エレベーター内の会話
僕は、母親をテロリストに殺された。母親を殺したテロリストに復讐したい気持ちはある。しかし、僕が、リベルタに入った理由は、復讐心ではない。
莢乃さんが、倒れたからだ。リベルタは、色んな所から恨まれている組織だ。下手したら、組織解体だってありえる。だから僕は、リベルタに入った。
池袋のオフィス街に来た。東池袋駅と隣接している、サンシャイン・ビルの十八階の場所。そこが、リベルタの本部だ。《YRDマーケティング》という名前で入っているけど……。
俺は、サンシャイン・ビルに入る二分前、メールが届く。奈那からで、「今日、七海の様子どうでしたか?」という内容だった。
七海とは、今日、会った。変わった様子は、特になかったはずだ。
「別に、普通だった」と返答した。サンシャイン・ビルは、私物の携帯電話は、禁止だ。僕は、電源を切った。
僕は、中に入り、エレベーターのボタンを押す。
地下から来たエレベーターの扉が開く。優衣と同じエレベーターになった。最悪だ……。
「なぜ、負けたのに逆らうの?」
優衣の目が鋭い刃物のように鋭い。ていうか、勝ったのは、俺の方だ。
「アホいえ、僕が勝っただろうが」
どう考えても、僕の勝ちだろうが。
「私に謝ったでしょ。その時に、勝負は決まったのよ」
確かに僕は、謝った。しかし……。
「絶対に許さないとか言ったんだろうが。あの時点で、試合続行だ」
俺の言葉に、優衣が能力を使い、一枚の紙切れを出した。
「涼君、倒れて起きたの、八時くらいだよね」
優衣が、何を言いたいのか、全然わからない。僕は、適当に相槌を打った。
「そうだったら」
「これ、私の倒れた時間」
優衣は、僕に紙を渡した。診断書のようだ。確かに、長い文章の中に『七時半ぐらいに意識が回復される』と書いてある。
「僕の攻撃で、お前は、倒れた」
優衣の言っている主張も一理あるのかもしれない。ただ、ここで認めたら大変な状況になる。
「知っている。格闘技の試合で、自分を殴ったらどうなるか、知っている?」
そんなレアケースあるのか? 適当に答えると、優衣の思う壺のような気がした。
「何が言いたい」
「そのまま倒れて、ダウンを獲ったんだよ」
そんな試合あるのか。優衣が、嘘をついているようには見えない。そのような試合が、実際あったんだろう。
「要は、格闘技の場合、自分への攻撃も有効なんだよ。涼君が、涼君自身に攻撃しても、何の問題もなく、有効」
なんか論破されたような気分だ。
「格闘技に置き換えるなら、あの状況は、ダブル・ノックアウト。通常のルールなら、病院に運ばれた時点で、試合終了だ。起き上がったのが三〇分早いとか、関係ないだろう。まぁ、引き分けって結論だな」
僕の反論に、優衣は、ピクリともしない。
「私のほぼ勝ちね」
『ほぼ』と口にしているのに口調は、自信満々だ。理解できない。
「なぜ、その結論になる」
「涼君は、引き分け。私は、勝ち中間とれば、わたしの『ほぼ』勝ちだよ」
優衣は堂々と、自分の『ほぼ勝ち』を宣言した。
「強引だ。僕は、認めない」
優衣は僕の言葉を「うるさい」と一蹴した。
直後、僕の口の中に何かが現れた。舌がヒリヒリする。
僕は、オレンジ色の液体――口の中の物を吐き出してしまった。ババネロソースが床に散乱する。
エレベーターがピーンと鳴る。扉が、開く。そこには、雫がいた。
「ごめん」
驚いた表情と同時に雫は、立ち去った。当然の反応だろう。




