転校生
雫が着痩せしているというのは、事実だったらしい。テルが、唐突に話しかけてきた。
「今日、転校生が来るらしいで。綺麗な子らしいで」
綺麗な子という言葉に、拒否反応が出た。優衣や奈那、雫を、つい思い出す。あの三人は、危険すぎる。優衣と奈那は、特にだ。
雫は、ああ言っていたが、俺は、優衣に勝ったんだ。優衣がもう仕掛けてこない可能性はある。
「うちの学校に転校なんて制度、あったんだな」
うちの中等部に、転校生が来るのは、なかなかない。僕は、一度も経験したことはないため、少し驚きだ。
「帰国子女らしいで」
テルの言葉で、一瞬、優衣の顔が思い浮かんだ。
「誰かが言っていたな。帰国子女だけ認めているんだっけ」
高等部の先輩が「帰国子女の転校生が来た」と言っていたことがあったな。
「要は、海外で暮らしていた子だけ認めるらしいで」
テルから校内の規則を聞くのは、初めての気がする。
「どんな奴か、知っているか」
優衣であるわけは、絶対ないと思うのだが……
「勉強も、えらくできて、入学テストは満点。誰にでも優しい子らしいで」
テルは嬉しそうに答える。優衣がテストで満点をとれる奴ではないと思うし、それに、利益のある奴だけに優しくするだけだからな。優衣の可能性は消えたな。
「美人で、帰国子女、品行方正。転校生は、パーフェクトや」
テルの話を聞いていると、転校生が来ることで有頂天だとわかる。しかしテルには、転校生がどんな性格でも、関係ないと思うんだが……。
「帰国子女で、日本のことを知らんところを、ワイが教えてあげて」
テルの顔が少しニヤけている。
「教えるには、近づかないと無理だろ。同じクラスじゃないと、無理じゃないのか」
テルの願いを叶えるためには、少なくとも、同じクラスでないといけないはずだ。
「ところが、同じクラスらしい。小酒井が引っ越しただろ」
テルが間髪を入れずに喋った。
「そんな奴、いたな。学校帰りにブラック・コーヒーをよく飲んでいるやつ」
小酒井……。下の名前は確か「一」と書いて「はじめ」だったか。
「小酒井が引っ越して、クラスの人数が一人、減った。しかも、うちのクラス、以前から一人、少なかったやろ」
テルの話が正しいとすると、小酒井がいなくなったことで、二人だけ他のクラスよりも少なくなったわけか。
「そういうわけやな」
テルは、自慢気に言う。
「確かにそれなら可能性は高いか」
正直、これ以上の厄介は、勘弁してもらいたい。
「ホームルームを始めるぞ」
担任の須藤が入ってきた。須藤の登場と同時に、クラス中が静かになる。
須藤は、比較的厳しいためか、逆らう生徒はほとんどいない。
「今日は、まず転校生から紹介する」
須藤が喋りながら、黒板に名前を書き始める。やはり噂どおりで、つまらない。
「ほらな」
勝ち誇ったように、小声で勝頼が喋った。
「入りなさい」
ガラガラと、クラスの扉が開いた。
入ってきた女の子は、同年代の子より大きい一六五センチ前後、桃色のロングヘアー、目は大きいが、小顔の子だった。
こいつ、間違いない。優衣だ……。
優衣だという証拠に、須藤が書いた黒板にも《椎名結衣》と、しっかりと書いてある。
優衣の服装は、下が桃色と黒のチェック柄のスカート。上は、ワイシャツにブレザー。ネクタイは、ピンク色の物をつけていた。校内規則に基づいた僕たちの学校の制服だ。
「すげー美人」
「俺、タイプかもしれない」
周りの男子たちが、こそこそと話し始める。優衣に対する女子たちの視線は、やや厳しいが。
「椎名結衣と言います。よろしくお願いいたします」
優衣は、深々と、お辞儀をした。
あいつ、どういうつもりだ……
「入間の近くが空いているな、そこに」
優衣の席は、最前列から二列目の真ん中だった。僕の席が、窓際の後方だ。優衣の状況がすぐにわかる席で、不幸中の幸いだ。
僕の机に突然、紙が出現した。間違いなく、優衣の能力だろう。
そこには「泣いて謝るまで、絶対に許さないから」と書いてあった。僕はゾクッと、身震いをした。