混戦
街に近付くにつれ、激しい戦闘音がコックピットに響いてきた。数で言えばかなり不利だろう。おまけに相手にはオリジナルまである。むしろよく持ってくれたと言っても過言ではないだろうな。
「シャル! アーサーの……もう一体のオリジナルの気配はあるか!?」
「うん! だけど、まだ遠くだよ!」
「そうか……」
本格的に戦闘には参加してないようだ。様子を見ているのか……いや、俺を待ってるのか? どちらにしても、いないのであれば好都合だ。
「――まずは周辺のレプリカを叩くぞ! ラーゼ、お前の力を見せつけろ!」
王都の入り口に近付くと、そこには交戦するレプリカがいた。1機のレプリカに、2機が攻める。攻められるレプリカは押され、壁際に追い込まれていた。
「お前らこっちだ!!」
俺の声に、レプリカ2機は後ろを振り返る。
『―――ッ!? 白い機兵だと!?』
2機のレプリカは標的をラーゼに変え、剣を構えた。だがラーゼの速度は十分過ぎる。バスターソードを抜きながら、瞬く間に2機の前へと辿り着く。
『早―――ッ!!』
「遅ぇんだよ!!」
懐に入るなり、剣を二つに分裂させる。そして体を回転させ、レプリカ2機を一同に切り裂く。
『がああああああ!!』
切り裂かれた2機は残骸を撒き散らしながら地に倒れる。2機はそのまま動かず、戦闘不能となったのが一目で分かる。
『おお! 琉斗殿か!!』
壁際のレプリカは声を上げる。絶望から解放されたかのような、嬉々とした声だった。
「ニーナは?」
『はい! ニーナ殿なら王都に入っています!』
「そうか……フェルモントはいたのか?」
『いえそれが……姫様は、まだ城に幽閉されているようです』
「わかった。――アンタも気をつけてくれよ!」
『琉斗殿も!』
兵士に声を掛け、王都へと入る。王都は戦場と化していた。建物は倒壊し、火の手が上がる。逃げ惑う人の姿がないところを見ると、やはり避難をさせていたようだ。
「派手にやってるなぁ……」
「感心してる場合じゃないでしょ!? 早くフェルモントのところへ――!!」
「落ち着けシャル。フェルモントはまだ城にいる。これだけの混戦だ。下手に城から出すことはないだろう。むしろ、今は逆に安全ってところだ」
「う、うん……でも、どうするの?」
「まずはニーナと合流する。それから―――」
そう話していた時、突然後方の建物が吹き飛んだ。すぐに後ろを振り返ると、そこにはレプリカに剣を突きさした機兵がいた。機兵はラーゼに気付くなり、剣を構える。
『ここにもいたか!!』
その声に、聞き覚えがある。相手もまた、ラーゼの姿を見て構えを解いた。
『ラーゼ・エントリッヒ? ……ということは、琉斗なの!?』
その人物こそ、ニーナだった。タイミングがいいというか何というか……
「ようニーナ。派手に動いてるな」
『琉斗、無事だったのね!? 青の騎士は!?』
「大丈夫だ。ちゃんと“休んでもらってる”よ。――それより、敵の戦力はどうだ?」
『ああ、うん! 敵の戦力は、やっぱ数が多いわね。それでもある程度善戦出来てる。だけど、城の前に黄金の機兵がいて、近づけないんだよ』
「黄金の機兵?」
「そう、黄金の機兵。悪趣味な色してるけど、攻め入ったレプリカが一瞬でやられたんだ。下手に近付けなくて、こうして周りから攻めてるんだよ」
黄金の機兵……おそらく、オリジナルだろう。そしてその操者は……
「――アーサー、か……」
『でも、その機兵、そこから動こうとしないんだよ。まるで待ち構えるかのように、ただ立ってるんだ』
なるほどな。つまりは、俺を――ラーゼを待ってるんだろう。どのみちこの戦争は、オリジナル同士の決着でどうにでも転ぶしな。しかし、俺を待っているところから、もしかしたらアーサーはエリーゼが敗れるのを分かっていたのかもしれない。なるほど、いい意味でも悪い意味でも、状況を判断できるのか……さすがは王ってだけはあるな。
「……ニーナは、このまま周辺のレプリカを黙らせてくれ。攻められてる兵もいるから、そっちのフォローも合わせて頼む。俺はそこまで気が回らなくなるだろうし」
『分かった。琉斗はどうするの?』
「……決まってるだろ?」
ニーナから視線を逸らし、ラーゼを城の方に向ける。
「――決着を付ける……!!」
そしてラーゼは駆け出した。城までは少しまだ距離がある。出来るだけ最短距離で向かいたい。
……だが、やはりここは敵の本陣。そうそう簡単には進ませてくれない。
『――ッ!! 白い機兵だ! 敵のオリジナルが来たぞ!!』
敵機兵に見つかり、声が響く。それと同時に、建物の陰から続々と敵機が湧き出て来た。
「敵だよ琉斗!! いっぱいいる!!」
「分かってる!! 飛ばすぞ! ラーゼ!!」
敵は一斉にハンドガンを放射してくる。数多くのエネルギーの塊がラーゼに飛ぶ。バスターソードを楯に、ラーゼを走らせる。剣越しに爆発の衝撃が響いて来る。
「飛べラーゼ!!」
ラーゼはその場を踏み込み、大きく跳躍する。宙を舞いながら片手でハンドガンを放ち、敵機の動きを止める。そして着地するなりバスターソードを二つの刃へと変える。
「瞬殺するぞ!!」
再び踏み込み、一気に敵との距離を詰める。
『――ッ!!』
敵がラーゼの動きに驚愕している間、一気に両足を切り落とす。両足を失った機兵は後ろに倒れるが、その腕を掴み、背後に回る機兵に向け投げつける。
『何だと!?』
機兵をぶつけられた衝撃で、敵機はそのまま地面に倒れる。すると別方向からハンドガンの砲撃が始まる。再びラーゼを跳躍させ、倒れた機兵の頭部を目掛け降り立つ。着地と同時に頭部を踏みつぶせば、敵機は首元をスパークさせながら戦闘不能となった。
そして今度は右へと跳ね、建物の上から砲撃する敵機の胴体を斬り付ける。分裂させた剣では威力は低いが、それでも半分ほど切れ込みを入れる。ふらつく胴体に蹴りを入れれば、そのまま落下した敵機は動かなくなった。
建物の上から街を見下ろす。敵機は剣を構え、ラーゼを見ていた。だが、見れば少しずつ後退りをしている。
『……これが、白の機兵……敵のオリジナル……化物か!?』
瞬く間に3機を倒したラーゼに恐怖しているのか、一向に向かって来ない。あまり時間をかけてはいられない。来ないのなら、先を急ぐまでだ。
「……追えば潰す。素直に投降しろ」
そう声を掛け、体を反転させ先を急ぐ。戦意を失った相手に構ってはいられない。俺が向かうべきはレプリカじゃない。化物は、化物でしか倒せない。
次々と湧き出る敵機を蹴散らしながら街を駆ける。剣を振るい、ハンドガンを放ち、蹴り、殴り、放り投げ、いつしかラーゼの進む道中は、敵の残骸が足跡のように転がっていた。
考えてみれば、最初は3機のレプリカを相手にするだけでブルってたっけ……
「俺も、ずいぶん戦争に染まったな……」
そんな呟きに、シャルは困ったような笑顔を見せながら言葉を返す。
「でも、そのおかげでこうしてフェルモントを助けられるんでしょ?」
「……ああ、そうだな。確かにそうだ」
少しだけ揺れた心を引き締め直す。目の前には、巨大な城が見えてきた。その辺りに来れば、他の敵機は見当たらない。罠か、敢えてか……
(んなもんどっちだっていい……!! フェルモント、待ってろ!!)
手に力が入る。鼓動が早くなる。でも、頭の中はやけに冷静だった。
そして城が眼前に聳え立つ時、肉眼で黄金に輝く機兵が見えた。
「あれが……」
黄金の機兵は、日光を反射し存在感を示す。そしてラーゼは、その前に降り立った。