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王手

 フェルモントの処刑の日まで明日と迫った首都では、決戦の準備が急ピッチで進められていた。機兵の状態を確認する人、機兵の武器を整備する人、自身の剣の手入れをする人……それぞれがピリピリとした雰囲気を出しつつ、黙々と作業に取り組んでいた。

 俺はと言うと、バスターソードの特徴をシャルとニーナに聞き、機体の状態はシャルが“本人”に直接聞いたため、準備としては終わっていた。

 ……残るは、俺自身の準備だけだろう。


 そんな俺は、シャルとラーゼのコックピットの中にいた。背もたれに寄りかかり、腕を頭の後ろで組みながら、ぼんやりと上を見つめる。シャルはコックピットの中で、同じくぼんやりとしながらふわふわと浮いていた。


「……なあシャル」


「なぁに?」


「俺、フェルモントを助け出せるかな……」


 特に意味はなかった。自分の中にある漠然とした不安を誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

 しかしシャルは、俺が想像していた言葉と違う返答を見せた。


「さあ……どうだろうね」


「……お前さ、普通こういう時には、“大丈夫”って励ますんじゃないのか?」


「え? 何? 励まして欲しかったの?」


「いや……そういうわけじゃないけど……」


 きょとんとした顔で聞いてくるシャル。何だか言葉に詰まってしまった。そんな俺を見たシャルは、困ったような表情て微笑んでいた。


「……あのさ琉斗。この際だから言っちゃうけどね、正直な話、私もラーゼも、琉斗以外の人に興味がないんだよ。冷たい言い方だけどね」


「……そうなのか? でも、他の人……例えばエリーゼのこととか気にかけたりしてたじゃないか」


「あれは琉斗が気にしてたから、私も気にしてただけ。――私とラーゼが認めたのはただ1人、琉斗だけなんだよ。

 “白き神の呼び声に応えし者、全てを望むがままに”

 ……それが、千年前に“白き神”と称されたラーゼの操者に選ばれた者の権利。制約の代償。そう言われてたんだ」


「白き……神……」


「つまり私が言いたいのは、自分に自信を持ってってことそんなラーゼに認められたんだから、琉斗なら“望むがまま”に出来るよ」


 ようやくここに来て、シャルは励ましの言葉っぽいことを口にした。だけど、今の話を聞いて頭の中に浮かんだのは、ゾルの話だった。


「……なあ、千年前に何があったんだ? ゾルが言っていた、“天の空座”ってのと関係あるのか?」


 シャルは視線を逸らし、頬をかいていた。嫌なことを聞かれた。そんな顔だった。


「う~ん、前も言ったけど、ホントに覚えてないんだよね~。微かに覚えてることとか、断片的なことをたまぁに思い出すこともあるんだけど……」


「……そうか」


 それ以上は深く聞かなかった。もしかしたら、本当に記憶を封印されているのかもしれない。だとしたら、その封印は解けるのか?


(……ラーゼは、どうなんだろうな)


 ふと目の前の球体に目をやり、片方だけを片手で撫でるように触る。 すると球体は、どこか朧気に光を放つ。それはまるで、ラーゼが優しく微笑みかけてくるかのような光だった。その光を見ていると、何だか心が落ち着いてくる。自然と表情が緩んでいた。

 そんな自分が何だか可笑しくなり、フッと笑みが溢れた。


(ま、考えても仕方ないか。……今は、明日のことだけを考えよう。それ以外は二の次でいい)


 そしてシャルに目をやる。目が合ったシャルは、歯を見せニッと笑っていた。次いでコックピット内を見渡す。モニターが映っていない内装は、綺麗な純白だった。


 ……ふと、首に掛けていたネックレスを取り出す。それは、前にフェルモントから預けられていたもの。仄かな光を放つ紅い石を手に取ってしばらく見つめた後、しっかりと握り締めた。


「シャル、ラーゼ、頼りにしてるからな! 望むがまま……俺が望むのは、もちろんフェルモントを助け出すことだ……!

 ――俺達なら、必ず出来る!!」


「うん!」


 シャルの返事に続くように、手元の球体が眩く光を放つ。

 決意を新たにした俺は、もう一度コックピット内の上を見上げた。そこには白い内装しかないが、フェルモントの顔が頭の中では描かれていた。

 俺はそのままコックピットで休んだ。コックピットはまるで揺り篭のように心地よく、安らかに眠ることが出来た。





 ◆  ◆  ◆





 次の日の未明の森は薄らと霧が出ていた。朝日の光は霧の中を反射し、キラキラとした光の粒子を放つ。そんな森を進む機兵の集団がいた。敵の首都までまだ距離がある。

 そしてその先頭には、ラーゼの姿があった。


「………」


 周囲の緊張感はコックピットの中にまで届いていた。


「何だか、みんなピリピリしてるね……」


 シャルは静かに小声で呟く。今の状況をよく現している言い方だった。普通の声で喋ることすら許されないかのような緊張感があった。


「そりゃ、敵の本丸に今から喧嘩売りに行くわけだからな。緊張するなって方が無理な話だろ」


「確かにそうだけどさ……もっとこう、肩の力を落とさないと」


 シャルが言うのはもっともだった。緊張し過ぎるとどこかで失敗をしてしまう可能性がある。


「……とは言っても、この緊張は簡単には抜けないと思うぞ?」


「フフフ……私に任せて! “秘策”があるから!」


 シャルが腕を組み、ドヤ顔をしながら自信満々に宣言した。


「ほほう……して、それはいったい?」


「それはね……」


「それは……?」


 “溜め”をするシャル。……その“溜め”が、自らのハードルを上げていることを、シャルは気付いているのだろうか……。気付いてないだろうな……


 そんな中、シャルはいよいよその“秘策”とやらを話し出した。


「……琉斗! 歌って!!」


 シャルは高々に言い放った! ……意味が分からないことを。


「………はい?」


「だから、琉斗が今から歌うんだよ! 琉斗もいい気分になれて、聞いてる方も緊張が解れる! 一石二鳥でしょ!?」


「ちょっと待てぃ! 何で俺が歌わないといけないんだよ! もしその方法をよしとするなら、シャルが歌えばいいだろ!?」


「恥ずかしいから嫌」


 シャルは普通に言い捨てやがった。


「えええ……お前がそれ言うのかよ……」


「まあまあ、いいからいいから。……とりあえず、一曲でも――」


「絶対歌わねえ」


「えええ!? 何でよ!!」


「その答えは、ついさっきお前の口から出てるぞ。――自分の胸に手を当てて思い出せ!」


「イイッだ!! ケチケチ琉斗!!」


「ええい! さっきからやかましい!」


 俺とシャルはコックピット内で不毛な言い合いを続けた。……そして、俺はすっかり忘れていた。外部スピーカーを切り忘れていたことを。


『……あんた達、さっきから何騒いでるの?』


「へ?」


「あ、あれ?」


 ニーナの声が俺とシャルの言い合いを中断させた。気が付けば、行進していた隊列は、その足を止めていた。そしてラーゼの方を向いていた。……機兵達の顔は、なぜか呆れてるように見えた。


『……まったく、緊張感ってものがないんだから……』


 そう言うニーナだったが、その声に硬さが感じられない。そしていつの間にか、周囲を包み込んでいた緊迫感はどこかに失せていた。……結果として、シャルの作戦が功を奏したようだ。本来の目的とは違うが、結果オーライとなる。なるほど、さすがは自称神の使いってところか……


「……とにかく、先を急ぐとして――」



『――ずいぶんと、余裕があるんだな……』



「―――ッ!?」


「だ、誰!?」


 突然、森にそれまで響いていなかった女性の声が響いた。……しかしその声は、決して聞きなれない声ではなかった。


「……この声……まさか……」


「琉斗……」


 シャルも気付いたようだった。そして俺は、その声の方に目をやる。

 

 そこは森の中にある崖の上。霧がかる崖の上には、1つの“青い影”があった。


『久しぶりだな……琉斗』


 その声と共に、影は崖を降りてくる。そして土煙と共に俺の前に現れたのは、“青の騎士”、ブラオ・シュプリンガー。……そして、当然その操者は――


「――エリーゼ……」


 正直、敵の首都に向かう途中に襲撃があることは予想していた。こちらが、公開処刑に乗じて救出に来ることくらい、簡単に予想出来る。だから常に警戒をしていたのだが……まさか、エリーゼが来るとは想像も出来なかった。


「……ニーナ」


『な、何?』


 ニーナの声は上ずっていた。ニーナにとっても、ここでのオリジナル機兵の登場は予想外だったようだ。


「エリーゼ……ブラオ・シュプリンガーは俺が何とかする。――その間に、部隊を連れて先に首都に向かえ」


『え!? で、でも……!!』


「ニーナ、目的を履き違えるな。俺たちの目標は、ただ首都に行くことじゃない。フェルモントを、助けることだ。……ここで時間を食って、間に合わなかったら全てが終わりなんだよ」


『………』


 ニーナは何も言い返さない。いや、言い返せないのだろう。それでも足を動かそうとしないニーナに、最後の激を飛ばす。


「――ニーナ!! 早く行け!!」


『………全軍、行くよ!!』


 ニーナの機兵は、その場から走り始めた。他の機兵もまた、戸惑いながらもそれに付いて行く。エリーゼは、なぜか追撃しようとしなかった。


 そして森には、白と青の機兵だけが残った。


「……追いかけないのか?」


『その必要はない。……私の目的は、琉斗…お前の足止めだからな』


「俺の?」


『そうだ。……悔しいが、私はお前には勝てないだろう。特に固有兵装を使ったお前は、次元が違う強さを見せる。たとえブラオでも、手も足も出せない。

 ――だが、お前の固有兵装の負担は相当なもののようだな。ここで貴様がそれを使えば、おそらくは処刑の時間に間には合うまい。お前がいないレプリカの集団など、アーサーの敵ではない』


(……クソ、そういうことかよ)


 つまりは、エリーゼの目的は俺を作戦に参加させないこと。ブラオを倒すには、リミットブレイクを使うしかない。それ以外で、あのシールドを打ち破るのはほぼ不可能だろう。……しかしそれを使えば、俺は意識を失う。

 エリーゼが仕掛けてきたタイミングは、まさに今しかないとも言えるタイミングだった。

 俺がフェルモントの救出に向かうには、固有兵装を使うことなく、ブラオを破る必要があった。しかしそれは、あまりにも困難な闘いだろう。


(出来るのか? リミットブレイクを使うことなく、ブラオを倒せるのか!? ……でも、やるしかない!)



『チェックメイトだ、琉斗。……いや、シュルベリアの機兵――ラーゼ・エントリッヒ!!』


 


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