サングラスの男
これ以上の最悪の出会いは、ないかもしれない。ただ、碧に殴られて、すっきりした気分になれた。なぜか立ち直れた気分がした。
「黒木君、待ってー」
碧が手を振りながら、僕に向かってきた。
僕を思い出したのか。それとも、また殴りにきたのか。前者は、絶対にありえない。後者なら、勘弁してほしい……。
「西尾さん。どうしたの?」
殴られる可能性があるため、少し僕は身構えた。会って二回目という設定なのだから「碧」と呼び捨てにするのは馴れ馴れしすぎる。
「北﨑君から聞いたよ。あの手紙、黒木君が書いたんじゃないんでしょ。ごめんね」
碧は、両手を合わせて謝った。
ナイス、テル。
正直、誤解が解けたのは、この上なく嬉しい。
「気にしてないから、大丈夫だよ」
すごく気にしていたが、碧に気を使わせても悪いので、嘘をついた。
「ほんとに」
碧は、「よかった」と言わんばかりに、喜びの笑顔を作った。
「嘘ついても、しかたないから」
僕は碧を気遣った。
友達なのだから、これぐらいの気遣いは普通だろう。
「でも、なんで黒木君のことだけ忘れていたんだろう。そんなに私と仲良くなかった」
碧は不思議そうな顔で、考え込む。
「僕もあまり、西尾さんの事情よく知らないよ」
仲が良かったと言ってしまえば楽だ。しかし、僕が七海を救えなかった事実を知った時の碧の反応が怖い……。
「そうなんだ。今度から仲良くしてね」
碧は、飛び切りの笑顔で僕を見る。
「こちらこそ。よろしくお願い」
僕も笑顔を返した。
「そうだ。黒木君、明日は暇かな」
碧は、ポンと両手を叩いた。
「暇だよ」特に用事はない
「よかった。明日、友達と水族館に行く予定なんだよね」
跳ねるような明るい声で、碧が喋る。
「僕も、魚とか海の動物は好きだよ」
僕は、碧が話しやすいように話を合わせた。
「わたしも、わたしも。よかったら明日、水族館に行かない?」
碧は、断らないでねと不安そうな瞳で、僕を見た。
「ぜひ、お願い」
僕の言葉に、夏海は笑みを浮かべる。こんな早く、碧との関係を修復できる機会が得られるとは思わなかった。
「最後にメルアド交換しよ」
以前ちゃんと交換したはずだけど、どうせ奈那あたりが、僕のデータを消したんだろう。
今の、僕の情報を、携帯電話の赤外線で送る。
「このメールアドレス……」
碧は、言葉が詰まった。以前の僕とのやりとりが、わかったのか。
「黒木くん、だったんだね。このメール」
碧の携帯を見た。
都合よく、僕への碧の送信メールは、すべて消去されていた。
しかも、僕のメールの内容も「今から行く」とか「待っててね」等のメールばかりがある。
これじゃ付き纏いと勘違いされる。
「今日のメール見て」
今日、碧にメールなどは送っていない。
今日……。 まさか……。
そのメールは、PCのWEBメールだった。IDとパスワードがわかれば、誰でも送信できる。
「こんばんみー」
また、その挨拶かよ。そんな挨拶は流行らんぞ。
「明日深夜二時、碧ちゃんの家に行くね。待ってね、ホルスタインちゃん☆PS。ホルスタインの意味は、自分で調べてね」
碧を牛扱いとは、これも最低なメールだ。
「馬鹿にしないでよ。この変態ストーカー」
また碧の拳が僕を捉えた。僕は、よろめいて倒れる。
「私、ホルスタインの意味ぐらい知ってるよ」
碧……。そっちかよ……。
碧との関係は、修復できないどころか。修復は、不可能なほどに、拗れてしまった。
碧は、急いで、走り去る。すると、碧が、転んだ。顔は、赤くなっており、息切れしている。
なんでこんな状況が起きたんだ。すぐに救急車を呼ばないと。僕の後頭部に何かがあたる。
後ろを振り向くと、僕に拳銃を突きつけた、サングラスを掛けた男がいた。




