奴隷契約
トントン指で、僕の額を叩かれた。
「早く起きてー」
僕が起きたら、優衣がいた。助かった。でも、優衣には、僕がこの場所にいることを知らせていない。
「なぜ、この場所がわかったんだ」
「これだよ」
優衣は、何かを取り出した。土に汚れた写真を見せた。笑顔の優衣の写真だ。
「念のため、仕込んでおいたんだよ」
「それがどうした」
優衣の笑顔の写真なんて、どうでもいい。
「それがなんだ、じゃないよ。私は、私自身の写真があるところなら移動できるし。何があるかも識別できるっていう能力なの」
優衣は、ニコリと笑った。
「助かったー」
そうか。優衣は、優衣自身の写真があれば、どこでも移動できる能力だったのか。
「すまん。ここから、出してくれ」
さすがの優衣でも、助けてくれるだろ。
「やだよ」
優衣は、可愛らしい笑顔で、僕を見た。
「えっ……。助けに来たんではないのか?」
何のために来たんだよ。満面の笑みで、優衣は答えた。
「うんうん。死ぬのを、見届けに来ました」
「なんだって」
嫌がらせにも程があるだろぉぉぉぉぉぉぉぉ。
「黒木くん。黒木君。死なないで。私たちだけ助かるなんて、嫌だよ」
碧の声が聞こえてきた。三階まで聞こえる。たぶん、拡声器等を使っているのだろう。
「すまん。俺は、ここでは死ねない。碧を助けたいんだ」
必死に懇願する。
「もう、しょうがないな。私も人の子だから、助けてあげる」
優衣は「仕方がない」といった表情だ。
「わかってくれたのか。ありがとう」
椎名は、優衣自身の携帯を取り出した。何かしている。
「これで、満足でしょ?」
優衣が見せたのはメールだった。
「メールアドレス、変えました。僕、死にます。最後におっぱいを、揉ませてください」
最低なメールだ。死にたい。
「馬鹿。死んじゃえ。変態」
碧の怒ったような声が聞こえ、優衣は僕の前で手を合わせた。
「涼君、これで、心置きなく逝けるね」
「優衣、お前は人間じゃない。鬼か悪魔の子であることは間違いない」
これは、事実だろう。僕の言葉に、優衣はムスッとした表情に変わり、プイッと横を向きながら答えた。
「じゃあ本当に死ぬでいいんだね」
「死にたくない。死にたくないです」
涙ながらに答えた。
「最後のチャンスだよ。私の言うこと何でも聞くなら許してあげる」
くそ、絶対に優衣の言うことは、聞きたくない。でも……。
「わかった聞くから。助けてくれ」
「契約書を書いてね」
優衣は俺の前に契約書を置いた。しかも、この契約書は三行しかない。
『一。私、黒木涼が、リベルタでは、ボランティアであり、金銭その他を一切、要求いたしません。私の給料は、椎名優衣様に口座に振り込みます』
納得いかないが、生きるためには仕方ない。
『二。私、黒木涼は、椎名優衣様の奴隷であります。この下僕の意味は、リベルタ内だけではなく、学校内及び私生活でも、奴隷であります』
奴隷制度なんて、今時……。優衣の奴隷になるなんて。くそっ!
『三。私、黒木涼は、椎名優衣様に絶対に逆らいません。椎名優衣様に死ねと言われれば死にます』
僕には、生きる権利すらないのかぁぁぁぁぁ!
「私も人の子だから、これにサインすれば、許してあげるよ」
飛び跳ねるかのような明るい声と、会心の笑顔を、優衣は僕に見せた。
「もはや、人の子ではないだろーーーーーーーー」
僕の絶叫が響き渡った。




