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謀反

 岩場に戻った俺達を待っていたのは、その変わり果てた姿だった。

 岩肌は所々壊れ、ヒビが至る所に入っていた。内部も岩崩をしているところがあり、ガタガタの状態。外の森林では戦闘の跡と思しき焼跡が生々しく残り、格納庫は見るも無残に破壊されていた。


「……酷い」


 シャルはその惨状を目の当たりにし、そう呟くしかなかった。


「……クソ」


 俺もまた、何も出来なかったことを悔やみ、ゾルと自分に対する言葉を吐き捨てていた。


 ラーゼを降りて確認をする。やはり、これだけの状況で全員無傷というわけにはいかなかった。負傷者は多数。死人が出なかったのが不幸中の幸いかもしれない。手当を受ける人々を見て回ると、その中に、他の者よりも圧倒的に重傷を負った人物を見つけた。……ニーナである。


「ニーナ、大丈夫か?」


「え、ええ……何とか、ね……」


 とはいえ、右手は包帯が巻かれ、三角巾で吊るされていた。頭部にも包帯、足にも包帯。どう見ても、大丈夫とは言い難い姿だった。


「……ニーナ、すまなかった。俺、間に合わなくて……」


「いや、この件については私のミスだよ。……まさか、こんなに早く動くとは、ね。こんなんだったら、先に琉斗に説明しておくべきだったよ」


 ニーナは虚空を睨みつけていた。顔も歪め、自分のことを罵っているようにも見えた。


「……ニーナ、いつから疑ってたんだ?」


「フェルモントが首都から逃げた時、なぜか兵士長であるはずのゾルが途中で合流したんだ。逃げ出した、と言っていたけど、他の兵士はみんな捕えられたってのに、あまりに不自然だろ? だから、それから監視してたんだ」


「何で誰にも……フェルモントにも言わなかったんだ?」


「確証がなかったしね。それに、もしヤケクソ起こされて、フェルモントに何かされたんじゃいけないから、当面は監視に徹したんだよ。もちろん、就寝中もね」


 ということは、ニーナはろくに寝ていなかったということになる。相当無理をしていたのだろう。


「もっとも、琉斗が来てくれたおかげでだいぶん助かってたけどね。琉斗がいる間に休むことが出来てたし」


(……だから、俺がいる時は高確率で姿を見せなかったのか……)


「本当はね琉斗、こんなことになってるのに、まだどこかで信じてない私がいるんだよ。あのゾルが、国を裏切るなんて……

 ゾルの家はね、先祖代々国を守る騎士の一族なんだ。王家を守ることこそ誇り。誇りこそ生きる糧。そんな家系だったんだよ。

 ……皮肉な話だね。国を守る家系の嫡男が、その国を滅ぼす最後の一手を打つなんてね……」


 ニーナの最後の言葉は、語尾が小さくぼやくように呟いていた。確かにその通りだ。国を守るはずの奴が国を追い込む謀反を起こす。これ以上の笑い話はなかなかないだろう。


 ――琉人、これからどうするの?――


 シャルの言葉で、忘れていた話の本題を思い出した。


「とりあえず、確認だ。――ニーナ、何があったか、説明してくれ」


「うん、分かったよ」


 そしてニーナは地面に落ちていた岩場の破片に腰かけた。


「……ゾルが行動を起こしたのは、琉人が行って少ししてからだった。奴は、どこからか機兵に乗って来たんだよ。

 ――緑色の、刺々しい機兵だった。おそらく、オリジナル。

 そして、ゾルは格納庫を破壊し、岩場に砲撃をしたんだ。私は何とか無事だった機兵を使って迎撃しようとしたんだけど……全然歯が立たなかった。

 私は負けて気を失ってね。……フェルモントが拐われたのは、その後だったんだよ」


 となると、フェルモントが拐われてしばらく経つことになる。となれば、今から追いかけても到底追い付けないだろう。


「……フェルモントが連れていかれたのは、たぶんべリオグラッドだと思う。もしかしたら、もうフェルモントは……」


 ニーナはそれ以上は言わなかった。言いたくなかったのだろう。顔を伏せ、絶望に支配されているように見えた。

 しかし、本当にそうだろうか。


「……いや、まだだ」


「え?」


「フェルモントはまだ殺されちゃいない。べリオグラッドがフェルモントを捕らえたのは、戦争を終わらせるためだ。

 ……だとしたら、フェルモント――つまりはシュルベリアの王族が途絶えたことを、大々的に示す必要がある。人の目がないところで、ひっそりと処刑することはないだろう」


 それまで顔をふせていたニーナは、顔を上げた。そして俺が言いたいことを理解したようだ。


「……公開処刑」


「そうだ。国王の時は、目的はこちらの戦意を削ぐことにあったから、シュルベリアの首都で公開処刑したんだろう。今回は戦争に勝ったことをアピールすることに意味がある。

 やるなら、べリオグラッドの首都。……おそらく、フェルモントもそこにいる」


「だったら助けに行こう!」


 ニーナは慌てて立ち上がり、声を上げた。そんなニーナを制止し、話を続ける。


「敵もそれを一番警戒しているはずだ。今の状態で敵国に攻め行っても勝ち目はない」


「だったらどうするんだよ!」


「体制を整えるんだ。フェルモントを確実に助けるためには、人手がいるからな。

 ……そこで、だ。ちょっと確認なんだが、残る兵はシュルベリアの首都に捕らえられてるんだろ?」


「え、ええ。そのはずだけど……」


「なら、まずはそこを取り戻そう。今なら、敵の兵は手薄になってるはずだ。何しろ、探し求めていたフェルモントをようやく手中に収めたからな。シュルベリアの首都の敵兵も、ある程度本国に戻ってるはずだ。

 ……懸念することもあるけどな」


 そう言って、言葉を濁す。


「琉人?」


(兵の数を縮小するなら、用心のためにオリジナルを配備する可能性もあるな……)


 それこそ、俺が考える懸念だった。配置するなら、そこにいるのはゾルだろう。

 だとしても、いずれはぶつかる相手。遅いか早いかの違いだろう。


「……いや、何でもない。とにかく、出来るだけ早く動こう。まずは使用人を敵国に送ってくれ。処刑の日取りを確認するんだ。

 その間に、俺とニーナでシュルベリアの首都に向かう」


「ここの守りは?」


「必要ないだろう。敵がここを攻める意味はもうない。たとえオリジナルがあっても、国の頭さえ処刑すれば勝敗は決まるからな。一応の用心で、森に姿を隠せば問題ない」


「分かった」


 ニーナは深く頷いた。その顔を見て、俺も覚悟を決める。相手が誰だろうと、戦う覚悟を。


「決行は夜明け前。――首都を、奪還する」


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