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緑迫

「離れろニーナ!!」


 ニーナの機体を突き飛ばし、強制的に排除する。

 剣を構え向かってくるゾルの機兵、シュトス・シュランゲ……その両手に携える双刃の剣から、攻撃特化の機体であることは予想出来た。そしてレプリカでは全く歯が立たないことも。

 だからこそ、無事な機体を少しでも残すためにもシュトスの相手は俺1人の方がいい。


「琉斗! この人形じゃ無理だよ!!」


「分かってるから黙っとけ!!」


 瞬時に俺の眼前に移動したシュトスは、見た目のゴツさからは想像も出来ないほどの速度で剣を横振りする。脚に力を入れ踏ん張り、剣で受け止めようとしたが、レプリカである機兵は呆気なくその剣圧に押し切られ、後方に宙を舞う。


「―――ッ!!」


 大地に倒れながら着地し、素早く立ち上がる。しかしシュトスは、既に剣を振りかざしながら迫っていた。


「琉斗!! また来た!!」


「だから黙ってろ!! 舌噛むぞ!!」


 シュトスの斬撃を剣で受けるが、剣は大きく弾かれ両手を高々と上げ機体は仰け反る


(――ヤバい!!)


『“死に体”だぞ!! 琉斗!!』


 シュトスは胴体を狙い、もう一方の剣を薙ぎ払う。


「クソッ!!」


 弾かれた腕の勢いを使い、機体を後方に跳ばせる。しかし躱しきれず、オリジナルの凄まじい剣速は跳ぶ機兵の右足を掠める。機体はそのまま空中で数回転しながら地響きと共に地面と衝突する。その衝撃はダイレクトにコックピットに響き、激しい振動が機内を支配した。


「………!!」


「キャアアア!!」


 体を揺さぶられ、頭が前後に大きく動く。眩む視界。一瞬だけ目を閉じ首を小刻みに横に振って何とか正気を保とうとする。モニターに目をやると画面には亀裂が入り、割れた鏡のように景色が幾重にも重複していた。

 そのモニターに映るシュトスもまた多数に分裂したかのように歩いていた。両手を下に降ろし、ゆっくりと歩きながら迫るシュトス。


(やっぱりレプリカじゃ話にならないか……!!)


 レプリカに搭乗して、オリジナルと対峙し分かった。オリジナルとレプリカでは次元が違う。性能の差とかのレベルではない。まるで拳銃と水鉄砲のように、似ているが全く別の存在だった。これまでラーゼと対峙した敵兵から化物だとか鬼だとか言われてきたが、そう言いたくもなるだろう。剣を受ければ吹き飛び、掠ればそれだけで多大な損害が出る。

 このままでは勝てる気がしない。ただでさえ圧倒的な力の差があるのに、シュトスにはまだ固有兵装もある。かと言って今俺が引けば、せっかく解放した兵士が再び牢獄に入れられる。二度と同様のことをしないためにそのまま全員処刑する可能性だってある。


(やっぱりラーゼに乗り換えないとダメだ。どうやって乗り換える?)


 ここからラーゼまでは距離がある。そこまで行くにしても、ゾルは乗り換えを見逃すことはないだろう。

 それでも相手の動向を注視しながら方策を探す。そんな俺に、ゾルは言葉をかけてくる。


『……シュトス相手に、ただのレプリカでここまで持ち堪えるとはな……。やはり貴様は危険だ』


「そんなこと言ったって、素直に首を差し出したり出来ねえよ」


『そうだな。……貴様の敗因はラーゼを置いてきたことだ。ラーゼにさえ乗っていれば、善戦は可能だっただろうに……』


(………善戦?)


 ゾルは自信に満ちていた。オリジナルの操者であることの誇り、当然のおごり。……でもそれは、俺にとって気に食わないものだった。


「……ゾル、お前のシュトスは確かに強力だ。でもな、だからといってラーゼが敵わないとは全く思わねえ。

 レプリカを圧倒した程度で、調子乗ってんじゃねえよ……!!」


『粋がるなよ……。もはや貴様がラーゼに乗ることはない。

 ――木偶でくもろとも沈め!!』


 シュトスは大地を駆ける。


(とにかく、やるだけやるしかない……!)


 状況は圧倒的不利。それでも迎え撃つしかない。剣を構えシュトスの攻撃に備える。


 シュトスの移動に合わせ剣を振り下ろす。しかしやはり剣速は遅く、簡単に避けられる。そして逆に剣を交互に振り抜くシュトス。2筋の刃の線は音を立て剣を削り、手に持つ剣には大きくヒビが入る。


「剣が持たない……!!」


「琉斗次が来る!!」


 シャルの叫びと共に割れたモニターに目をやる。そこには、冷たい表情のまま眼前に迫るシュトスがいた。


『――終わりだ!!』


 シュトスは2本の剣を✕字に振り抜く。それを受けた機兵の剣は中心部から圧し折れ、周辺にその欠片が朝日を受けながら飛び散る。しかしシュトスの斬撃はそれに留まることはなく、剣の向こう側にある機兵の両腕を切り裂いた。


「―――ッ!?」


 両腕を失った機兵はその衝撃で後方に吹き飛び、外壁と衝突、音と土煙を伴わせながら石の壁にはさらに穴が空いていた。


「……クソ」


 小さく言葉を漏らす。モニターにはさらに機兵に歩み寄るシュトスの姿があった。


「琉斗!! 早く立って!!」


「ちょっと待ってろ! 両手が無いから上手く立てないんだよ!!」


 両腕がない状態では体勢が取り辛く、足を大きく開き立とうとするが、上手く行かず転倒を繰り返す。そんな機兵の前に見下すように立つシュトス。そのシュトスの中にいるゾルを睨み付け悔しさに顔を歪ませる。

 そんな俺の視線に気付くかのように言葉を発するゾル。


『……無様だな、琉斗。貴様は所詮その程度なのだよ』


「……ゾル!!」


 そしてシュトスは両剣を下に突き、機兵に唯一残る四肢である両足に突き刺す。両足からは電気回路がショートするような音が響く。そして軋みはコックピット内にも響き渡り、心がないはずの機兵の悲鳴のように聞こえた。


「マズイよマズいよ!! このままじゃやられちゃうよ!!」


 シャルは外の映像と俺を交互に見ながら慌てふためく。


「分かってるけどどうしようもないだろ!!」


 立ち上がろうとして途中で千切れた手足を動かすが、当然それで立てるはずもない。


『悔しいか。歯痒いか。だがこれが現実だ。いかに優れた操者だろうが所詮はただのガキ。お前じゃ何も守れやしない。

 ――フェルモントも処刑され、戦争は終わる。貴様を呼んだ代償に、無駄に光を失ったまま、な……』


「―――ッ!!!」


 完全に、ブチ切れた。フェルモントが処刑される。俺を呼んだのは無駄。俺には何も守れやしない……その全ての言葉は、俺の神経を極限まで逆撫でする。

 歯を食い縛り、シュトスを力の限り睨み付ける。気が付けば口の中には血の味が広がっていた。


(コイツは……コイツだけは……)


『……さて、俺も忙しいんだ。これ以上時間をかけるわけにはいかないんでな。そろそろ終わりにする。貴様を沈め、首都の中にいるネズミ共を始末させてもらう』


 ゾルの声を受け、首都の中に目をやる。穴から見える中では、所々爆発音と誰かの叫び声が響き続けていた。


「………」


 機体の数の差は否めない。おそらく厳しい戦いを強いられているだろう。


「琉斗!!」


 シャルの呼び声が聞こえるが、全く心に響かない。俺を支配していたのは全く別のことだった。挑発だろうが知ったことではない。


(コイツだけは……絶対に許さない!!)



「――ラーゼ起きろ!! このクソ野郎を、ぶっ潰す!!」


 憤怒に満ちた絶叫は木霊となって周辺に轟く。


『断末魔にしては品がないな……』


 そう言い、シュトスは剣を振り上げる。もはや逃げる方法はない。勝負は決した。


 ……そう思った瞬間だった。



「な、何だ!?」


 コックピット内が突然光に包まれた。光景は何も見えない。全方位から強力なライトで照らされているかのように、影もないほどの光に包まれていた。……いや、正確に言えば、光ってるのは俺の体だった。


「これって……!!」


 シャルは何かに気付いたようだ。当然俺にはさっぱり分からない。


「シャル! どうなってるんだ!? 外の様子が分からないぞ!?」


「落ち着いて琉斗!!」


「落ち着けるか!! 外にはシュトスが―――!!」


「もう大丈夫なんだって!! これは“同化転移”だよ!!」


 また聞きなれない言葉が出てきた。シャルの様子から大丈夫であることは何となく理解できた。一度呼吸を落ち着かせ、改めて聞いてみる。


「同化転移? 何だそれ?」


「つまりね、琉人の想いでラーゼの心のスイッチが入ったってことなんだよ。めったに起こることじゃないんだけどね。

 ――“操者の御心答えし時”ってのが条件らしいんだけど……詳しくは覚えてないや」


(また覚えてない……か)


 毎回それだけど、変なところで思い出してるんだよな……。もしかしたら、一種の封印みたいなものが施されてるのかもしれない。時が来ればそれが解放されるとか……って、漫画の見過ぎかもしれない。シャルじゃないが、1000年も経ってるなら忘れていて当然だろう。


「……肝心のことなんだけど、同化転移が起こるとどうなるんだ?」


「名前の通りだよ。ラーゼに転移するんだよ」


「転移って……」


「ほら。光が収まるよ」


 そして光は収束する。そして俺の目の前には、さっきまでのボロボロのコックピットとは違う、とても見慣れた光景が広がっていた。それはラーゼのコックピット。遠くにあるはずのラーゼの内部。


「……ようするに、瞬間移動ってことか……」


(何というご都合主義……)


 まあ任意に発動出来ないならそうは言い切れないところがあるが。何にしてもとにかく助かった。あのままだと、コックピットごと潰されていたかもしれない。


(ご都合主義だろうが何だろうが、これでまともに戦える……!!)


 顔に自然と笑みが出た。

 “目にもの見せてやる!”

 そんな感情が顔を緩ませていた。そしてラーゼに呼びかける。


「――ラーゼ行くぞ!! シュトスを、叩き潰す!!」


 森の中を駆け出すラーゼ。さっきまでのレプリカとは全然違う速度。ずいぶんと久しく感じるラーゼの感覚。


 走る足に力が入る。森を抜けた先にいる緑の騎士を目指して、ラーゼは風を切るように走っていった。







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