呼び出し
今日は、碧の転校日でもある。優衣の嫌がらせが起きないことを祈りたい。碧は、アメリカに、転校する。殺されるよりはマシ、という理由か。
「二年A組、黒木涼さん、至急、生徒会まで、来てください」
一瞬、僕の頭に、優衣の顔が浮かんだ。
昼休みに、生徒会から。呼び出し!!
無遅刻、無欠席。成績も、呼び出されるほど悪くはない。呼び出される理由が全然わからない。
「あの人だよ」
「えー。びっくり。顔は普通なのに」
「ナルシストってやつ」
急いで廊下を歩いている最中に、何度も笑われた。
かなり腹が立つ内容も、多かった。
僕は勢いよく、生徒会のドアを開ける。正面には、奈那が座っていた。奈那が少し、驚いた表情を浮かべた。
「奈那、どういうことだ」
「まず、この手紙を読むから、聞いてほしいのですが、よろしいですか?」
手紙……。一瞬、戸惑いながらも、仕方なく話を聞く。奈那が手紙を読み始めた。
「突然の手紙、びっくりしたかい、ハニー」
出だしから、かなりきつい内容だ。
「君の視線、毎日ありがとう。僕も、ハニーのこと、好きだぜ。現代の最高の楽園。あ・き・は・ば・ら、行こうぜ」
手紙を書いた人間は、秋葉原が、好きらしい。
ハニーって……。こんな呼び方する奴、いたのか。
「弁解は、ありますか」
奈那は、疑い深そうな目付きで、僕を見ている。僕は、正直に答えた。
「これを考えた奴は、天才かもな」
「まだあります」
奈那は抽斗から手紙を取り出した。
「こんばんミー! カッコ手紙を出したときは夜ですカッコ閉じる」
こんばんミーとは、この手紙を出した人間の挨拶だろう。
「我輩のすべての技術は、最高である。どんな奴でも、目視できない。スピードも時速一〇〇キロ。我輩にぶつかったら、交通事故を起こすである。我輩は、二年以内に、結婚してくれ」
一人称が、我輩……。時速一〇〇キロって、人間じゃ、無理だろ。あと、十八歳以上じゃないと結婚できないはずだ。こいつ知っているのか、不安だ……。我が輩口調の人間なんて、一人も知らないが。
「我が輩口調の人間が、この手紙の主なのか」
「これを聞いてくれたら、たぶん、わかります」
奈那は、もう一枚、抽斗から手紙を取り出した。
「こんばんミー」
また、その挨拶かよ。
「我輩の名前は、黒木涼。スポーツも勉強もできて、もてまくり。我輩の告白なんて、世界の三十億人の頂点になれるぞ」
付き合っただけで、頂点って。こいつ、ものすごい勘違いヤローだ。ていうか、黒木涼……。
「僕じゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ありえない。僕は、こんな手紙なんか書いていない。誰かの罠……。優衣の仕業か。
「今、気づいたんですか……」
少し驚いた表情で、奈那が喋る。
「当たり前だ」
僕は、強く拒否をした。ヤレヤレといった表情で、奈那が頭を抑えた。
「相当な恨みを買っているようですね。生徒会として、何かお手伝いをしたほうがいいですか?」
奈那も優衣の報復を受ける可能性がある。しかも、奈那に頼むと、後で何をされるか、わからない……。僕は、奈那に気を使った。
「犯人は分かっているから、こっちで何とかするよ」
「そうですか。黒木君、気をつけてくださいね。でも……」
奈那は笑いを堪えながら話をした。正直、奈那の「でも」が気になる。
「でも、なんだ」
「私以外にも、こんな手紙を書くなんて」
優衣のやり方は、奈那以上だ。もう、やばいなんてものじゃない……。
ありえない思いをした。疑いは即座に晴れたが……。気分は凄く悪い。
五時間目は、体育の授業だ。僕が校庭に行こうとすると、テルが話しかけてきた。
「災難っだったな」
「ああ。しかも、今後も厄介に巻き込まれそうだ」
優衣が、絶対にこれで終わりにするとは、とうてい思えない。テルは不思議そうな眼差しで僕を見ていた。
「なんでそんなことが、わかるんや?」
「なんとなく、だよ」
優衣に恨まれているとは、今はいえない。テルは、疑り深そうな眼差しで僕を見た。
「さては、優衣ちゃんやな」
「いや……。なんのことだかな」
僕は、惚けた。テルは、ニヤリとした感じで話した。
「惚けても無駄やで。声が裏返っとる」
「ほんとうだ」
僕は、靴箱を空けながら喋った。靴箱には手紙が中に入っていた。手紙を取り出すと、送り主は、碧だった。
僕は、手紙を、取り出して読んでみた。
「黒木君、びっくりしたよ。だけど、告白ありがとう。嬉しかったよ。でも、ごめんね」
好きでもない碧に告白したことになり、挙句の果てに、振られるとは。落ち込んでは優衣の思う壺だと思うが、さすがの僕でも、これは落ち込む。
手紙には続きがあり、
「PS・この間は、ありがとう。今日でさようなら」という内容だった。
くそこんな別れ方するなんて最悪だぁぁぁぁぁぁぁぁ。
僕の携帯が鳴った。雫からだった。内容は、碧の兄である潤が誘拐されたという物だった。




