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圧倒

 山間の村は争乱の渦中だった。

 炎と黒い煙が立ち上ぼり、鼻につく焦げた匂いが充満する村の中を、エリーゼが操縦する青いオリジナルの機兵――ブラオ・シュプリンガーは建物を避けながら賊の機兵に向け駆け抜けていく。


『平和な村を襲った罪は重い! 覚悟しろ!!』


 エリーゼの叫びがこだまするブラオは、両肩に装備された剣を抜き取り、一番近くに立つ敵機の懐に入り込む。


『ヒィッ!!』


 敵機から聞こえる短い悲鳴が途切れる間もなく、ブラオが凪ぎ払った剣は1体目の敵機を上下2つに分断する。分断された機体はバチバチと音を立てながら無惨に地上に転がった。


 一瞬の出来事だった。瞬く間に1機を撃破したブラオに、俺は言葉を失った。それは、賊も同じだった。残りの4機も、ただただ後退り、恐れおののいていた。


 傍から見ても一目瞭然だった。

 未だ1対4という数的不利な状況であったにも関わらず、既にエリーゼはその場を支配していた。


『……どうする? まだやるのか? 大人しく投降すれば、これ以上の戦闘はしない』


 剣を片手に、エリーゼは凄む。そこには、数の差をものともしない、エリーゼの絶対的な自信が見えた。


『……な、舐めるなぁ!!』


 さっき村に脅しをかけた声だった。

 ……しかし、それがどうだ。先程まであった威圧的な口調はすっかり姿を消し、まるで自分を包む絶望だとか恐怖だとかいう負の感情を、必死に掻き消すかのように声を上げている。

 それに続き、残りの3機も一斉にエリーゼに突撃をかけだした。


『ウオオオオオ!!』


 迫る4機の敵。それでもエリーゼに焦りは全く見えない。


『……愚かな』


 ただ一言、臆することなくそう呟くだけだった。


 先頭の機兵が剣を振り切る。ブラオはそれを跳躍で躱し、そのまま4機の頭上を一気に飛び越える。

 そして着地するや更に大地を蹴り、4機に向け猛然と地上すれすれを飛ぶ。


『なっ――!?』


 後方の機体からは驚愕の声が漏れる。そして4機がブラオを振り返る間も与えず、死に体となった後方の2機に対し、光のような太刀筋を2振り閃かせた。

 2機にそれを避ける術などあるはずもなく、1機目同様、機体は両断され、地面に沈む。


『ば、化け物め……!』


 敵機からそんな声が響いた。

 確かに、桁違いだった。機体の性能差なんて理由では到底片付かないほど、エリーゼと賊には圧倒的な力の差があった。


 ――あのエリーゼって人、凄い……。完全に機兵を使いこなしてる……――


 シャルは、あまりの驚きに茫然と声を漏らす。電子精霊から見ても、その凄さは別次元なようだ。

 ……俺は、この世界に来て初めて見たオリジナルの機兵操者に、言葉を忘れ見入ってしまっていた。


 ブラオは、それまでの機敏な動きとは違う行動を始めた。

 駆けることなく、飛ぶことなく、敵機に向かい悠然と歩き始めた。


 その姿に、残りの2機は動けなくなっていた。目の前には仲間を切り伏せた敵がいる。それもゆっくりと歩きながら。

 それでも動かない。いや、動くことが出来ないのだろう。


『う、うあああああ!!』


 1機が、迫る恐怖に耐えきれなくなったかのように、剣を振りかざし走り出した。

 ブラオは歩みを止めることはない。ブラオは、敵機が剣を振り下ろし始めた瞬間、力なく下げていた剣を素早く切り上げ、敵機を一太刀で先頭不能に陥れた。


 そして、ブラオはそのまま歩き続ける。


『……残るは、貴様だけだ』


 徐々に近付きながら、エリーゼは険しい声を出す。


『そ、そうか……。お前は、“青の騎士”だな!? 国の3体のオリジナルが、どうしてこんな村にいるんだ!?』


(……やっぱり、そうなのか)


 ……思った通りだった。エリーゼは、隣国の者だった。しかもそれだけじゃない。オリジナルの機兵の操者だった。

 心のどこかで、そうじゃないことを祈ってる自分がいたことに気付いた。

 でも、それは決して通じることはなく、エリーゼは、敵だった。


『この村は、私の故郷なんだよ。喉かで美しい村だ。

 ……そんな村を襲った罪、その重さを暗い牢獄で噛み締めろ』


『くそおおお!!』


 敵機は掌をブラオに向ける。


(マズイ!!)


『くたばれええええ!!!』


 そして敵機は、ハンドガンを一斉に放った。途切れることのない発射音。爆炎と煙が瞬く間にブラオを包み込む。それでも敵機は撃ち続けた。


 しばらくして、敵機はゆっくりと両手を下げる。目の前は煙が充満し何も見えない。それでも、放たれた弾丸は目の前で次々と爆発し、全弾がブラオに命中したことが分かった。


『ハハ……ハハハハ……!! やった!! やったぞ!!』


 賊は勝利を確信したのだろう。喜びの声を上げ、高笑いをしていた。


 ……しかしその瞬間、白煙を切り裂いて中から剣が飛び出した。そして刃は、敵の機兵の胸部を貫く。

 レプリカからは軋む音と、途切れ途切れの声が響いていた。


『な……何……と……!?』


 その時、一迅の風が吹いた。その風が白煙を連れ去ると、そこには傷1つない輝きを放つブラオが立っていた。そしてその手を敵機に向け、剣を突き刺していた。


『……生憎だが、そんな攻撃は、このブラオ・シュプリンガーには通用しない』


『く……そ…………』


 残る1機も、その声を最後に地に倒れた。


 その光景を目の当たりにした村は、歓声に包まれていた。

 そんな中、俺は1人拳を握り締める。


「……シャル、帰るぞ」


 俺はそう呟き、踵を返してラーゼが待つ森に向かう。


 ――琉斗、いいの?――


「ああ。エリーゼは、隣国の操者だ。これ以上世話になるわけにはいかない。戦う相手とは、仲良くなりたくない」


 ――……そう、だね……――


 シャルは、それ以上話しかけることはなかった。





 ◆  ◆  ◆





 ラーゼに乗り込んだ俺は、周囲に見えないように身を屈めて進み始めた。

 その途中、ふと村の方に目を向ける。村は遠すぎて、人の姿はよく見えない。


「……なあシャル。視界をズームには出来るか?」


「出来るよ。見たい方向に目を凝らしてみて。そしたら勝手に近付いていくよ」


 言われた通り、村に向けて目を凝らした。スクリーンは徐々に村に近付いていき、村の様子がはっきりと分かるまでになった。

 村の中を見渡す。そして、スクリーンは機兵を降りたエリーゼの姿を捉えていた。


「……誰かを、探してるみたいだね」


 シャルの言う通りだった。

 エリーゼは村中を駆け回り、周囲をキョロキョロと見渡していた。その顔はさっきまでとは全く違い、今にも泣き出してしまいそうな表情だった。


「……ねえ琉斗。エリーゼは、もしかして琉斗を……」


「シャル、それ以上は言うな。……言わないでくれ」


「……うん」


 視線を前に戻し、ラーゼを走らせる。


 心が握り潰されそうになっていた。

 最後に見たエリーゼの表情が、嫌に脳裏に焼き付いていた。


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