危険な女の子
間違いなく、七海の死体だった。僕が、七海の異変にさえ気づいていれば、こんな状況にはならなかったかもしれない。
くそっ……。
僕は学校すら、二日も休んだ。リベルタにも行っていない。メールが数件入っていた。奈那からのメールが気になり、開いてみた。
「人殺し」
と三文字、書いてあった。事実、奈那の言うとおりかもしれない。
ピンポーンとインターホンが鳴った。僕は、「はい」とインターホンに出た。
「わたし」来訪者は、雫だった。マンションの鍵を開けた。
「なぜ、リベルタに来ないの? なにか不満」
雫は優しく丁寧な口調で、質問した。
「ただ、調子が悪いだけだ」
僕は、微妙な嘘をついた。二日間、事実ほぼ何も食べてない。
「じゃあ、治れば、すぐに来るのね」
雫は、僕に確認をした。僕は、ためらわず本音を言った。
「いや、正直、あいつとは無理だ」
「あいつって、誰?」
雫は、真剣な表情だ。
椎名の嫌がらせで、頭が一杯だった。椎名さえいなければ、七海は、死ななかったかもしれない。
「椎名だ」
「一度、決まった規則がそう易々と変えることは……」
「それだけの悪行を椎名はしている!」
僕は雫の言葉を遮り、強く反論した。すると雫は優しい口調で僕に言った。
「少し、疲れているようね。少し休みなさい。私がなんとかしておく」
雫は、立ち去った。ドアの鍵を閉めた。リベルタを休むのか。次の瞬間、莢乃さんの顔が思い浮かんだ。
莢乃さんだけは、不安にさせないと誓ったのに……。くそっ。僕は、壁を叩いた。
莢乃さんから「人が死んだんだもん。当然、気にしないで。それから、挫けないで、頑張って」というメールが届いた。
やはり、莢乃さんに、迷惑を掛けてしまった。
学校の昼休み。あれから、二週間が経った。今でも、七海が、死んだ現実は、納得できない。犯人たちを俺は、許さない。
僕が、あの留守電に気づければ……。七海は、死んでなかったかもしれない。
「知っているか、涼? 碧ちゃんて」
テルが、話しかけてきた。碧……。全く聞いた覚えない名前だ。
「また転校生か」
うちの中学に転校生なんて、あまり来ないはずだが。
「やはり知らんかったか」
テルは、気まずそうに言った。正直、かなり気になる。
「誰だ、碧って」
「七海ちゃんのファルセダや」
僕は、箸を落とした。
ファルセダとは、スペイン語で、偽りの者という意味だ。現代では、全く瓜二つの人間を作る実験に、成功している。身なりも、性格も、精巧に再現できる。七海と以前と同じように接しられるかが、不安だ。西尾七海だった名前を西尾碧に変えたとの情報だった。
テルは、本日は休みだった。テルがいないと、憂鬱だ。僕は、昼休みは、屋上で一人でいた。チャイムが鳴った。
あと一〇分で、昼休みが終わる。僕は、教室に戻ろうとする。僕が屋上のドアを開こうとすると、反対側からドアが開くような感じがした。
ドアの前にいたのは、西尾碧だった。
「こんなところで、偶然だね」
碧の口調だと、僕を知らない様子だ。ファルセダは、設定者が自由に性格も決められる。当然のように、知り合いだった人間も、昔よく知っていた人間のように話すことは、可能だ。
碧の親とは、一度も会ったことがない。碧の知り合いという設定は、ありえない。
「キミは、なんで屋上に」
僕も、他人の振りをした。知り合いの振りをしたら、碧を混乱させるだけだ。
「私、事故に会ってから、少し記憶喪失になってしまって。ここに何があるのかなと思って来ただけ」
ファルセダであれば、当然だ。完全、完璧に元の人間と同じ生活ができることは、ありえない。慣れていくしかない。
「大変だったんだね」
何でもいい。碧が元の生活に戻れるように、協力したい。
「ところで、キミ、名前なんていうの」
不純な動機のない、無垢な笑顔で、僕の名前を聴く。
「黒木涼」
一瞬で碧の顔が曇る。もしかして、僕の名前を覚えているのか……。
「キミだったんだね。今日のこの手紙」
碧から出た「今日のこの手紙」という言葉に、戸惑った。心当たりがない。碧は、僕に手紙を渡した。手紙を読むと。
「こんばんミー」
なんだ、この恥ずかしい文章は。
「突然ですが、西尾碧さん、好きです」
単刀直入すぎるだろ。もう少し捻りが必要のはずだ。
「碧さんの好きな箇所。それは、胸です」
七海は、自分の胸の話題に触れられるのは、あまり好きではない。
「碧ちゃんのバスト八十八センチ・Eカップだよね。(調べました)中学二年生で、反則でしょ(笑)この手紙に興味あったら、連絡ください」
最悪な手紙だ。しかも、僕の住所や携帯番号まで書いてある。
ていうか、僕の名前ぇ!
なぜこんなことになっているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「オッパイ星人」
僕を睨みながら、尖った口調で話した。
「誤解だ。マジで誤解なんだ」
僕は必死に弁明する。碧は聞く耳を持っているようには、とうてい見えない。
このままだと、まずい。
「誤解? 奈那ちゃんから聞いたよ。ものすごい変態くん、なんでしょ」
犯人は、奈那、お前かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「信じてくれ。誤解なん……」
僕の言葉を遮り、僕の胸ぐらを掴む。
「問答無用」
空手をやっている碧の拳が、僕の顔面を捉えた。それは、僕の周りに、優衣と奈那の他に危険な女の子が、もう一人増えたことを意味していた。




