表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/61

調査

 謁見の間には、アーサー達が集まっていた。演習を終えたレサイアスが、是が非でも白い機兵の操者に礼を言いたいと申し立てたため、この場で会わせることとなったのだが……。


「……!」


 その当事者たるレサイアスは、口をあんぐりと開けたまま絶句していた。彼の目の前には、念願の白い機兵の操者……つまりは、琉斗が立っていた。

 レサイアスの期待通りの驚きに満足気なアーサーは、にこやかに紹介をする。


「彼が、白い機兵の操者、琉斗だ」


「……ども」


 軽く会釈をする琉斗。しかしレサイアスは、身動きすらしない。


「……まだ、子供ではないか……」


 それを見ていたエリーゼは、レサイアス殿と声をかける。


「確かに彼はまだ幼いですが、間違いなく白い機兵――ラーゼ・エントリッヒの操者にして、先程あなたが対峙した機兵を動かしていた者ですよ」


 レサイアスはエリーゼの顔を見た後、視線を琉斗に戻す。


「そ、そうですか……。いや、すまない。そ、その……何というか……想像していた者と、あまりにも違っていたもので……」


 それを聞いたアーサーは、笑い声を上げる。片や琉斗は、凄まじく馬鹿にされた気分となり、不機嫌そうにぶすくれていた。


「そう怒るな琉斗。私も、最初お前が操者だと知ったときには驚いたものだ」


 エリーゼは優しく声をかける。琉斗は話を逸らすかのように、アーサーの方を見た。


「……それで? 何か用かよ。まさか、こんだけのために呼んだわけじゃないだろ?」


「うん。相変わらず察しがいいね」


 そしてアーサーは、本題に入る。


「実はね、彼の国、アルム公国のオリジナル機兵がいたんだけど、何者かに撃破されたみたいなんだよ」


 アーサーの言葉に、琉斗は衝撃を受ける。


「……何気に重い話をさらりと言うなよ……」


「事実だし、しょうがないだろ? ……アルム公国のオリジナルは、その一機しかなくてね。レプリカのエネルギー補給が滞っているらしいんだ。だから調査を兼ねて、ブラオ・シュプリンガーが行くことになったんだよ」


「エリーゼが?」


「そうそう。……そこで、さ。琉斗にも、エリーゼに同行してくれないかい?」


「え? 俺?」


 そしてエリーゼは、アーサーに続いた。


「アルム公国のオリジナル機兵の勇猛さは、周辺諸国でも有名だったんだ。その機兵が、破壊された……。その敵がレプリカとは、到底考えられない」


「……敵も、オリジナルってことか……」


「ああ。敵の素性は全く分からない。その姿、能力、操者に至るまでな」


「だから用心のために、君も同行してほしいんだよ。学校暮らしも飽きてきたところだろ? 息抜きってことで……どうかな?」


 学校暮らし……。その言葉に、レサイアスは苦笑いを浮かべる。


 ――琉斗行こうよ! ラーゼも外に出たがってるし!――


 琉斗の脳内で、シャルは息を荒くする。


(……アーサーの思惑に乗るのは癪だけどなぁ。まあ、あそこで引き籠もってるより何倍もまし、か……)


 そう結論付けた琉斗は、顔を上げる。


「――分かったよ。俺も行く」


「助かるよ、琉斗。学校の方にはちゃんと言っておくからさ。“戻ってきたら、休んだ分頑張らせる”って」


 アーサーは意味深な笑みを浮かべた。


「か、勘弁してくれよ……」


 項垂れる琉斗の様子に、室内には笑い声が響いていた。




 ◆  ◆  ◆




 ハイリベルトの格納庫。ここには、数多くの機兵が納められていた。レプリカの数は百を超える。かつて二つの国であった戦力を集約したと考えるのであれば、それも納得できる。

 その格納庫の最深部。そこには、三機のオリジナルが眠っていた。

 一つは、青い機兵、ブラオ・シュプリンガー。エリーゼが操る機兵である。

 一つは、黄金の機兵、グランツ・ランツェ。アーサーが操る機兵であるが、琉斗との戦闘の損傷は激しく、依然として完全な修復には至っていない。

 ――そして、残る一機……。


「……よう、相棒……」


 目の前に佇む白い機兵、ラーゼ・エントリッヒを見上げながら、琉斗は声をかけた。ラーゼは何も答えなかったが、琉斗にはどことなく、微笑んでいるように見えた。


「久しぶりに外へ出ることになったからさ。ここ最近、お前を動かすことがなかったけど、一つよろしく頼むよ」


 琉斗の言葉の後、シャルは嬉しそうに口を開く。


「ラーゼもね、こちらこそって言ってるよ」


 そして琉斗は、ラーゼに乗り込む。久しぶりのコックピットの感触。球体に触れれば、優しい光を放つ。鼻には独特の機械の香りが漂うが、不快感はなく、むしろ心地よい。


「……今の気分はどう?」


 シャルの問いに、琉斗は笑顔を見せた。


「……悪くないさ。悪いわけがない」


「だよねー! ラーゼもさ、凄く喜んでるよ!」


 シャルの嬉々とする声に、琉斗もまた心が踊る。


「――琉斗。準備はいいか?」


 ふと、外からエリーゼの声が。その方向に目をやると、気付かぬ間にブラオが機動し、ラーゼの近くまで歩み寄っていた。


「ああ。問題ない」


「ラーゼに乗るのも久しぶりだからな。無理はするなよ?」


「分かってるよ。リハビリ程度って考えとく」


「結構。……では、行くぞ」


 そして二機は、格納庫の出口へと向かう。琉斗は踏み出す感触を確かめながら、前を見る。薄暗い格納庫。その奥には、眩い光が広がっていた。


「……綺麗だな。ラーゼ……」


 彼の言葉に応えるかのように、手元の球体は優しい光を放つ。そしてゲートを抜けた先には、街が広がっていた。太陽の光を写は、機兵の姿を照らし出す。汚れのない、純白の機兵。


「琉斗殿」


 出入口付近には、レサイアス達公国師団が乗るレプリカの集団が待機していた。列を成し、ラーゼ、ブラオを出迎えるように。


「我らが道案内を致します。皆さんは、後方から付いて来てください」


「分かりました」


 エリーゼとレサイアスが会話をする中、琉斗はとあるものに気付く。琉斗の視線の先にいたのは、一際重装備のレプリカ。だがその搭乗者には、とっくに検討がついていた。

 レプリカに向け、琉斗は声をかける。


「……なあ、なんでお前がいるんだ? ニーナ?」


「あら、よく分かったね」


 やはりと言うか、レプリカからはニーナの声が響く。


「当たり前だろ。ラーゼの調整の度に、レプリカに怪しげな改造を施すお前を目撃してたからな」


「怪しげって……。そんなんじゃないって。アタシってさ、接近戦向きじゃないでしょ? だからさ、アタシ専用機ってことで、この子をチューンナップしてたわけ」


 饒舌に語るニーナ。だが琉斗は、呆れるように再び尋ねた。


「……どうでもいいけどさ、なんでここにいんの?」


「決まってるでしょ? アタシも同行するのよ」


「はぁ? なんでだよ」


「アルム公国と言えば、広い領土を持つ国よ? そこに行くからには、それなりに話が出来る人物が同行すべきじゃない。その点、アタシは“いちおう”王族の家系だし、最適じゃない」


「……ま、“いちおう”、な……」


 自身を王族だと言い放つニーナに、琉斗は違和感しか感じなかった。これまでそんな主張はしたこともなく、むしろそれを拒絶していたニーナ。ここに来てのその言葉は、どう考えても嘘にしか見えない。

 しばらく思案に耽った琉斗は、とある仮説へと辿り着く。


「……ていうかお前、ただ単にその“専用機”って奴を使ってみたいだけじゃねえの?」


「……さ、こんなところで時間食ってないで、さっさと行きましょ」


(流しやがったよオイ……)


 図星を突かれたニーナは、まるで何事もなかったかのように兵の列へと加わっていった。


「……そ、そろそろ、出発しても……?」


 琉斗らの会話にたじろいでいたレサイアスは、おそるおそるといった様子で切り出した。そんな彼に、エリーゼが答える。


「……すまないレサイアス殿。先導をよろしく頼む。ニーナはこう見えても、正式な機兵の操者でな。腕は確かだ。私が保証する」


「そ、そうですか。……では、出発いたします」


 彼の声と共に、兵団は後ろを振り返る。そして、隊列を作ったまま歩き出した。

 それに続く琉斗とエリーゼ、ニーナ。ニーナは隣を歩くラーゼに、声をかける。


「琉斗もラーゼに乗るの久々なんでしょ? 何かあったら、無理しないでアタシに任せてもいいんだからね?」


「ありがと、遠慮しとくよ。ニーナに任せた方が、色々多方面で無理が起こりそうだし」


「何よそれ! どういう意味!?」


「二人とも。公国師団の兵達に丸聞こえだぞ。少し静かにしてくれ」


 がやがやと騒がしいハイリベルトの面々。


(……本当に、大丈夫なのだろうか……)


 そんな彼らを見たレサイアスは、人知れず、溜め息を吐くのだった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ