着やせ
僕は、優衣との戦闘の後、病院のベッドで目が覚めた。
精密検査を受けて、自白剤などが関与した失神ではなかった、との診断だった。ジエチルエーテル等の麻酔に使われる有機化合物のような物が影響したのでは、と医者は言っていた。
なんとか、優衣には勝てた。それは、不幸中の幸いではあった。トントンと扉をノックする音が聞こえる。
僕は、「はい」と返事をした。
「久しぶり」
柔らかな口調の人物は、切間勇人だ。僕と一学年上で、同じ学校の先輩だ。もちろんリベルタの仲間ではある。
「派手にやり合ったようだね」
勇人は、呆れた口調で話した。今回は、反省する部分はあるかもしれない。
「確かに、少しな」
「椎名優衣はどうだった」
勇人は、真剣な表情で聞いた。優衣が危険と知らせてくれたのは、隼人だった。
「お前の言うとおりだった」
「にしても、なぜうちに優衣は入ったんだ」
勇人なら、知っているはずだ。
「知っているとは思うが、イルミナス以上にうちは人材不足だ」
勇人は、淡々と話し始めた。
「リベルタは四班あるだろ。一チーム最低でも二人だ」
僕の班は、雫と僕だ。足りているはずだ。
「足りてはいるが、戦闘になった場合。戦闘要員が必要だ」
勇人の言うとおり、雫の能力は、サイコメトリー。僕の能力は、イノベーション。戦闘要員とは、呼べない。
「で、優衣を入れた、と」
ただ、優衣も戦闘要員とは呼べそうもないが。
「雫さん曰く、可能性があるから、らしいぞ」
なんじゃ、そりゃ……。可能性との言葉に鳥肌が立った。
「いやいや、可能性なんて皆無だろ」
「お前も、椎名優衣も、どちらも攻撃も防御もできる。場面に応じて、その攻撃と防御を使い分ければ、最強になれるらしい」
勇人の言っていることは、筋が、通っているようにも聞こえる。
「どうかな。今回の件を知って、雫は、どういう判断をするか」
最悪、異動の可能性もある……。
「そんなことよりも、誰が好きなんだ」
勇人は、真顔で聞いてきた。だが、勇人の言っている意味がわからない。
「はぁ。何が」
「お前の周りには、たくさんいるだろ、女の子が」
なんで、そんな話するんだ。
「いやいや、いないだろ」
女の子なんて、一人もいない。
「嘘をつくな。押谷七海、椎名優衣、朝霧雫、黒木莢乃、成城院奈那。美人、美少女が、たくさんいるじゃないか」
勇人の目力が、異様に強い……。
「そんなことを、考えたことなかった」
事実そうなのである。
「二人まで、選んでいい」
逆に、二人も……。
「いや、やっぱり……」
なんとかやりきりたいのだが。
「消去法でもいい」
消去法で、まず名前が浮かんだのが。
「椎名優衣。 成城院奈那」
俺の言葉に、勇人は、ビクリとした。悲しそうな表情で俺を見詰める。
「お前、ドMか」
「消去したほうだ。あと、莢乃さんかな」
莢乃さんは、姉という感じだしな。
「消去法だと、朝霧雫と押谷七海か」
勇人は、少し悩み、沈黙が漂った。
「おっぱいだな」
勇人からその言葉が出るとは思わなかった。というか、なぜ胸……。
「なぜ、その結論になる」
確かに、七海は、大きいが、雫はそんなことないだろうに。
「どこ見とるんだ。朝霧雫は、バスト九〇のFカップだ。つまり着やせしているん……」
言葉を遮るように、ガラガラとドアが開いた。開いた人物は、雫だった。これは、やばすぎる。緊迫した空気が室内に流れる。
「どうしたの?」
雫は、驚いていた。聞かれていなかった。不幸中の幸いだ。
「じゃあ、俺は、これで」
勇人は、立ち上がった。雫が来た理由それは、間違いなく優衣との件だろう。
「コンビ解散か」
その判断は正しいだろう。
「まだ始めて、四日目でしょ。まだまだ」
なぜ、その判断になる……。
「優衣と仲良くしなさい」
雫は優しい口調で、俺に注意した。僕が悪いと言われる理由はないはずだ。殺されそうになっただけだし。
「僕が悪いみたいな言い方だな」
「まぁ、そういうことだから。時間もないし」
雫は、立ち上がろうとした。ここで逃がしたら、絶対いけない!
僕は、雫の腕を掴み引き止めた。雫の顔が、急に赤くなっていく。どうしたんだ。
「き……やせ」
『きやせ』とは、なんだ。着痩せか。雫の能力は、サイコメトリーだ。
「エッチ」
さっき話していた事実がバレて、雫にパチンと平手で叩かれてしまった。