対決
優衣が駅員の対応、警察への対応、リベルタに対する報告、すべてしてくれた。
正直、めんどくさい作業は、任せたい。しかし、経緯書だけは書けとの話だった。経緯書を渡して、優衣とは別れた。
僕は、病院に来た。僕は、病室の扉をノックした。僕は、「はい」という言葉を確認して扉を開けた。
病室のベッドに横になっていたのは、俺の叔母さん莢乃さんだった。
叔母さんと言っても、まだ若く、二十九歳だ。
「涼、病気だけには、気をつけて」
莢乃さんは少し咳き込みながら答えた。
「最初から、その話ですか」
ここに来ると、三回に一回はこの話から始まる。
「涼、体は、大事なものなの」
莢乃さんは、真剣な表情で話した。
「それよりも、莢乃さんこそ、大丈夫なんですか? 体は」
僕の質問に莢乃さんは、「もう少し掛かりそうかな」と答えた。
「涼、今の生活、辛い?」
莢乃さんは、優しい声で聞いた。
「全然そんなことないです」
僕は、首を振った。莢乃さんがいなければ、僕は今の生活ができなかったといっても過言ではない。
母親はテロリストに殺され。父親は、女に溺れて蒸発した。行き場のなかった俺を引きとってくれたのが、莢乃さんだった。
莢乃さんが病気で倒れ、僕が、莢乃さんの紹介で、リベルタに入った。
トントンと病室の扉をノックする音が聞こえた。
「涼も来てたんだ」
訪問者は、天條雫だった。雫は優しい口調とは違い、目力が強い。たぶん、前回の件を優衣から聞いてきたのかもしれない。
「新しい子、どうなの?」
莢乃さんが雫に聞いた。新しい子とは優衣だろう。
「どうなの、涼?」
雫は、真顔で俺に振った。なんか、納得いかない。
「俺に聞くのかよ」
「私より、いる時間が長かったでしょ」
確かにまぁそうなんだが……。
「どうかな……。実力は未知数だし……。噂だと、性格もな……」
なんか腑に落ちない部分もあるが、信用できる情報筋からだからな。
「病気の原因は、わかったの?」
雫の質問に、莢乃さんが首を振った。
「間違いなく、向こうが仕掛けてきているのは、間違いないと思う」
向こうとは、イルミナスだろう。リベルタは、政府直轄組織だが。逆にイルミナスは、警察の特殊部隊だ。
イルミナスが、莢乃さんをこんなにしているなら、絶対に許さない。
「証拠がないし。逆に、何がしたいんだ」
そこらへんが、よくわからない。
「武力を振える組織が二つあることが、気に食わないの。あと、昔に戻りたいってこと」
珍しく雫は、熱く語った。
「昔も今も、変わんないんじゃないのか」
普通に逮捕するし。最先端の技術で、検挙率も凄い高い問題あるのか……?
「今は、警察は、緊急逮捕を除いて、全部、政府機関が許可しない限り、逮捕できない。検察も同じく、許可しない限り起訴できない。政府の犬になってしまっているのよ」
雫は、真剣な表情で答えた。
「その状況の中で、政府にも類似した権限を持った組織が誕生したら、不快に思うでしょ」
何か納得した部分もある。
「それに……」
莢乃さんが、重い口を開いた。
「警察は、半分は諦めているわ。能力者一人を捕まえるのに、一人は、死ぬと言われている。警官になりたいと思う人間は、いなくなっているのが実情よ」
莢乃さんが言っているように、警官になろうとしている人間は、ほぼいなくなっている。
「警察の考えていることは、犯罪組織化させることなの。昔のやくざのようにね。それを私たちは、防がなくてはいけないの」
莢乃さんの言葉は、重く冷たかった。
「警察の考えている狙いは、犯罪組織のトップと関係を持ち、治安を安定させる。もし、能力者が犯罪行為を行ったら、犯罪組織が、その能力者を始末する仕組みよ」
雫が、冷静な口調で答えた。
俺は、病室を出た。それにしても警察が、そんな策略を考えているなんて……。
階段を降りて、自分の靴を取り出した。誰かに肩を叩かれた。
「これ、本気で言っているの」
優衣が、怒りを堪えるように書類を指さしている。優衣から、書類を取った。書類は、経緯書だった。
「どこが、問題なんだ」
誤字脱字は、ないし。事実をそのまま書いただけだ。
「ここだよ」
優衣は、経緯所書の一部分を指差した。問題は俺が立ち上がり、能力を使った箇所だ。
「銃を撃てないようにしたところだろ」
【予想】銃で、俺を狙うとした所だ。イクスペクテイショーンの能力で、銃は撃てなくなった。
「だから、どこが問題なんだ」
何が、問題なのか、全然わからない。
「君の能力は、予想したことが違えば、能力は発動しない――で間違いないんだね」
優衣は、俺に確認するように、聞いた。
「ああ、間違いない」
俺の答に、目つきが一層、鋭くなった。優衣は、引き攣った笑顔で質問した。
「じゃあ仮に、私が犯人に撃たれたら、どうなるの?」
「まぁ、撃ち所が悪ければ、死ぬわな」
当たり前の常識だ。
「君、私を嘗めているね」
いや、嘗めてはいないが……。優衣の怒っている理由。それは、犯人が椎名を狙った場合、優衣が撃たれる展開だろう。
優衣が、ニヤリと笑った瞬間に、場所が替わる。優衣の能力だろう。
場所、人物、道具など、条件さえ揃っていれば、移動できる。優衣の能力は、移動系のようだ。
「私と戦って勝ったら、許してあげる」
優衣は、「どう?」いい条件でしょと言わんばかりの表情だ。
「負けたら」
僕は、念のため、確認をする。
「そうだね。考えていなかったけど、まず、謝ってもらおうかな。誠意が感じられなければ、拷問して、泣きながら、百回でも千回でも謝ってもらうね」
満面の笑みで、答える。聞いてはいたが、こいつ、マジでやばそうだ。まぁ、後々わかるよりも、今わかったことはよかっただろう。
「遺言は、それでいいな」
椎名がこの戦いで、死を覚悟しているのかを、確認した。最悪、殺さなきゃいけない。
「君の遺言かな」
一瞬の迷いもなく椎名は答え。僕は、胸のポケットからHi―CAPA5・1を抜いた。