、私や他人には結構優しかったりする。それがアッシュさんの良いところでもあり、私がミラさんに襲われた時の唯一の希望なのだ。



しばらくして私の前に置かれたコップの中には、アップルジュースが注がれていた。ちなみにこの街ではあちこちに林檎の木が目に留まるほど林檎が栽培されている。ほかの街のことはよくわからないが、ミラさん曰く「シンテイムといえば林檎」らしい。


それだけ大量に栽培されているのにも関わらず、この街のどこで買ってもやたら美味しいのだ。さすが「質も量もNo.1」を唱っているだけはあるなと思う。


そんな林檎のジュースを一口。


「.......美味しい、ですね」


相変わらずとても美味しい。この林檎もそうだが、この街にある時計台や図書館、ゼリオさんの店や優しい人々など、私はとにかくこの街が大好きなようだ。


このアップルジュースを飲むと、なぜだか顔がゆるんでしまう。


すると私を見ていたアッシュさんが唐突に苦笑いをしだした。


「どうかしたんですか?」


「あ、いや、......ミラがいなくてよかったなってさ」


「......あ」


その言葉はつまり「笑ってるぞ」という意味なのだろう、少なくとも私はそう解釈した。事実私は笑っていたし、間違ってはいないと思う。


.......確かに、ミラさんがいなくてよかったと思う。




――




「アッシュさん、だいぶ休めました」


互いに飲み物を飲みながら世間話をしばらくしていた。アッシュさんとの世間話は楽しいというより興味深かった。内容的には世間話と言っていいのかもわからないが、私は聞いていてとても楽しかった。今までアッシュさんたちが戦った手ごわい魔物のことやロキさんの弱点など、とにかくいろいろなことについて話し合っていた。だが私は本来の目的を忘れていなかったようだ。


「あ、そうか」


アッシュさんはどうやら私が剣を教わるために来たことをようやく思い出したようで、「どっこらせ」なんて言いながら立ち上がった。改めて思ったが、アッシュさんってものすごく背が高いな。


「よし、じゃあ行くか」


「はい」




この後私は鐘が鳴るまでアッシュさんに剣を教わっていた。明くる日もアッシュさんの家に朝早く押しかけて一日中剣を握っていた。そのかいあってか、アッシュさん曰く「振り回せるくらいにはなった」らしい。だが私はそれで満足すことができなかったようで、ミラさんたちの仕事が終わってこの街に帰ってきたらまたアッシュさんに剣を教わることに決めた。もちろんそこにアッシュさんの意思はないが。



いよいよ明日はここ以外の街に行くのか。少し緊張するな。





投稿が遅れてしまってすみませんでした。

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