仕返し
リベルタの本部に、僕と優衣はいた。優衣は、僕の机にゆっくりと、お茶を置いた。
「喉が渇いたでしょ。お茶」
お茶の温度も八〇℃くらいで、僕の好みだった。優衣の目付きは優しい目つきになっている。しかし……言わなくてはいけない。
「椎名。この奴隷契約なるものは、無効だ」
隼人から聞いてわかったこと。
「死にたいってこと」
優衣の目が怖い。確かに、助けてくれた恩はある。優衣の前に六法全書を置いた。
「この契約は、民法九〇条の公序良俗違反だ」
「約束に対して法律を武器にする人、嫌いだな」
優衣の言っている言い分も十分に理解できる。
「しかし、奴隷契約はやりすぎだ」
僕の言い分も理解してほしい。優衣は、真剣な表情で答えた。
「涼君の話を聞くよ」
「僕が、言いたいのは、この条文だ」
民法九〇条を指差した。
「公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とす……これ、どういう意味」
優衣が考え込んだ。
「要は、人を殺したりする契約は無効という意味だ。当然、この奴隷契約もな」
僕の言葉に、優衣は、びっくりし、悲しい顔をした。
「女の子を騙したのね」
「お前が悪い」
自業自得という奴だ。
「涼君、最低だよ」
僕に優衣は、パチンとピンタし、走り去ってしまった。
「涼、少し言い過ぎでしょう」
雫が俺の肩を叩きながら言う。
「言い過ぎじゃないだろ。明らかに、こっちが殺される」
殺されなくても、それに近い仕打ちはされる。
「私には、関係ないけど、たぶん、すごい仕返しされるよ」
真衣は俺の耳元で囁いた。雫の言葉に僕は、ゾクッとした。
僕は次の日、教室にいた。今日は、色々しなくては、いけない。優衣の仕返しは、頭から忘れ去りたいが、絶対に仕掛けてくるだろう。
「色々と大変だったで。涼」
疲れきった表情で、テルは話した。僕は、テルに頭を下げた。
「すまない。巻き込んで」
「やめて、関係ないの」
優衣の声が聞こえ、テルは、驚いた表情をしている。
「まさか、優衣ちゃん? 助けに行くで。涼」
確かに、他の女子なら、助けるかもしれない。しかし、優衣はそんな華奢ではない。
「大丈夫だろう」
相手が男なら、戦闘不能になるまでボコボコニするだろう。逆に相手の心配をしたほうが良さそうだ。
「絶対に許せない」
野太い男の声が聞こえる。こんな男と優衣が揉めている。幸運かもしれない。朝は、これで優衣は、何もできないはずだ。
他の男とも仲が最悪になるとは、ご愁傷様。優衣の自業自得だけど……。
バターンと教室のドアが、強引に開いた。
「黒木涼はいるか」
野太い男の声が聞こえる。声の主を見ると柔道部のエース飯倉統がいた。統に向かい、僕は答えた。
「僕だけど」
「おまえか、優衣ちゃんを泣かせたのは」
統が、俺の襟を掴む。統の力は強く、息ができない……。
「やめてあげて。私が悪いの」
優衣が止めに入る。統は、俺の襟を放した。
「そうだ。こっちが被害者だ」
絶対に俺は、間違っていない。
「ひどい。ひどいよ」
優衣が泣いてしまった。
「泣かないで優衣ちゃん」
心配そうに、統は慰める。
「黒木君がしたいこと全部させてあげたのに。私との関係は法律上、ないと言うのよ」
泣きながら統に優衣が言う。教室内の女子たちの目が「最低、黒木君」と言っている。
「こいつが、馬鹿なだけだ」
統が言うこいつとは、僕のことだろう。
「おまえらだけには、言われたくないがな」
僕の言葉に優衣は、頷いた。
「その通り、一番馬鹿なのは、私」
優衣は、涙を拭い、統を見る。優衣の姿は、端から見れば、どう見ても可愛げな少女が男に騙されたようにしか見えない。
統はブルブル震え、怒り堪えていた。
「お前だけは、許さーん」
統の拳が俺の顔を捉えた。




