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首都

 辺りは、未だに暗闇に包まれていた。朝の匂いはするものの、朝日はまだ顔を出していない。

 日が始まる前の森の中を進む俺とニーナ。ラーゼは近くで待機させている。


「……考えてみれば、俺、シュルベリアの首都を見るの初めてだな……」


「そう言えばそうだね」


「まさか、こんな形で国の首都に来るなんてな……」


 首都は高い外壁に囲まれていた。その周囲を機兵が取り囲み、周辺を警戒している。完全に支配されている様子だった。

 シュルベリア……その国には城も街もない。あるのはフェルモントと使用人だけ。国というよりも、集団でしかなかった。改めて、シュルベリアの緊迫した状況が理解できた。


「さて……どうしたもんかな」


 しばらく観察して分かったのは、首都の周辺を警戒する機兵は12機。順次時計周りで周辺を歩いている。


「今のところ、緑色の機兵は見えないな……」


 外壁から内部へ入るのは2カ所。東西にある門だ。しかしそこには当然多数の兵が武装し警戒していた。かと言って、外壁の周囲は水路が通っていて外壁に突起物もない。壁をよじ登るのは無理だろう。


「どうするんだ琉斗? 突破するか?」


「……いや、今騒ぎを起こすのはマズイ。中の状況が分からないまま突破したら、後が怖い」


 しかしこうやって見つめるだけでは中には入れない。ニーナと潜入方法を考えていると、1人偵察に行ってもらっていたシャルが戻ってきた。


「はあ……ねえ琉斗、私はこんなことをするための存在じゃないんだけど」


 帰ってくるなり愚痴をこぼすシャル。ジットリと不満タラタラな視線を送っていた。


「分かってるよ。操者をサポートして導くことだろ? これも立派なサポートじゃねえか」


「……何か、無理やり理由付けしてない?」


「……そんなことより、周辺はどうだった?」


 感付かれそうになったので、とりあえず流してみることにした。


「あ、うん! あのね……」


(………成功)


 そんな俺の思惑なんて露知らず、しっかりと説明を始めるシャル。何だか申し訳なく感じた。


「やっぱり、外壁の周りは一周水路だったよ。入り口も2カ所だけだったね」


「そうか……街の中はどうなんだ?」


「うん、機兵は街の中に7機あったよ。その他に騎士さんがいっぱいウロウロしてたけど」


(ということは、機兵は全部で19機。仮にも敵国の首都を警戒するには少なすぎる気がする)


 首都というだけあって、その広さは結構なものだ。それを機兵19機で警戒するのは困難だろう。やはり予想通り、敵の大隊は既に本国に戻っているようだ。


「サンキュ、シャル。他に何かあるか?」


「う~んと……あ!」


 シャルは何かを思い出した!


「どうしたんだシャル?」


 もしかして、緑の機兵でもいたのだろうか。それともゾルがいたとか?

 シャルは、目をまん丸くしながら高々に語った。



「うん! あのね……噴水が、綺麗だった!」



「………」


「………」


「すんごいんだよ!? 水がぴゅーっと出て、ぶしゃーってなって、ぐるぐる回ってたんだぁ。綺麗だったな~……」


 シャルは全身で噴水を表現し、クルクル回りながら熱く語る。……俺とニーナの冷めた目線に気付くことなく。


(そんなこと見てる場合じゃ………ん?)


 そして俺は気付いた。噴水が街の中にあるということは、つまり……


「……シャル、お手柄だ。首都に潜入できるぞ」


「え!? ホント!? 私のおかげ!?」

 

 シャルはキラキラ輝くような視線を俺に向けながら自分を指さす。俺が頷くと、よほど嬉しかったのか、更に派手にピュンピュン空を飛び始めた。以前もそうだったが、全く状況とは関係ないようなことを言って、結果何かに気付いた。意図的ではないにしろ、しっかりとサポートしてるあたり、神聖な存在ってのもどこか納得出来てしまう。


「琉斗、どういうこと?」


「いいかニーナ。街の中に噴水があるということは、街の中に水が流れているということだ。つまり、周囲の水路から水を引き込むところがある。……そこから街の中に入ることが出来るはずだ」


「でも、この水路がどれだけ続いているか分からないよ?」


「それは……考えがある。とにかく、水路の入り口を探そう。話はそれからだ」


 もう一度水路を注意深く見て回った。もちろん敵に見つからないように。東の空を見れば、太陽が顔を覗かそうとしていた。完全に昇ると周囲は明るくなり、首都への侵入は難しくなる。


「……あそこか」


 外壁の北側の水路の片隅、水面から約1メートルほどの深さに水の出入り口があった。おそらくは反対側にもあるだろう。ここは、水の流れから入り口であることがわかった。その入り口には柵がされていたが、手で揺すると何とか外れた。水面から奥を覗くと、何とか通れるだけの幅はあったが、出口のようなものは見当たらない。


「シャル。ちょっとこの先を見てきてくれ」


「えええ!? また~!?」


「頼むよシャル。――お前だけが頼りなんだよ」


 シャルとの付き合いはそこそこ長くなってきた。だからこそ言えるが、こうして褒めておけば……


「……もう、しょうがないなぁ」


 シャルは胸を張り、鼻高々に承諾する。


(………またまた成功)


「じゃ、ちょっと待っててね」


 そう言い残し、シャルは水中を飛んで行った。

 ……今更だが、コイツは水の中を進んでも大丈夫なのだろうか。電子精霊っていうくらいだから水に弱いイメージがあったが……別に問題ないようだ。


 シャルは意外と早く戻ってきた。


「この先は一直線になっていて、ちょっと進んだら街に入れるようになってたよ」


「潜って行けそうか?」


「うん。大丈夫だと思うよ」


「よし……行くぞ、ニーナ」


「ええ」





 ◆  ◆  ◆





 水路の水は意外と綺麗だった。生活排水は流れていないようだ。水の流れは中に向かっており、思ったよりも順調に内部に進めて行けた。そして水から顔を出すと、そこは居住区と思われる場所の裏路地にある水路だった。

 建物は静まり返り、人の姿がいない。一歩街を歩けば、物々しい装備をした兵士が巡回しており、ところどころには機兵の姿もある。不気味なほどの静寂に包まれた首都は、朝が近いというのにまるで永遠の夜の中にいるかのようだった。

 

「ニーナ、兵士達はどこだ? それと、機兵の格納庫は?」


「……たぶん、中央にある政治塔だと思う。機兵の格納庫は、街の南にあるよ」


「分かった。俺は格納庫に行く。おそらく、予備の機兵があるはずだから、それを確保する。プラス、囮になる。……その間に兵士を解放してくれ」


「どうするんだ?」


 そのニーナの問いに、なぜか俺じゃなくてシャルが答える。


「……どうせ、無茶するんでしょ?」


「分かってるじゃねえか」


 シャルはヤレヤレと言わんばかりに首を横に揺らしていた。それを見たニーナも苦笑いを浮かべる。


「……じゃあ、頼むぞニーナ」


「……任せて。琉斗も気を付けて」


 反転し、走り去るニーナ。ニーナはまだケガの影響がある。俺が出来る限り注意を引きつけて、ニーナが動きやすいようにするのが肝要だ。


 そして俺も格納庫に向け走り始める。


「どうするの琉斗?」


「敵の機兵を奪って暴れるだけだ」


「……それなら、始めっからラーゼですればよかったんじゃない?」


「敵の兵力も分からないのに突撃して、袋にされるのは御免だからな。まずは敵の状態を知ることが必要だったんだよ」


「ふ~ん、そんなもんなのか……」


 シャルは首を傾げる。シャルにとってラーゼは絶対の存在のようだ。そんなもん、全部叩き潰せばいいだけだ。……そう言わんばかりの顔をしている。

 その表情に微笑みを一度送り、前方に顔を戻す。東の空からは日の光が射し込み始めていた。その中を駆ける俺。

 気になるのは、やはりゾルの存在。機兵共々姿を見ていないが、この首都にいることがなぜか分かっていた。この胸騒ぎがそう思わせるのかもしれない。


 そんな心に鞭を打つかのように、格納庫を目指していった。






 

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