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暗転

 格納庫に辿り着き、ラーゼを見上げる。その姿を改めて見ると、やはり勇壮だ。純白に赤の紋様の巨大な騎士。ブラオも見事だったが、ラーゼは数倍強そうに見える。自分の子供が他の子供より可愛く見えるような感じなのかもしれない。


「琉斗……」


 ラーゼを見上げていると、後ろから声をかけられた。そこには、付き人に手を引かれるフェルモントがいた。


「あ、ああ……どうしたんだフェルモント?」


「い、いえ……その……」


 フェルモントは頬を桃色に染めながら、顔を下に向けてしまった。それを見ていたら、何だか俺まで恥ずかしくなってきた。思い出すのは帰還した日のこと。泣きじゃくるフェルモントを抱き締めた時……

 今更ながら、スンゴク恥ずかしくなってしまう。それは、フェルモントも同じなんだろう。


「………」


「………」


 2人して黙り込んでしまった。何というか、話す言葉が見つからない。これで目を見られた日には恥ずかしさに負けて、とっととラーゼで出て行ってしまっていただろう。


「……オッホン!」


「―――!」


 付き人の女性が、わざとらしく咳を1度した。傍から見ると、何をしてるのか分からない構図になっていたのかもしれない。

 何となく、付き人の人に頭を下げた。付き人の女性は優しく微笑み返して、視線をフェルモントに向けた。


 ――ほぉら。早く言葉をかけてあげなよ――


(分かってるよ……)


「……フェルモント、今日は、いい天気だな」


 ――……琉斗、会話のセンスがない――


 シャルは呆れるような声を出す。溜め息交じりに。


(やかましい!!)


「そ、そうですね。鳥たちのさえずりも喜びに満ち溢れていました」


 にこやかに言葉を返すフェルモント。


 ――……琉斗達、何か似てるね……――


(ハハ……)


 思わず苦笑いが出てしまう。フェルモントも、会話に困ってるみたいだな……


「それで? フェルモント、どうしたんだ?」


「は、はい……」


 すると、フェルモントは自分の首に手をやった。そして、それまで首にかけていたネックレスを外し、手渡してきた。小石程度の、綺麗な紅い石が括りつけられたネックレスだった。


「これは?」


「これは、父からいただいたものです。琉斗、あなたに預けます」


「親父さんから? ダメだフェルモント。俺なんかが受け取れない」


 手を差し出して返そうとすると、フェルモントは首を振り、受け取ろうとしなかった。


「いいんです。琉斗に持ってもらいたいんです。あなたは、ずっと死地を駆け抜けてきました。これから先も危険なことが多いことでしょう。

 ――その石は、お守りのようなものです。きっと、あなたを守ります。ですから、持っていてください」


「………」


 一度石に目をやる。掌の上で、淡い光を放つそれは、神秘的なオーラを出していた。


「……わかった。でも! 預かるだけだ。これは親父さんがフェルモントにと渡したやつだから、そのうち返す」


「はい。わかりました」


 フェルモントは満面の笑みを浮かべていた。その顔はとても幸せそうだった。


 ――琉斗も、素直じゃないなぁ――


(………やかましい)


「じゃ、じゃあフェルモント、そろそろ行くよ」


「はい。……気を付けてくださいね」


 ラーゼに乗り込む。下を見ると、フェルモントが心配そうな目でラーゼを見上げていた。そんな顔をフェルモントを見ながら、岩場を後にした。





 ◆  ◆  ◆





 ゾルが言っていた部隊は、岩場から遠い山間の谷で落ち合うことになっていた。そこに着いた俺は、その光景をキョロキョロと見渡してみた。何でわざわざこんなところなのか聞いてみたい。岩場からは遠いし、切り立った崖が両側にあり視界は悪い。まあ、逆に敵からも捕捉されにくいのはある。またゾルが好きな、“だからこそ”ってやつなのだろう。


 当の部隊はまだ来ていないようだった。十数機と言っていたが、それだけの数が集団で行動するなら、少し時間がかかるだろう。

 来るまで暇なので、ゾルが言っていたことを思い出してみた。もちろん、ニーナの件だ。

 身内を疑いたくはないが、確かにゾルの言う通り気になることが多い。これまでも度々姿を消していたし、どこに行ってたのか聞いたこともない。疑うには十分かもしれない。もっとも、それが分かってるゾルなら、その対応も……


「………ん?」


 ふと、何か違和感を感じた。


「どうしたの琉斗?」


 しばらく考え込んでみる。漠然として、何かを感じていた。霧がかかったように、鮮明にその姿が見えないが。


「なあシャル、さっきのゾルとの会話で、何か違和感なかったか?」


「違和感?」


「ああ。何か、どうも引っかかるんだが……」


 頭の中で会話を思い出してみる。最初っから最後まで。


(何だ? 何が変なんだ?)


 腕を組み、冷静に会話を再現する。何が気になっているのかを確かめる様に、モノクロの景色を思い出す。

 ……そして、ある言葉に行き着いた。



 “電子精霊によろしくな”



「―――ッ!!??」


 急激に心拍数が上がった。全身を変な汗が流れ始める。頭を抱え、今頭に浮かんだことを疑い始めた。


「嘘……だろ?」


「琉斗!? ねえ、どうしたの琉斗!?」


 突然の俺の変わりように、焦るように声をかけてくるシャル。

 その言葉に答えることなく、思考に耽る。


「いや……でも……」


 俺は出来る限り冷静に分析をする。しかし、それならニーナは……

 


「――そういうことかよ!!」


 慌ててラーゼを振り返らせ、岩場に向け走らせた。


「ちょ、ちょっと琉斗!! 説明してよ!!」


「何でゾルはお前が電子精霊って知ってたんだ!?」


「え!? どういうこと!?」


「俺はな、お前が“電子精霊”なんてのは、一言も言っちゃいないんだよ!! 電子精霊ってのは普通知らないんだろ!? ゾルはそれを知っていた!! ――だったら、考えられるのは1つ!! つまり――」


 その瞬間、走るラーゼの目の前で爆発が起こる。爆風と衝撃で、ラーゼは後ろに吹き飛ばされた。


「な、何!? どうしたの!?」


「―――ッ!!」


 体勢を整え、大地に立つ。そして崖の奥を凝視する。崖の岩の陰には、レプリカの機兵が数機姿を隠していた。


(クソッ!! 行かせないつもりか!?)


 気が付けば後ろにも敵機の姿があった。退路を断たれ、ラーゼは周囲を包囲されていた。


「琉斗……これって……」


 シャルは、取り囲む機兵達を震えながら見ていた。顔を青くし、キョロキョロと、何度も確かめる様に見渡す。


 そして、俺もまた静かに“その事実”を確信し、言葉にする。



「……つまり、ゾルはべリオグラッドからの“回し者”――しかもおそらくは、残るオリジナルの機兵の操者だ」


「え!? じゃ、じゃあ、今岩場は……」


 ……そう。これまで正体を隠していたゾルが、ここまであからさまに動き出したということは……



「――ああ。岩場のみんなが、フェルモントが危ない……!」




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