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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
第一章 時計台の街「シンテイム」
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第暇と思考

それはある日の夜、キャンベル家での出来事。


「あのね、フィオラちゃん」


夕食が終わり、リオさんが食器を洗うキッチンのわきでまったりしていると、ミラさんが唐突に口を開いた。


「なんですか?」


「えっとね、今日ロキが報酬のよさげな仕事の依頼を持ってきたんだ。それで、私もアッシュもその依頼を手伝うことになったの」


「そうなんですか。頑張ってくださいね」


ミラさんはわくわくしている様子だったが、私としてはあまり喜べない内容の話だった。アッシュさんの話によると、報酬の良い依頼というのはある程度危険な魔物の討伐や断崖絶壁の探索など、命に関わるような内容が多いらしい。ミラさんたちだって長い間この仕事をしているとはいえやはり人間だ。もしものことを考えるとどうしても心配になってしまう。


「でね? 問題はその場所なんだけど。ここから結構遠い場所でね、一日じゃ往復できないんだ」


それを聞いた私は固まった。別にミラさんたちがしばらくいなくなってしまって寂しいというわけではない。ミラさんたちも仕事で遠くに行くのだ、多少の寂しさなら我慢する。だが問題はそこではない。日帰りならまだよかった。その日の夜には無事かどうかを確認できるからだ。しかし今の私では、ミラさんのいない夜というのは落ち着けずに眠れないだろう。情けない話だが、人のぬくもりを知ってしまった私ならありえなくはない。それにもしミラさんたちが無事でなかったらと考えると、私は私を保っていられないだろう。


.......ずいぶん弱くなってしまったな、私は。


「だ、大丈夫?顔色悪いよ?」


ミラさんの言葉で我に返ると、私の体の様子が明らかにおかしいことに気が付いた。手は震え、呼吸も早くなり、胸がとても痛い。一体どうしてしまったのだ私は。


「フィオラちゃん、深呼吸して落ち着こう?ね?」


「.....はい」


言われた通り、大きな深呼吸をしてみる。息を吐き終えた時にはある程度呼吸も落ち着き、手の震えも収まっていた。だが一つだけ、胸の痛みだけは一向に治まらなかった。


「どう?落ち着いた?」


「少し、楽になりました.....」


「よかった」


おそらくミラさんは「リオもいるから大丈夫だよね」と言うだろう。私の選択肢はたった一つ「もちろん大丈夫です」だ。


覚悟を決め、ミラさんの話を大人しく聞く体制に入る。


「でね?私たちがいなくなる間、リオにフィオラちゃんの面倒を見るように言ったんだ」


「もちろんだいじょ.....」


「そしたらリオも実家に帰るからその日は私も無理とかいいだしてさぁ~」


「......!?」


またも私は固まった、今度は驚いた表情のままだ。なんともみっともない表情だと思うが、今は羞恥心とかそういう場合ではない。


「じゃ、じゃあ私はどうすれば....」


「それなんだけど、フィオラちゃんを一人にするわけにもいかないし、実家に預けると色々厄介なことになりそうだし、リオもそういう説明苦手だし、どーしよっかねぇ」


確かにいくらミラさんの両親といえど、急に見知らぬ女の子の面倒を見てくれと言われれば困るに決まっている。それに私ももう右手の紋章はあまり他人に見せたくない。かといってこのままこの家に一人でいても、今の私では料理も洗濯も掃除すらもできない。とてもではないが一人でやっていける自信がない。なら本当に私はどうしたらいいのか。全く見当がつかない.......といえば嘘になってしまう。


「......私たちと一緒に行く?」


「そうなりますよね.....」


よほどの鈍感でなければ流石に気が付くだろう。私がミラさんたちと一緒に行ってもできることはないと思うが、事情を一から話さないといけない人に私を預けるほうがよっぽど面倒だろう。私だってそんな人のところにはあまり行きたくない。


「でも、いいんですか? 私がいたら邪魔ですよね?」


そう、ミラさんたちは仕事なのだ。そんなところに私みたいな子供がいれば当然邪魔なはずだ。仮に「邪魔」とまでいかなくとも、少なからず気を遣わせてしまうだろう。そんなのは私が嫌だ。


「街までは大丈夫だろうけど、狩りに出るときはどうなるかわかんないかな。フィオラちゃんももう戦えないわけじゃないけど、今回は話が別だからねぇ....」


いままで私が魔術について調べていたことも、魔術を使いこなそうとしていたことも、私の身の回りの人間ではヒスイさんしか知らないはずだったが、先日図書館で高い位置にあった魔術の本を取ろうと必死になっているところを偶然にもミラさんに見つかってしまい、ミラさんに嘘を付けない私はすべてを話した。すると以外にもミラさんはすんなり話を聞き入れてくれて、私の魔術修行に賛成してくれた。理由は「仕事は早いうちから慣れておくのもいいかもしれないし、何より戦うフィオラちゃんとかまじ天使だと思うんだよね」らしい。これを聞いた瞬間ミラさんに話したのは失敗だったかと思ったが、教えてくれる内容は以外にも普通に魔術だったので何とも言えなくなってしまった。


そんなこんなで、ミラさんは私が魔術を使えることを知っているのだ。


「ま、それは後で考えるとして。一緒に行くので決定だね」


ミラさんは少しの間考えるそぶりを見せた後、ため息をついて苦笑いをした。考えるのが面倒臭くなってしまったようだ。ミラさんらしくてこの仕草は個人的に好きだ。


「はい」


「出発は二日後だから、この街でやりたいことあったら早めにね?」


「わかりました」


二日間で何ができるだろうか。魔術の勉強もいいし、出発の準備でもいいな。考え出すといろいろ出てくるものだな。これはミラさんがわくわくしていたのもわかる気がする。


とりあえず今日は寝ておこう。考えるのは明日だ。



―――――――――――――――――




「ごちそうさまでした」


相変わらずおいしいミラさんの料理を食べ終えた私は、早速今日何をするべきかを考えだした。


せっかくだから普段あまりしないことをしてみたいと思う。魔術の勉強はほぼ毎日しているし、出発の準備なら明日でも別にいいだろう。ヒスイさんにも図書館に行くたびに話しているし、ゼリオさんにも......ん?ゼリオさん?


たまにはゼリオさんのところにも顔を出してみるか。


―――――――――――――――




店内は朝食の時間が過ぎたからか客はあまりいなかった。朝ということもあってか、店内の窓はすべて開かれ、ロキさんと来た時とはまるで店が違うような明るい雰囲気が漂っていた。


「いらっしゃい。.....お、フィオラちゃんじゃねぇか、よくきたな」


ゼリオさんは相変わらず渋い声で、店内に入ってきた私を迎えてくれた。私はこの前ロキさんが座ったカウンターの席へ座ってみる。この席が一番ゼリオさんと話しやすそうだ。


「今日は一人か?」


私が席に着いたタイミングで、ゼリオさんが口を開いた。


「はい。あの、実はですね........」


私は昨日ミラさんが私に話した内容をそのままゼリオさんに話した。ゼリオさんなら何か良い暇つぶし....あ、いや、無駄なく二日間を過ごせるいい案を出してくれそうな気がしたからだ。


......そうか、私は暇なのか。


「なるほどなぁ。それで暇だったからうちに来たってわけか」


「いや、まあ、そう、なりますよね.....」


薄々気づいていたが、そうとわかるとなぜか苦笑いが出てくる。この街に来てから、図書館で勉強だの街を回ったりだとかでなかなか一日が充実していて、暇だと感じたことはあまり、というか全くなかった。だがいざ暇になって思ったが、暇とは案外辛いものだな。何かをするわけでもなく、だが私の場合だと何かをしていないと気がすまない性格なようで、必死でその何かを探す時間が私的には辛いと感じた。


「んー、悪いが俺も思いつかねぇな。すまねぇ」


「あ、いえ大丈夫です。むしろ私が誤るべきです、無茶言ってすみませんでした」


ゼリオさんが良い案を出せないのは当たり前だろう。私だってそんな急に良い暇つぶしはないかなんて聞かれても出てくるはずがない。ここに来てゼリオさんと話をしたことだけでも立派な雛つぶしだと思う。やはりここにきて正解だったようだ。


「ま、暇ならもう少しうちでゆっくりしていったらいい。どうせこの時間なら客もこねぇしな」


そういった後ゼリオさんは豪快に笑って見せた。ゼリオさんからはミラさんとは少し違った優しさを感じる。だが優しさというのはどんな形でも優しさという一括りなようで、ゼリオさんから感じた優しさも嫌いじゃない。今の私では、この優しさを断ることなどできない。


「はい。まぁ、どうせ暇なんで」




その時、店の扉が開き、何者かが店内に入ってきた。


「お?フィオラじゃねぇか!!」


店内に入ってきた人物は、私を見るなり驚いたような声を上げた。その人物はなかなかに鍛えられた肉体を持っており、とにかく身長が大きかった。この人は


「アッシュさん!?」


これには私も驚いてしまった。私はアッシュさんを知り尽くしているわけではないが、私の中のアッシュさんならこういった店には来ない印象があったと思う。人は見かけによらず、この言葉はあながち間違っていないようだ。


アッシュさんは我に返ると、私の隣の席に向かって足を進めた。


「ようアッシュ。久しぶりに来たな」


どうやらゼリオさんはアッシュさんと知り合いだったたらしく、お互いに軽く手を上げ「よう」と挨拶を交わした。ゼリオさんはやはりこういった店の仕事をしているせいか顔が広いようだ。私はそんなゼリオさんをうらやましいと思う。ゼリオさんみたいな人になるには、まず顔見知りを治さなくてはならないだろうが、正直知らない人に一人で話しかけるのはまだ厳しいと思う。そう思ってしまうのはやはり私がまだ子供だからだろう。


「そういやぁフィオラは何でここに来たんだ?」


考えに耽っていて軽く上の空だった私を、アッシュさんが現実に引き戻した。話の内容がちょうど切り変わった所を見るに、私は運に恵まれたようだ。


なぜここに来たって?もちろん


「暇、だからです」


軽く自慢げに言葉を放ってみた。ゼリオさんには開き直っているように見えただろう。どうせ私は暇ですよ。ええ暇ですとも。


......ダメ人間みたいだ。


「なぁゼリオよ」


「なんだ?」


「なんでこいつはこんなに自慢げなんだ?」


「.......さぁ」



――――――――――――――




アッシュさんが加わってから話がとても弾み、体感ではあれから30分ぐらいたったと思う。聞けばアッシュさんも暇だったようで、忙しそうなミラさんとは正反対なようだ。私は二人の話を聞いて笑っているだけだったが、意外と悪くない時間だったと思う。


そんな時間も終わりを告げようとしているようで、アッシュさんもゼリオさんも話が尽きてきたようだ。30分も話し込んでいれば話も尽きるだろう。私は再び辛い暇な時間が来ることを恐れ、早くも次の暇つぶしを考え出していた。


考え出したはいいが、やはり良い案など出てこない。


いやまて、そもそもこの二日間はアッシュさんたちの仕事についていくための限られた時間なのだ。こうして話を聞いているのも別に構わないと思うが、それよりもやることがあると思う。


そうだ、もしかしたら私も魔物と戦うのかもしれない。そのもしかしたらの確率が百あるうちのたったの一しかなかったとしても、ゼロではないのは確かだ。なら、戦闘に必要な技術を覚えるべきではないのか。今ここにはアッシュさんがいる。せっかくならアッシュさんに何か教えてもらいたいものだ。


だがアッシュさんは魔術を使えないと聞いている。魔術を教えてくれと頼んでも困ってしまうのは目に見えている。なら私は、アッシュさんからは何も学べないのだろうか。



.....いや、ある。


ヒスイさんの戦闘方法を思い出して利みよう。武器と魔術、両方を器用に使って戦っていたと私は記憶している。それに図書館で読んだ本にも『優れた魔魔力を持たない人間は魔術や魔法を使えないため武器を用いた戦闘しかできないが、優れた魔力を持つ人間は武器と魔術、両方を使った戦闘も可能である。しかしそれには相当の努力を必要とする』と書いてあった。つまり努力をすれば私にもできなくはないということだ。この二日間でどの程度まで出来るかはわからないが、やってみる価値はあるだろうし、何よりそれが一番二日間を無駄なく過ごせると私は思う。逆に言えば、まぁそれしか思いつかなかったのだ。


「あの、アッシュさん」


「ん?」


「私に、剣を教えてください!!」


「.........はぁ!?」

諸事情で今週一週間投稿ができません。

ご迷惑をおかけします。

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