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錬成

 格納庫内には予備として機兵が8機ほどあった。フェルモントを助けに行くには、最低でも機兵は2桁用意したい。つまりは、相手機兵を手に入れる必要があるが……とりあえずは、1機拝借する。


 警備にあたる兵士の目を盗み、コックピット部分に近付く。見た目は少しゴツ目な灰色の機兵。今まで散々相手をしてきた機体。構造はレプリカというだけあり、だいたいラーゼと同じだったため難なく内部に入る。コックピット内もラーゼとどこか似た雰囲気だったが、球体を触っても允証が浮かび上がらない。球体は冷たく、本当のただの球を触っているような感触だった。


(これが、シャルが言ってた心がない機兵……)


 オリジナルの操者でもレプリカを操縦出来るのはゾルが証明している。俺でも出来るだろう。


「……さてと、いっちょ行くか」


「琉斗、大丈夫?」


 シャルは不安そうにしていた。ラーゼ以外の機兵に乗るのは初めてだから当然だろう。


「基本は同じなんだろ? 違うのはスペックだけだろうし」


「たぶん、ラーゼとは根本的に出力が違うから、同じ感じで操縦してもかなり鈍いと思うよ?」


「分かってるよ。気を付けるさ」


 そして俺は機兵を一歩前に進ませる。


(………鈍い)


 反応が鈍い。何というか、自分の考えを理解してくれるラーゼと違い、一から全てを想像しないと動かない感じだ。慣れればある程度大丈夫だろうが……ラーゼに戻った時が怖い気がする。


「琉斗、何か下で騒いでいるよ?」


 シャルの言葉をなぞり下を見ると、そこでは敵国の兵士が慌てふためいていた。それもそうだろう。何しろ、動かす予定がない機兵が動いてるわけだし。


「狙い通りじゃねえか。このまま外へ行くぞ」


 そして灰色の冷たい機兵は格納庫を出る。そこには、既に敵の機兵が2機待機していた。

 その片方の機兵からは怒鳴るような声が響く。


『貴様、何をしている!? どこの部隊の者だ! 所属を言え!!』


(……まだ味方と思ってるのか。おめでたいことで)


「所属? 決まってるさ……俺は、シュルベリアの操者だよ!!」


『何!?』


 敵が動揺した隙に、一気に懐に……飛び込みたかったが無理だった。全力で駆け出したつもりだったが、予想以上に機兵の速度は遅く、思いっきり敵の剣先の前までしか行けなかった。


(反応鈍すぎだろ!!)


『貴様! スパイか!?』


 敵はいきなり斬りかかってきた。俺もまた剣を抜きそれを受けるが、剣同士がぶつかる衝撃で、機兵は簡単にバランスを崩した。そのあまりの非力さに、これがラーゼと同じく機兵と称されることに違和感すら覚える。


「パワーも弱い!! なんだよこれ! 本当に機兵か!?」


「ふふん。ラーゼの凄さが改めて分かったでしょ?」


 なぜか得意気に語るシャル。


「言ってる場合かよ!」


『敵襲!! 敵に機兵を奪われたぞ!!』


 レプリカのひ弱さに衝撃を受けていると、敵が首都全体に号令を響かせた。その声を受けて四方から機兵が近付く音が聞こえ始めた。

 

「琉斗、どうする?」


 どうするか……そう聞かれても答えなんて決まってる。


「決まってるさ。――暴れるんだよ!!」


 機兵を再び走らせる。この機体の反応速度、パワー、機敏性はある程度理解出来ていた。だからこそ、機体に応じた戦い方をしなければならない。


 敵の前方に敢えて飛び込む。敵機は剣を俺に向け振りかざす。


(普段よりも早めに対応……!!)


 それを右に躱し、そのままの勢いで敵の胴体に体当たりをする。


『クッ――!』


 敵機はそのまま後方に倒れる。その間に横から向かってくるもう1機、その振りかざした腕の右肘部分を手で押さえ、硬直した隙に腹部を蹴り込み転倒させる。


(この間に……!)


 最初に倒れた敵機の方を向く。敵は片膝をついて立ち上がろうとしていた。その肩を足蹴し、再び転倒させる。そしてコックピット部分に剣を突き立てる。


「機体から降りろ! このまま刺すぞ!?」


 俺の声を受けた機兵の操者は慌ててコックピットを開け這い出てきた。そして機体を放棄し、街の中に逃げ込んで行った。


「よし……次だ!」


 もう一体の方に目をやる。すると敵は既に立ち上がり、剣を俺に向け振り下ろしていた。


「琉斗!!」


「分かってるって!!」


 慌てて剣を構え攻撃を受ける。立て続けに振り抜いてくる敵の攻撃を後退しながら連続で剣で捌く。


「ラーゼならこんな攻撃受けるまでもないんだけどな!!」


「だったら乗り換える?」


「まだだ! まだニーナが来てないだろ!!」


 話す間も次々と剣を振り下ろす敵機。その攻撃を受け続けていると、だんだんとイライラしてきた。もちろん、未だに好き攻撃させている自分に対して。ラーゼならとっくに勝負を決めているはずの戦闘。にも関わらず、いつまでもチンタラ相手をしている自分が不甲斐なく感じた。


「……調子に、乗るんじゃねえええ!!」


 振り下ろしてきた敵の剣に刃先を合わせ右に往なすと、敵機もその方向によろけバランスを崩す。そのタイミングで敵の頭部を思い切り殴り付ける。敵はそのまま後方に吹き飛び、外壁に衝突。外壁は音を立て崩れ、敵はそのまま外部に放り出された。


「……ヤベ」


「琉斗、あれじゃ外の敵がいっぱい入ってくるよ?」


「分かってるって……」


 とにかく外壁の外で倒れる敵機の足を掴み、都市内部に引き込む。そして1機め同様コックピットに剣を立て脅しをかけた。敵兵士もまた先ほどと同じようにあっさりと機体を放棄し走って行った。


「これで10機か……」


「そうだね……。あ! ニーナが来たよ!」


 シャルが指さす方向に目をやると、ニーナが格納庫に向け走り込んできた。その後ろには多数の人影もいる。皆一様にボロボロの布の服を着ているところから、捕えられていたシュルベリアの捕虜だと考えられた。


「成功したみたいだな。――ニーナ! 格納庫に機兵がある! それと、ここにも2機手に入れている! 早く乗り込め!」


 ニーナは手を俺に向け、了解の合図を送る。そして後続集団に指示を送った後、ニーナは俺の横に倒れる機兵に乗り込み立ち上がらせた。


「うまくいったみたいだな、ニーナ」


『ええ。遠くから見ていたよ。レプリカでも敵機をあっさり2機無傷で手に入れるなんてね……。琉斗、流石だな』


 ……言われてみれば、以前ニーナが3機の機兵を相手にした時は手こずっていた。もしかしたら、俺自身ラーゼを操縦することで操縦技術が養われていたのかもしれない。


『……やっぱり、アンタは天才だよ。オリジナルのスペックの差なんて関係ない。同じ能力の機体で、僅かな時間で敵を2機も奪取したんだ。フェルモントが視力を犠牲にしてまでも呼んだ価値は十分あったんだよ』


「……褒めちぎられてるね、琉斗」


(……やかましい)


 何だか凄まじく恥ずかしくなってきた。ここまで徹底的に褒められたのは生まれて初めてだった。


「褒めたってなんもでねえって。それより、外壁に穴を空けちまったから外の敵が来る。――迎え撃つ」


『……うん、わかった』


 他の味方が機兵の準備を進める間、俺とニーナは空いた穴に注意を払う。都市内からも敵がこちらに向け進軍してきていた。どれだけ敵機を奪えるか、それが重要だ。

 ピリピリとした雰囲気が周囲を包む。そんな中、俺の耳に声が聞こえてきた。



『――やはりお前か、琉斗』


「―――!!」


 突然、外壁の穴から“奴”の声が響いてきた。今一番聞きたくない声だった。


「……琉斗、この声……」


 シャルは表情を固くする。俺もまた、一度唾を飲み込んだ。


「――ああ。ゾルだ」


 そして外壁の陰から、1体の機兵が歩きながら現れた。緑色の角張ったフォルム。顔は通常の機兵よりも横に長い。特徴的なのはその腕と武器。両肘部分がスラリとまるで人の腕のようにしなやかに見える。そして武器は通常の剣の柄部分に刃がある双刃の剣。それを2本両手に構える。その姿、歩き方、オーラ……それはまさに、オリジナルだった。


『……まさか、周辺の警戒をしている時に襲撃するとはな。――お前の運の良さも相当だな』


 緑の機兵から皮肉を込めた声が聞こえる。


「……お前の忠誠の高さも恐れ入るよ。まさか、裏切るとはな」


『裏切る? ハン! バカを言うな』


 俺の言葉を鼻で笑うゾル。どこか傲慢な声でさらに言葉を続ける。


『俺は裏切ってなんていない。俺が忠誠を誓うのはただ1つ。ベリオグラッドのみだ』


 その言葉には疑う余地もない程、ゾルの決意のようなものが込められていた。それは、同時にゾルが本当に敵であることを再認識させることでもあった。現に俺の隣に立つニーナは言葉を失い、ただ立ち尽くしていた。


『琉斗、貴様は大したものだ。役立たずだと思っていたオリジナルを起動させ、更にはあのブラオ・シュプリンガーまで退けるとは。貴様の存在は、我が国ベリオグラッドの脅威そのものと言ってもいいだろう。

 ――だが、それもここまでだ。俺が、今日で終わりにする』


 そしてゾルは構えを取り、鋭い刃を俺に向けてきた。


(マズイな……)


 俺が乗るのはラーゼではない。ただのレプリカだ。オリジナルとの性能差は嫌というほど分かった。だからこそ、今現在の事態が最悪であることが十分理解できた。

 そんな状況の中、ゾルは高らかに名乗りを上げる。



『この機兵、“シュトス・シュランゲ”の力、思い知るがいい……

 ――行くぞ琉斗!!』



 

 

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