飛行機の窓
潤は、学校からの帰りの途中で、拉致されたらしい。腹部を刺され、血だらけの状態だったらしい。殺すわけでも、生かして身代金を獲るわけでもなさそうだ。
じゃ、なぜ、そのような事件を冒したのか。僕には、見当つかなかった。
一つだけいえることは、碧が危ない……。僕は、優衣に土下座した。
「頼む、椎名。碧の所に連れてって」
「こういうときだけ私を頼るんだ」
優衣の顔は引き攣り、僕は頭を下げ続けている。
「お願いです」
「どうしようかな」
悩んだ振りをしている素振りだった。
「頼みます。なんでもしますから」
僕の言葉に優衣は、「今ので決めた」と答えた。
「絶対にヤダ」
優衣は真顔で拒否した。僕は、必死になって説得した。
「何故だ。同僚が困っているんだぞ。助けてくれるのが、仲間だぞ」
「だって、破ったの涼君だよ」
優衣の言っているのは、奴隷契約のことだろう。僕は、必死に謝った。
「僕が、悪かった。だから、頼む」
「わかった。今度は、一日一個、私の言うことを聞くという条件はどう。つまり、一日一回、下僕」
優衣の下僕という発言に、ビクリとした。たぶん今度また破ったら、何をされるかわからない。
「わかった。飲むよ」
僕の言葉の三秒後、場所が変わった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
女性の悲鳴声が聞こえた。
移った場所は、女性トイレだった。僕が空港の警備員に連行された事実は、言うまでもない。
超、酷い目に遭った。正直、泣きそうだ。
優衣が事情を説明しなければ、警察沙汰。最悪リベルタ解雇だった。僕は、優衣に聞いた。
「何故、こんな酷い仕打ちした」
「一日一回、下僕」
僕の耳元で、囁いた。
「こんなのが毎日、続くのか」
たぶん、いつか本当に逮捕されるんだろうな……。
「いい子にしてれば大丈夫だよ」
ニコヤカに答える。いい子とは、人によって感じ方が違うだろう。
「おまえの、いい子の基準がわからない」
「私がいい子って思ったら、だよ。何も逆らわないことだよ」
優衣のいい子とは、下僕だろう。今すぐに逃げ出したい……。
「奴隷と同じじゃないか」
「いい子にしてれば、優しくするよ。だけど……」
なんか、嫌な予感がする。優衣は、ニコヤカな笑顔で答えた。
「悪い子だったら、調教するよ」
「碧ちゃんいたね」
確かに優衣の言うとおり、休憩所あたりにいた。
「だけど私たちの勝ちだよ。この状況で、拉致とか、無理がある」
優衣の指摘は、正しい。これだけの人がいる中で、拉致とか、無理だ。兄の潤を拉致して何をするつもりなのか?
「碧の兄の件が気になる」
「きゃあああああああああ」
空港のロビーから大きな悲鳴が聞こえた。悲鳴の主の目の先には、飛行機窓には、血がべったりついていた。
窓ガラスには、両目が剔られた状態だった。右腕が大火傷、左腕が切断された潤の死体があった。




