自信と恐怖
「≪ライトニング≫!!」
「おおっ!! ほんとすごいねフィオラちゃん」
図書館で魔術を知ってから早一週間。あれから私は図書館にこもるようになった。今日はどのくらい私が魔術を使えるようになったかのテストとして、ヒスイさんと街はずれの森に来ている。万が一のことを考えて火の魔術は禁止されている。街はずれと言っても街からすごく遠いというわけではないので、ここで火事を起こせば街にも被害が出るだろう。この森は比較的安全な方で、魔物はあまり出てこないらしい。だとしても100%魔物が出てこないとも言い切れないらしいので、一応ヒスイさんについてきてもらっている。
「いやー、見事にいったねぇ」
私が今唱えた魔術は≪ライトニング≫といって、属性部類的には雷に入る中級の魔術だ。特徴として発動と同時に狙った方向へ雷の槍を飛ばすことができる。今私が狙った大きめの木は見事に真っ二つになりそのまま倒れていった。中級や上級の魔術の威力は唱えた個体の魔力の強弱によって左右されるらしい。私の場合は大きめの木が一本倒せるくらいの威力だったが、これがどのくらい強いのかは私にはわからない。
「次、行きます」
「おっけー」
――――――――――――――――――
「フィオラちゃん?もうそろそろやめとかないとそのうち森が消えちゃうよ?」
「あ......」
気づけば私たちの周りの木は大半が切り株と化していた。確かにこれ以上続けていたら自然破壊もいいところだ。いやしかし、魔術一種類につき木一本のペースでやっていたがまだ覚えた数の半分くらいしか唱えていない。どうしたものか。
「ここまでできればもう魔物狩れるんじゃないかな?」
ヒスイさんがとんでもないことを言い出す。いや自分も同じことを少し思ったが、流石にまだ無理だろう。確かに魔術の勉強は腐るほどした。しかし魔物については勉強どころか本すら開いたことがないのだ。そんな人間がいきなり魔物を狩るなんていくらなんでも危険すぎる。
「冗談だよ、冗談。さぁ帰ろっか」
「はい....」
ヒスイさんは笑いながら街のほうへと歩き出す。その笑い声を聞いていると、なんだかからかわれたようでどこか落ち着かない。私はさりげなく頬を膨らませヒスイさんの背中を睨んてみる。するとヒスイさんの足が止まった。
「ど、どうしたんですか?」
まさか怒らせてしまったのか。いやいやまさか。ヒスイさんとて人間だ、背中に目はないだろう。.....ないことを祈りたい。
「.....くる」
「え?」
「フィオラちゃん下がって!!」
私はもうわけがわからなくなっていた。そんな私の目に飛び込んできたのは、真っ黒な毛並みに立派な角、イノシシに似た姿。人ではない生き物だった。
「よりによって厄介なのが来たね、こりゃあ」
そう呟いたヒスイさんの声はいつもより低く、鋭かった。この目の前の生物を警戒した口調が、私に事態の深刻さを伝える。
そう、今私の目の前にいるのは魔物なのだ。
「そんなところにいられちゃ、私たち街に帰れないじゃん」
そういいながらヒスイさんは自らの腰に下げてあった短剣を抜き構えた。対する私はもはや考える頭を持っておらず、ただひたすらにあたふたしていた。
魔物は私たちを威嚇し、低く唸っている。
初めて見た魔物。それは私の心に恐怖を刻んだ。
「フィオラちゃん、危険だと思ったらすぐに木の陰に隠れてね」
そう言い残したヒスイさんは、すごいスピードで魔物に向かって襲い掛かった。よく見るとヒスイさんの左手には≪フラッシュ≫と思われる光の玉がすでに出来上がっている。
「≪ヘブンズライト≫!!」
魔物の目の前まで距離を詰めたヒスイさんは、左手の光の玉を魔物との間で強く光らせた。その強烈な光に、離れていた私までもが目を覆う。
しばらくして私が目を開けたころには、魔物は瀕死の状態になっていた。
「ちょうどいいや、フィオラちゃんとどめさしてみなよ」
「ええぇ1?」
いくら瀕死状態にあるとはいえ魔物は魔物。覚えたての魔術が通じるほど弱くはないはずだ。だがしかし、ここでとどめを刺さなければ魔物は私たちに襲い掛かってくるだろう。なら、この手で
「.....≪ライトニング≫」
私は思わず目を閉じてしまった。聞こえる爆発音と体に伝わる爆風が、私の頭をぐちゃぐちゃにした。
「よくできました」
ヒスイさんの声で我に返ると、先程の魔物がもはや動かなくなっていた。私の魔力が通じた喜びと、魔物とはいえ生き物をこの手で殺したという罪悪感が私の中で混ざり、よくわからなくなった。
「ああしないとフィオラちゃんが殺されてたかもしれない。フィオラちゃんは間違ってないよ。私も初めて魔物を殺したときは罪悪感でいっぱいになったから、その気持ちは痛いほどわかる。でもね、それが魔物と戦うってことなんだ」
いつになく真剣なヒスイさんの言葉に、私は頷くことしかできなかった。そしてわかったことが一つだけある。魔術は魔物を殺すためのものではなく、自分の身を守るためのものだということだ。ただ自分を守るためのものではないのかもしれないが、それでもこの力は何かを守るためにある。ヒスイさんを見ているとそう思えた。
「.....帰ろっか」
「.....はい」
私たちは街へと歩きだす。やけに重たい足を引きずりながら。
内容がずいぶん短くなってしまって済みませんでした。
次章からもっと頑張ります




