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電話

「ゴメン。急に電話して」

 僕は、碧に電話をした。

「どうしたの?」

 碧の声は、泣いているように聞こえた。

「ニュース、見た」

「うん。私、人間じゃないんだって」

 碧は、ボソッと呟くように、喋った。やっぱり碧は、知っていたのか……。ファルセダは、単純に欲望のためだけに使われる事例もある。差別されやすい。

「今、生きているんだから、人間だ」

「おかしいと思ったんだ。私の名前を七海って間違える子、多いいし。私、以前に友達だった人を覚えてないし」

 これじゃ、七海の思い通りだ。

「今から、覚えればいいじゃないか」

「ごめんね。黒木くんのことも覚えてなかった」

 碧に謝られると、少し、心が痛んだ。

「西尾さんは、悪くない。これから、覚えてくれれば」

「うん。わかった」

 碧は可愛らしく返答した。

「何か、他に不安はある?」

「お父さんが、逮捕されるかもしれないらしいし。私、わたし。どうしたらいいのか、わからない」

 確かに、碧の言うとおり、父親は、逮捕される可能性はある。

 そうか。七海は、報道によって自分がすぐに見つかるというリスクを背負う代わりに、碧のプライドと父親の面子を潰しに懸かったんだ。

「僕が、なんとかする」

 碧の家には、報道記者がたくさんいるはずだ。この状況で、七海が碧を拉致できる可能性は限りなく低い。

 七海は、今度は、誰を狙うんだ。碧の知人? それとも、親戚?

 なぜ、七海は、兄の潤を交渉材料にしなかったんだ。碧を拉致できる自信があるのだろうか。

「容疑者が全員、死んでいるし。確固たる証拠がないわ。通常であれば、西尾健一の有罪は無理でしょうね。自白がない限り」

 健一とは、碧と七海の父親だ。胸くそが悪いが、仕方ないのかもしれない。雫は、哀しそうな声で言った。雫が言っているのなら間違いない。法律には詳しいし、人の心を読み取れる能力がある。

 ただ、雫の言った「通常であれば」という文言が気になった。

「何か、例外があるのか?」

「七海の属している組織は、警察よ。やろうと思えば、捏造でもなんでもできるわ。起訴するかは、検察の判断だけど」

 雫の言うとおり、七海も同じ考えかもしれない。

「それ以前に、私が、気になっているのは、七海の今後よ」

「どういう意味だ」

 俺は、雫に質問した。

「ここまでの事件を起こした人間を、イルミナスが雇うとは思えない。七海は、ここまでのリスクを背負ったのかしら」

「捨て身だったんだ」

 碧と父親を心をズタズタにしたかったんだろう。

「そうかしら。イルミナスにいれば、未来は保障された。強引にやれば、父親を逮捕できたかもしれない。その権利を捨ててまでやる必要は、ないはずよ」

「何が言いたい」

 七海が権利を捨てたのは、事実のはずだ。

「私は、捨ててないと思っているの」

 雫は、自信のある声で言った。

「馬鹿を言うな」

 テロリストを雇う警察が、どこにいるんだ。

「だけど、そう考えると、辻褄が合う」

 確かに、警察に属し、碧と父親の心をズタズタにできれば、七海としては本望だろう。

「辻褄は、合うかもしれないが……。すまんが、また電話する」

 僕は、電話を切った。

 七海が、この事実を報道機関に言った理由は、容疑者が全員、死亡していて、父親を有罪にできる可能性が極めて低い状況が要因の一つだろう。

 ただ、次の狙いがわからない。こっちから打って出たいが、居場所がわからなければ、どうしようもない。

 くそ……。ただ、電話だけなら、できる。僕は、碧に電話した。

「ごめん。こんな夜遅くに」

「わたしこそ、ごめんなさい。さっきは取り乱したりして」

 碧は、泣いてはいないが、普段通りの口調とは、ほど遠い。

「報告したいことがあるんだ。いいかな」

 俺の質問に、碧は「うん」と答えた。僕は、力強く言った。

「碧のこと、僕が必ず守る。だから、安心してくれ」

「黒木君、そんなこと言って、恥ずかしくない」

 碧は、少し笑いながら、ひやかした。

 碧の問いに「ゴメン」と謝った。格好つけすぎたか。

「ううん。なんか力が出てきたみたい。ありがとう。安心して、ここにいるよ」

 碧は、さっきまでの落ち込んだ口調とは違く 僕が電話を切って数秒後。七海から電話がかかってきた。なぜ、非通知じゃない? それ以前に、なんの電話だ。

「何の用だ」

 僕は、単刀直入に言った。ただ、何も返事がない。

「もう一度、聞く、なぜ電話してきた」

 俺の問いに、プッと七海と思われる笑い声が入った。七海の狙いが皆目わからない。

「何がおかしい」

「涼くん、ほんとに鈍いよ」

 誰の声だ? この声は七海ではない。

「私の気持ち、最後まで全然わかってなかったね」

 聞き覚えのある声だが、誰かは、わからない。僕は「誰だ?」と聞いた。

「私の声まで、わからないんだ」

 声の主は、呆れた口調だった。

「優衣だよ。あとは頑張ってね」

 優衣は優しい口調で答えた。

「諦めるな。能力を使え」

「使えたら、使っているよ」

 なぜ、優衣は、能力を使えないんだ……。

「たっぷり、いたぶって殺してあげるから」

 七海の凍るように冷たい声と同時に、電話は切れた。すぐに僕は、雫に連絡を入れた。

 雫とは、連絡が、つかなかった。謎だらけだ。なぜ、雫は、電話に出ない。それ以前に、優衣は、なぜ、能力を使えなかったんだ。

 たぶん、優衣は殺されているだろう。

 雫に電話してから、二〇分後、雫から電話があった。

「椎名が拉致された」

 僕は、雫に優衣が拉致された事実を伝えた。

「優衣は、無事よ。ただ……」

 僕は、ホッとした。

「隼人君が」

 なぜ、隼人の名前が出るんだ……。

、普段の口調に戻っていた。


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