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「私も、ファルセダなんだよ」

 七海の表情からは、嘘を言っているようには見えない。でも、ファルセダができたのは三年ぐらい前のはずだ。

「なんだって」

「十年前、交通事故で、西尾七海は死んだ」

 十年前では、ファルセダができてない当時だ。矛盾する。

「ファルセダは、治験であれば作ってもらえる、ということだったの。西尾七海の父親や母親は、七海のDNAを研究所に提供した。治験って言っても、今みたいに万能の技術じゃなかったから、百人中の九十九人は死んだ」

 七海は辛そうな表情を浮かべた。僕は、確認のために聞いた。

「百人も作って、生き残ったのが、お前か」

「そういうこと。しかも、性格なんて、設定できなかった」

 七海の辛そうな表情は変わらない。

「しかも、私を殺そうとした。不良グループが乱暴目的というストーりーにしてね」

 あの事件は、七海の親が起こした。

「証拠はあるのか。七海の父親たちがやった証拠は」

 確認する。なければ、こんな真似をする意味はない。

「ないわ。ただ、二度も命を狙われた。涼が救ってくれたテロの時、不良グループの時、と二回も命を狙われたわ。そんな偶然あると思う」

 七海は、僕を真剣な眼差しで見た。七海の思い込みの可能性もある。

「証拠がないんなら、おまえの親がやったかわからないじゃないか」

「証拠はないといっただけ。確証はあるわ。だって、涼に入れた留守番電話の後、男たちに、言われたもの。父親に頼まれた、ってね」

 僕は、七海の言葉に右手が震えた。

「ついでに、これも見せてあげるよ」

 ジャケットの右袖を捲った。見えたものは、無数の切り傷と痣だった。僕は、無性に気持ち悪くなった。

「実の娘を殺す奴がいるなんて」

 僕の言葉に七海は、「実の娘ではないんだけどね」と答えた。

「七海、お前は、何がしたいんだ」

 まだよく七海の目的がわからない。

「あの事件が起きてから、私は変わった。決心したの。あの人たちが大事にしたいものをグジャグジャにして差し出す」

 グジャグジャにした碧の死体を、両親に差し出すつもりか。僕は立ち上がり、説得するように、優しい声で話した。

「お前は、僕の知っている西尾七海のはずだ」

「はぁ、何を言ってんの、三流役者になったつもり」

 七海は笑いながら答えた。

「お前は、事件が起きてから変わったといった。要は、事件が起きる前、お前は、演じる必要なんて一切なかったはずだ」

 学校内では、いつも笑顔だった。あれは、演技ではないはずだ。

「くだらない」

 七海は、ぶっきらぼうに答えた。

「くだらなくなんて、ない。少しドジだけど、勉強もスポーツもできて、皆の憧れだった。それが、七海、お前だったはずだろ」

 事件前も演じていたなんて言わせない。僕の言葉と同時に、電気が復旧した。

「大爆発」

 七海は、目を瞑りながら、呪文のように喋った。

 何かの能力か? 予想崩しを使って、右に避けた。

 ドカーンと床下から爆発が起きた。

 辺りは、一瞬にして炎に包まれた。このままだと、テルたちが危ない。

 僕は携帯を取り出し、テルに電話をした。

「最後の電話?」

 七海は仕掛けてこない。余裕なのだろうか。

「すまん、テル。すぐエレベータに乗れ。全員を乗せて降りろ」

 僕には、狙いがある。

「わかった。信じる。絶対に帰って来い」

 力強い言葉で、テルは返した。 

「馬鹿じゃないの。殺してくださいって言っているようなものでしょうが涼。あなたの前で、あの子たち全員を殺してあげるよ」

 エレベーターが動き出した。

「これで、終わ……」

 七海の言葉が止まった。

「お前は、絶対に、この場で殺せない」

 なぜなら、碧たちをこの場で殺してしまえば、誰が誰だかわからなくなる恐れがある。七海は、碧のグジャグジャな死体を親に見せたいと言っていた。この場で殺すのは、リスクが大きすぎる。

 それに、奈那もいる。七海に奈那は殺せないと僕は、思った。

「げんえん」

 げんえんって、なんだ?

 クソ。わからん。イノベーションで「能力で攻撃してくる」と予想し、効果は「後ろに下がれば当たらない」とした。

 僕は、後ろに下がった。

 僕の前には、禍々しい、黒い炎が発生した。なんとか、躱せた。

 しまった……。この炎はカムフラージュで、七海たちを、殺しに行く気か?

「残念。外れだよ」

 黒い炎の中から、七海が現れた。

 僕は一瞬、身構えるのが遅くなった。空手黒帯の七海の拳が、僕の顎を捉えた。

 僕は、よろめいて倒れた。七海は、倒れた僕に馬乗りになった。

 げんえんとは多分、幻の炎で、げんえん。その意味どおり、幻の炎で、何も燃やさない炎という意味か?

「最後に聞くけど、仲間にならない?」

 七海は、真剣な表情だ。

「ふざけるな。お断りだ」

 殺人犯の仲間なんかに、なるものか。

「やはり、私の味方には、なってくれないんだね」

 七海は、悲しい表情で答えた。

「僕は、犯罪者にはなれない」

 母親を殺した人間は、簡単に言えば犯罪者だ。同じ犯罪者には、なれない。

「電話にも出なかったけど。碧は、助けるんだね。あの時、涼が助けてくれていれば、こんな事態にはならなかった」

 泣きながら答えた。

「すまなかった。ただ、仲間にはなれない。犯罪者にはなれない」

 何を言われても犯罪者にはなれない。

「そう。残念」

 僕はイノベーションを使った。

 七海は、僕の顔面を何発も何発も殴った。

「何か最後に言っておくことは、ある? もう喋れない?」

 笑いながら、七海は、僕に質問をする。でも、僕には、勝算があった。

「七海、お前、嵌められたぞ」

「死ぬ間際になって、頭が狂った?」

 七海の笑い声は、変わらない。

「僕の仲間の応援を呼んだ」

 真剣に俺は、言った。

「仲間がいる、と?」

 七海は、僕に質問をする。

「リベルタって組織は知っているだろ。それが僕の組織だ」

 僕の言葉と同時に、ちーんというエレベーターの音が鳴った。

「誰も乗っていない? エレベーターの陰に隠れている。念には念を入れようか? 電撃地獄」

 エレベーターに、電撃を流した。

「地獄に堕ちてしまえばいいよ」

 僕は、さっき使ったイノベーションの能力で、力が抜けている七海のマウント・ポディションから脱出した。

「七海! 目を覚ませよ」

 僕は七海に銃口を向け、質問した。

「俺は、七海が能力を使って攻撃してこないと予想して、効果はその攻撃を喰らっても、十分間なら耐えられるとした」

 エレベーターは、来ると思った。テルたちは、なぜエレベーターを攻撃してこないのかわからないはずだ。

 僕のいる三階にエレベーターを送る可能性は、充分にある。

 これも一種の賭けではあったが……。さらに七海の質問は続いた。

「なぜ? 私が能力を使わないと思ったの?」

「七海。お前は連続して能力を使えない、と思ったからだ。岩を発生させたときは、碧たちを逃がした。幻炎を起こした時は、打撃で僕に攻撃を仕掛けてきた。連続して能力を使うには、時間制限がある。違うか?」

 この論理は、間違いないはずだ。もうそろそろ、能力が使える頃だろう。せめて、僕の手で、七海を……。

「それ、ほしいね」

 次の瞬間、七海の体が消えた。床に土があった。

「死んだのか」

 自殺した。それとも、口封じなのか。

「勝手に殺さないでよ。つ・ち・じ・ご・く」

 耳元で、七海の声が聞こえた。

 床から、人間一人分が埋まるぐらいの土が発生した。僕は顔だけ土から出て、下は生き埋め状態になった。

 七海は、連続して二回も能力を使った。僕の読みが外れたのか。

「連続して能力を使えるのか」

 僕の質問に、七海は首を振り、真剣な表情で質問した。

「ロスト・チルドレンって、知っている?」

「なんだ、それは?」

 映画名か? それ以外なら、聞いた記憶すらない。

「ほんとに、リベルタに入っているの?」

 七海は笑いを浮かべた。

「最初にファルセダになった人間は、人体実験を受けされられていたんだよ。だから、能力も二つ以上、持っているの」

 そうか。だから、脱出できたのか。

「くそっ……。二つ能力があるのか?」

 反則だろ、そんなの。

「もう死ぬ間際だし……。私は、犯罪者にはならない」

 七海は、自信満々に答えた。

「ふざけるな。これだけの犯罪を犯せば、間違いなく大罪だ」

 死刑にならないなら、百歩譲って、まだわかる。だが、犯罪者にはならないは、理解しがたい。

「私、イルミナスのメンバーだもの」

 七海は、僕の耳元で囁いた。 

「ここまで梃子摺らせた罰。最後は、焼かれて死ねばいいよ」

 七海は、液体をハンカチに染み込ませ、僕の鼻と口元に当てた。少しすると僕は、意識を失った。

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