双剣
霧がかる森の中では、金属音が響いていた。剣と剣のぶつかり合い。白い大剣と青剣のぶつかり合い。そして白の巨人と青の巨人は距離を取りつつ、森の中を駆けていた。
『また腕を上げたな!! 琉斗!!』
走るブラオから、エリーゼの声が響く。
「エリーゼ!! 退いてくれ!! 俺はただ、フェルモントを守りたいだけなんだ!!」
そしてブラオは足を踏み込み、ラーゼに向かい突進する。
『私もだ!! ――私は、国を守る!!』
青の剣は振り下ろされる。それを剣で受け、鍔迫り合いとなる。震える二本の刃。睨み合う白の騎士と青の騎士。ギリギリという音を響かせながら、二体の騎士は隙を伺う。
「エリーゼ!! フェルモントを殺せば、本当に平和になるのか!? 血に染まった平和なんてのは、本当に正しいのか!?」
『黙れ!! 皇女さえ処刑すれば長かった戦争は終焉する!! 一人の命で、たくさんの命が救われるんだ!!』
「――命を秤にかけるほど、テメエらは偉いのかよ!!」
『知った風な口を!!』
双方の剣は弾かれる。そしてそのままブラオは剣を上下左右に振り抜いてくる。それを躱し、往なすラーゼ。その間にある僅かな隙間を狙い、剣を突き入れる。しかしブラオは反転しそれを躱す。そのままの勢いを足に乗せ、ラーゼの腹部を狙う。
「いつまでも同じ手を――!!」
ラーゼの体を捻らせ刺し込まれたブラオの足を避ける。そのまま体を回転させ、大剣を大きく振り抜く。
『―――ッ!!』
それを剣で受けるブラオ。片足しか踏み込みがない機体は軽く宙に浮き、後方へ飛ばされる。その間に足を踏み出し、剣を構えブラオに向かう。
「エリーゼええええ!!!」
ブラオもまた着地と同時に再び駆け出し、刃をラーゼに向ける。
「琉斗おおおおお!!!」
再び剣と剣のぶつかり合いが始まる。度重なる金属音の衝撃。幾重にも重ねられる刃の閃き。互いの剣は相手に届くことはない。ただひたすらに剣を振り、ただひたすらに剣を防いでいた。
エリーゼの剣には、もはや迷いは感じられない。想いの込められた斬撃。それは重く速い。閃光のような剣筋は、以前剣を向け合ったあの頃のまま……いや、あの頃よりも更に上だった。
でも、俺も負けられない。負けたくない。
(俺は、フェルモントを救うんだ!!)
「邪魔を……すんじゃねええええ!!」
一度大きく剣を振る。それを躱したブラオは後方に跳び、剣を構える。そして俺は、バスターソードを“解放”する。剣の柄を両手で握る。そして左右に引くと、剣の中心から光が放たれ、大きな剣は二本の双剣へと姿を変えた。
『そ、それは……!?』
これこそバスターソードの真髄。状況に応じて、破壊力のある大剣と素早い剣速を誇る双剣を使い分けることが出来る。
「――一気に行くぞ!!」
二本の剣を構えたラーゼは大地を駆ける。そしてブラオの前に辿り着くや、二本の剣を交互に振る。その速度は先ほどまでの大剣とは大きく違う。一太刀一太刀は軽くなったが、断続的な攻撃をブラオに浴びせる。攻撃のパターンが劇的に変化したことからか、ブラオは一つの青剣でそれを防ぐのでいっぱいになっている。いつしかブラオは防戦一方となり、前へ前へ進むラーゼとは対照的に、青の騎士は後退を続けていた。
そんなブラオに、右の剣を振り降ろす。ブラオは剣でそれを受ける。すかさずラーゼが左の剣を振り上げると、ブラオは後方に跳びそれを躱す。
「ラーゼ!!」
俺の声に反応するように、ラーゼは左の剣をブラオに投げる。
『――剣を!?』
まだ宙にいるブラオは、刃を向け迫る剣を青剣で弾く。その間にラーゼは回転しながらブラオに迫り、宙を舞う剣を再び手で取る。そのまま回転を続け、着地したブラオに一つの刃を振り抜いた。
『くっ―――!!』
斬撃を受けようとするブラオだったが、回転の勢いを乗せたラーゼの剣は重い。剣は弾かれ体は横に流れる。そのブラオに向け、もう一つの刃を走らせた。
『―――ッ!!』
体勢が取れないブラオは、強引に体を反らせる。しかし完全に避けきることは出来ず、剣先はブラオの右目を掠めた。
『うぐッ―――!!』
そのまま後方に反転しながら吹き飛ぶブラオ。しかしすぐに立ち上がり、片膝を付いたまま青剣の剣先をブラオに向けた。だが、ブラオの右目は破損し、内部の機械が剥き出しとなっていた。
そんなブラオに両剣を構え話しかける。
「……エリーゼ、もう止めよう。片目を失ったまま、俺と戦えるはずがないだろ」
それを受けたブラオは、剣先を向けたままゆっくりと立ち上がる。
『……琉斗、お前は強くなった。もはや、固有兵装を使用せずとも、その力は私を上回っている。片目を失った今の状態では、勝つことなど不可能に近いだろう』
「だったら……」
『だが、私は退かない!! 最後まで戦う!! ――最後の一瞬まで、私はベリオグラッドの騎士だ!!』
そしてブラオから青い光が放たれる。
「あれは……“シールド”か!!」
青い光はブラオを包み込み、陽炎のように揺れる。ブラオは構えた剣を下げ、ラーゼに正対した。
『……琉斗、最後にもう一度言う。――ベリオグラッドに降れ。私の元に来い。私は、お前を―――!!』
「――エリーゼ。何度聞かれても、俺の答えは変わらないよ。俺がいたい場所は、アンタのところじゃない。俺は、フェルモントを助けたいんだよ」
『………』
そう言うと、エリーゼは言葉を発さなくなった。ただ黙り、青い光を纏ったまま立ち尽くすブラオ・シュプリンガー。その顔は俯いているように見える。その中にいるエリーゼは、今何を思ってるのだろうか……
しばらくの沈黙の後、ブラオは顔を上げる。そして左目が一際強く光る。
『……残念だ、琉斗……私はもう何も言わない!! 貴様を……斬る!!』
そしてブラオは剣を構えた。
『――さあ選べ琉斗!! 固有兵装を使い皇女を見捨てるか!! ブラオの剣の前に倒れるか!!
どちらにせよ、お前の負けだ!! 琉斗!!』