決着
優衣は意味がありそうに、含み笑いを浮かべた。次の瞬間、僕の周りが暗くなった。僕の頭上に、何かある……
頭上にあったのは、コンクリートの塊だった。コンクリートは円形で、半径が三メートル前後だろう。
僕は、瞬時に移動した。コンクリートの下敷きには、ならずにすんだ。しかし、ズドンという音と同時に、地震かと思うような大きな揺れが起きた。
「この屑女」
泣くまで謝罪させるとか、言っていたくせに……。殺す気かよ。
「殺さないなんて、言ってなかったはずだよ」
優衣が喋り終わった瞬間に、二個目のコンクリートが落ちてきた。大きな音と同時に、大きな揺れ。
僕は瞬時に躱した。
「上手、上手」
小さい子供をあやすかのような口調で話してきて、かなり腹が立った。
しかし、物は考えようだ。二個も半径三メートルの塊が近くにできれば、優衣の視界を遮ることができる。
「そこにいるんでしょ」
優衣の言葉と同時に、コンクリートが出現した。
しかし、三度も同じ攻撃であれば、躱せる。とはいえ、このまま優衣の攻撃を躱していても、埒が明かない……。
優衣の思っているとおり、僕と優衣との差は大きいかもしれない。僕がここで銃弾を放ったとしても、十中八九まで躱されるだろう。
一瞬でいい、椎名の気を逸らす方法が、ないだろうか。頭上にコンクリートの球体が出現した。これなら……。
「今度も、よけてね」
僕は、次の瞬間にイクスペクテイショーンの能力を使った。予想は、地面が揺れる。効果は、その揺れでは僕は体勢を崩さない、というものだった。
「これで終わりだ、椎名」
僕は物陰から出て、優衣に向けて、銃弾を放った。いつもと銃弾の衝撃が、まるで違う。いつもであれば、もっと重いはずだ。
「本当は、こっちを使いたかったのかな」
ポケットから、僕のHi―CAPA5・1を抜いて見せた。
「なんで、椎名、お前が持っているんだ」
まさか……。
「危ないから、モデルガンに変えておいたんだよ」
さすがに、このままだと、やばい。
「じゃあ、そろそろ、フィニッシュにしようか」
優衣が、ニコリと笑った瞬間に僕の腕と足に、縄が巻きついた。一歩も動けないどころか、僕は床に倒れてしまった。
「さぁ、そろそろ、言うこと、あるんじゃないかな」
くそ、完全に追い込まれた。
「ゆっくり、ゆっくり、廃人にしてあげるから、安心して」
こいつ、マジで拷問をする気か?
「なぁ……廃人」
僕の言葉に優衣は、コクリと首を縦に振った。
「そうだよ。医学的に廃人を起こさせるような薬」
自白剤の一種か……。
自白剤は、大脳上皮を麻痺させる効果がある。自白剤を大量に使われたら、廃人も簡単に作れる。
自白剤は、もちろん自白だけでなく、思い通りの言動を喋らせることも、容易だ。優衣が強力な自白剤を持っていたとしても、なんら不思議はない。
「最後だけど、謝る気あるの」
こいつに謝るのだけは、絶対に嫌だ。ただ、謝らないで死ぬほうが、馬鹿だ。
「すまなかった」
優衣は、僕に近づいた。
「もっと違う言い方が、あるんじゃないかな」
ニヤリと優衣は、満足そうな笑みを浮かべた。
「本当に、すまなかった。許してくれ」
心を込めて、謝った。
「やーだよ」
可愛らしく、舌を出して、優衣は拒否する。
「それじゃ、今日の出来事を忘れるような、廃人になってもらおうかな」
ガラス管に入った薬品を数本、瞬間移動で出した。このままだと、まじで廃人になる……。あれを使うしかない。
「優衣、おまえ、幼少期に外国で育っただろう」
当たり前だが、椎名の事前情報では、そんなことは、聞いていない。ただ、優衣の言動等を見ると、普通に日本で暮らしていた日本人には見えない。
「だったら、何なのかな。もう廃人になっちゃったの」
優衣は苦笑を浮かべる。
「おまえ、負けたぞ」
椎名は薬品を数本、落とした。化学反応を起こして、蒸気が上がる。椎名は気絶した。
僕の能力は、イクスペクテイショーン……。
予想が当たり、効果が実現可能であれば、成功する。要は、優衣に関する何かを「予想」して、当てる。
当たった報酬として、椎名に関する実現可能な効果であれば、成功する。
予想が誰にでもわかるものなら、実現できる効果も、かなり制限される。もしも椎名のレアなことを予想して正解すれば、効果も大きくなる。
すなわち、今回の予想は、椎名が帰国子女であることで、効果は、椎名が失神することだった。蒸気が、僕の所まで来た。僕は、次の瞬間に失神した。