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戦鬼

 崖に挟まれた谷間では、爆炎が周囲を包んでいた。その中を駆け抜けるラーゼ。手からハンドガンを撃ちながら、弾幕の中を走り続けていた。


「琉斗!! 数が多すぎるよ!!」


 シャルは叫ぶ。それもそうだろう。見渡す限り、谷間の岩陰に多数の敵機が潜んでいる。


「分かってるから耳元で叫ぶな!!」


 十数体の“味方”と言っていたゾル。笑えてしまう。


「――クソッタレ!! 十数体の“敵”じゃねえかよ……!!」


 あまりの敵の多さに、牽制射撃が意味を成さない。いくら撃っても下には降りてこないし、片側に気をとられると背後、左右から撃たれる。完全に地の利をとられていた。

 いくら撃てども敵は減らない。時間がかかればかかるほど、岩場のことが頭を過る。


「―――ッ!! 降りてきやがれ!! テメエら!!」


 気付けば叫び声を上げていた。球体を持つ手に力が入る。入ってしまう。心が焦る。目の前の敵機よりも、その先にいるはずのゾルに気を持ってかれていた。もしかしたら、これもゾルの狙いなのかもしれない。


「――もう! 見てらんない!!」


 突然シャルが俺の目のすぐ真ん前に飛んできた。そして、俺の方目を両手で無理矢理大きく開かせた。


「バカ!! 何してんだよ!! 見えねえだろ!!」


「バカは琉斗だよ! 今何を見てるの!? 岩場!? ゾル!? フェルモント!?

 ――それは違うよ!! 今目の前いるのは私だよ!? その奥にいるのは敵だよ!? まずはそっちを見ないと、何も助けられないよ!?」


「……!!」


「しっかりしろ琉斗!! ラーゼに笑われるよ!!」


 シャルの言葉が頭を巡る。コックピット内では、外から聞こえる爆音が響いていた。

 そんな中、未だに俺の頭の中には岩場の景色がチラついていた。


「――ああああああ!!!」


 目の前の球体に、思いっきり頭突きした。コックピット内には鈍い音が響く。


「琉斗!?」


 シャルの言葉が何とか聞き取れた。目の前がクラクラする。(ひたい)を拭うと、血が出ていた。


「……ありがとうシャル。もう大丈夫だ」


 岩場の情景はまだ消えないものの、何とか谷間の敵機が見えていた。敵の射撃を避けながら、もう一度冷静に状況を確認する。


(敵は崖の間に身を隠している。だったら……)


「シャル!! 逃げるぞ!!」


「え!? え!?」


「コイツらはただの足止めだ!! 相手しねえ!!」


 そしてラーゼを走らせ、左右の掌から横を一斉にハンドガンで撃ち続ける。爆炎は谷の中を縦2本の筋を描き、煙が谷の中を包み込み、その2つがラーゼの機体を遮る。


『ッ!? 逃げるぞ!! 撃て撃て!!』


 さらに敵の砲撃は激しさを増した。ラーゼを行かせないために、そしてあわよくば撃破するために、一斉総射をかける。

 ……その攻撃は、斜め上から徐々に真横からのものに変わる。


(……よし!!)


 別に逃げてはいなかった。走っていたのも途中までだし、周囲が煙と炎に包まれたのを確認するや、前方に等間隔でハンドガンを撃つ。逃げたと思った敵は、追跡し難い斜面から下に降りてくる、と。そういう構図を描いていた。


(逃げたところでこれだけの数が追って来たら、どのみち岩場が危険になる。ここで叩く!!)


 砲撃が完全に真横からのものに変わったのを確認し、剣を抜く。


「ラーゼ!! 一気に決めるぞ!!」


 敵の方に向け大地を蹴り跳ねる。機体が煙を切り裂くと、そこには十数機の機兵がいた。


『な、何!?』


『逃げてないだと!?』


 敵は動こうとするが、崖の谷間に十数機の機兵。ろくに動きも取れない。


「遅いんだよ!!」


 敵が陣営を組む前に敵の中心部に潜り込む。そして体を回転させ、四方に固まる敵機を吹き飛ばす。そこで2機の胴体を真っ二つにし、2機の手足を切断する。手足を切断された2機に向けもう一度剣を振るい、止めを刺す。


(敵の数が多い。一機一機に時間はかけられない!!)


 すぐに大地にハンドガンを撃ちこみ、爆炎を昇らせる。体勢を低くし、敵の足を狙って続けざまに剣を水平に振りながら走る。

 走り抜けた後ろには、足を失い倒れる機兵が3機。


(3機だけか……!!)


 後退しながらその3機の頭部に向けハンドガンを放つ。数発打ち込むと、転倒した3機の頭部は全て吹っ飛び、先頭不能に陥れた。


 そして、改めて剣を構え、前方に視線を送る。


(残数は8機……ちょっとキツイな……)


「琉斗……どうするの?」


 シャルも不安そうにしていた。これだけの数は経験がないからだろう。俺だって正直戸惑ってる。


「本当は慎重に攻めたいけど……時間がない」


「なら……」


「ああ。無茶するぞ」


「はあ……やっぱり……」


 溜め息をつくシャル。そういえば、俺が無茶する時は大抵絶叫してるよな……


「ああもう!! どうせ何言ってもやるんでしょ!?」


「当ったり前だ!! ――行くぞシャル! ラーゼ!!」


 ラーゼを敵に向け走らせる。敵機からは当然砲撃が浴びせられ、数発がラーゼの肩と腹部に当たり爆発する。


「うおおおおお!!!」


 それでも気にすることなく突っ込み、前方に弾幕を張る。

 巻き上げられた土で視界を遮り、急ターンで真横に飛び跳ね、崖の斜面に足をつく。敵の大半はまだ正面を見ていたが、2機だけこちらを向いていた。


(――あの機体だ!!)


 脚に力を込め、その2機に向け滑空する。そして衝突する直前に前方に剣を薙ぎ払う。


『き、来―――!!』


 叫び声が終わる前に2機の胴体を切り裂く。2機は瞬時にバラバラになり、破片が地面に落ちる前にそのままの勢いで再び大地を蹴り、反対方向の崖肌に足を付け着地する。他の機体は当然分解する仲間機の方に視線を送り、ラーゼから一瞬気を逸らす。


(―――次!!)


 その隙に更に崖肌から敵機集団に向け跳躍し、すれ違い際に斬撃を浴びせ、対面の崖に着地。


 ちょうど反復横跳びの様に何度も何度も敵機の中を往復し、刃を振り抜き続ける。一太刀で仕留められなかった敵機には二太刀、三太刀と追撃をする。


『うわああああ!!』


『た、助けて!! 助けて!!』


『て、敵機、捉えらま――うああああ!!』


 次々と無残に斬り倒され、大地に伏せていく敵機。そこからは阿鼻叫喚が響き渡る。

 もはや統率など取れるはずもない敵集団は、当たることのないハンドガンを無闇に周辺に撃つだけの、ただの案山子かかしにも等しくなっていた。


『何だこの動きは……いったい何なんだ!!??』


 敵のリーダーと(おぼ)しき機体から、恐怖に満ちたような叫びが轟く。


 しばらく往復すると、残る敵機は1機……リーダー機のみになっていた。


『貴様は鬼だ! 戦場に降り立ち、全てを破壊する鬼だ!! 貴様は、必ずここで仕留める!! 祖国のために!!』


「褒め言葉ありがとよ!!」


『ほざけ化物が!!』


 そして崖肌から一際強く飛び出す。そのラーゼに向け剣を構える敵機。


『――来るがいい!!』


「来てやるよ!!」


 敵機は剣を振ることはしない。ただ迫るラーゼに剣先を向ける。


(玉砕覚悟の串刺し狙いか? ――舐めんな!!)


 剣を片手に持ち、敵機の剣先を逸らす。そして残った手で敵機の頭部を掴む。


『な、何いいい!!??』


 対岸に跳ぶことをせず、そのまま敵機を押し込み、頭部を地面に押し付けながら大地を滑り抜ける。そのまま敵機と共に地を裂きながら進み、奥にあった巨大な岩に衝突した。

 岩は勢いよく砕け、谷には土煙と共に細かい石の雨が降り注ぐ。


 その雨の中、大地に立つのは白い騎士。その目の前には、頭部とその付け根付近が大破した敵機が力なく横たわる。


「鬼、か……」


 その敵機を見ながら、敵機から言われた言葉を思い出す。


「……琉斗?」


「大丈夫だ。――岩場に急ごう」


 そして岩場に向け走り出す。


(鬼……上等だよ)


 心の中で唾を吐き、フェルモント達の無事を祈る。

 敵機の破片が多数散らばる中を、ただひたすらに前を向き駆け抜けていった。

 


 

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