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覚悟

 ラーゼが降り立つ目の前には雄大に聳える城があった。そしてその正門を守るかのように立つのは、全身が光輝く黄金の機兵。手には巨大な楯と突撃槍(ランス)が。その機体も分厚い装甲が幾重にも重なり、見るからに重量感のある姿だった。


「……なんか、強そうだね」


 黄金の機兵を見たシャルは、そう呟いた。確かに、見た目はゴツいから無理もないが。

 すると機兵から、声が響く。


『……やあ、久しぶりだね』


 機兵の見た目とは正反対に、とても澄んだ声だった。その声に、聞き覚えがある。


「……アーサー」


『ようこそ僕の国へ。といっても、君は2回目だけどね。――いやいや、報告を聞いたときは驚いたよ。まさかエリーゼが拾ってきた君が、話に聞く化物のような白い機兵の操者とはね。

 こんなことなら、君を手放すべきではなかったな』


「ずいぶんと余裕があるな。こうして攻め込まれてるのに」


『そう見える? こう見えても、けっこうショックなんだよ。オリジナルとはいえ、機兵1機程度なら余裕だと思ってたんだけど、結局は君一人にずいぶんやられたからね。

 以前君が言ってた、“白い機兵を舐めるな”って言葉……今なら、嫌というほど実感してるよ。

 レプリカを数十体にゾルの機兵、おまけに君がここにいるということは、エリーゼをも退けたんだよね?』


「……まあな」


『君が異世界から召還されたってことは聞いてるけど、この短期間でここまでやるとはね。

 君は分かってるのかい? 君と白い機兵の加入で、敗戦間近だった国は持ち直し、今やこうして敵国の本拠地にまで攻め込んでいる。

 ……君は、本当に化物だよ』


 アーサーは相変わらず涼しく話す。だがその言葉には、威圧感のようなものがあった。実際はどんな顔をしているのか、想像がつく。


「……お褒めの言葉、ありがとよ。でも、そろそろゴタクもいいだろう。さっさと本題に入ろうぜ。

 ――フェルモントを、返してもらおうか」


『それは出来ない』


 俺の言葉に、アーサーは間髪入れずに答えた。


「即答かよ」


 もう少し言葉を選ぶと思ったんだけどな。


『当然だよ。彼女の存在は邪魔なんだ。彼女がいるだけで、戦火は消えないんだよ』


「……何でそんなに処刑にこだわる? 他にだって道はあるだろ。協力し合うことだって……」


『協力だって? ……ハハハハ!!』


 突然、アーサーは声を出して笑う。それまで冷静に話していた分、その変化にはどこか不気味さがあった。


『……君は、つくづく戦争というものを分かっていない。協力し合うだって? 笑わせないでくれ。

 ――いいだろう。仮にここでベリオグラッドとシュルベリアが手を組むとしよう。だが、そこには必ず(しこり)が残る。それはやがて火種となり、いずれは再び戦火にまで発展する。それが戦争というものだ。それが国同士というものだ。

 君の言葉は、どこまでいっても理想論にしか過ぎない。戦争は、既に止められない。どちらかに決着がつくまで、終わることはない。その間に人は死に続ける。兵士は、人を殺め続ける。

 ……ゾルを殺した、君のように、ね』


「―――」


 心に、何かが突き刺さった。ずっと分かってたことだった。ゾルの機兵を破壊したことで、俺は結果としてゾルの命を奪っている。それは、揺るぎない事実だった。

 揺らぎそうになり心を、歯を食い縛って繋ぎ止める。


「……言い訳はするつもりはない。確かに、ゾルの命を奪ったのは俺だ」


『誤解をしないでくれ。僕も、そのことで君を責めるつもりはない。ゾルと君が戦ったのなら、ゾルも君の命を奪いにいったはずだ。その結果を、とやかく言うつもりはない。

 ……だけど、それが“戦争”なんだ。殺め殺められ、一つのものを勝ち取るための道には、いつも屍が転がっているものだ。

 だからこそ、死んでいった者達のために、僕は進み続けなければならないんだよ。立ち止まるわけにはいかないんだよ。僕を信じて散っていった者のために、僕は必ず勝つ。例え非道や残忍と罵られても、僕は進み続ける。

 ――それが、僕の覚悟だ』


 そう話したアーサーは、機兵が持つ突撃槍の先端をラーゼに向け、構えを取る。


『……決着をつけようか……このベリオグラッドのオリジナル機兵“グランツ・ランツェ”が、必ず君の白い機兵を貫く。

 ――君の覚悟……見せてもらおうか……!!』


 黄金の機兵――グランツ・ランツェからは、凄まじい気迫が放たれる。気を抜けば気圧されてしまいそうになる。それほど、アーサーの決意は本物ということだろう。


「琉斗……」


 シャルは、不安そうに俺を見ていた。だから俺は、シャルに微笑みを向ける。

 俺だって、こんなところで止まるためにここにいるわけじゃない。こんな俺にも、守りたいものがある。

 一度目を閉じ、心の中の想いを見つめ直す。そしてもう一度視線をアーサーに戻した。


「……アーサー、俺には、アンタほどの強い想いはないかもしれない。実際この世界に来たのも強制的だったし、最初は嫌だった」


『……』


「――でもな、それでも俺は、フェルモントを助けたい。どうしようもなくお人好しで、自分のことなんて気にもせず他の人々を想うアイツを助けたいんだよ。

 難しいことなんて分からない。世の中の仕組みなんて分からない。だけど、この“想い”だけは本物なんだ。

 ――フェルモントを、死なせやしない……!!」


 ラーゼもまたバスターソードを構える。2機の機兵の間には、ナイフのように鋭い空気が流れていた。


『……それで、十分だと思うよ。戦う理由は人それぞれだし、否定する権利なんて誰にもない。

 ――だけど……』


「……分かってるよアーサー。でもな……!!」


「勝つのは、俺だ!!」

『勝つのは、僕だ!!』


 2機は同時に駆け出す。瞬く間に距離を詰めた白い機兵と黄金の機兵は、同時に武器を繰り出した――。

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