魔王
ユニークアクセスが800を超えました。
作者は喜びのあまり指を骨折しました(・ω・`)
「ん……此処は?」
気づくと俺は黒い石造りの部屋に1人佇んでいた。
「おおっ!!視点が高い!!身体もゴツゴツした石だし本当にゴーレムになってる!!」
ふと、視界にくすんだ灰色の塊が映り、それが自分の手という事に気づくのにワンテンポ遅れてしまった。
すげぇな……慣れ親しんだ人の身体を捨てて俺は今ゴーレムになってるんだ。
何だか、不思議な感覚を覚えて俺はじっくりと自分の身体を確認しようとして我に返る。
「っと、こんな事してる場合じゃないな。此処は何処なんだ?てっきり草原かどっかがスタート位置かと思ったんだが……」
感動も一頻りに、俺は現在地を確認すべく部屋の様子を伺う。
部屋は細長い形をしており、奥に行くほどに段々と床が高くなっていくようで緩やかな階段みたいだと感じる。俺の後ろには巨大なドアがあり、どうやら俺は部屋の入り口に立っているらしい。
ちなみにドアには鍵でもかかっているのか、開く事は無かった。
天井はかなり高いらしく、3m近い俺が見上げても上はただ闇が静かに続いていた。
「……何をしておる。はよう此方へ来ぬか」
「なっ……!!」
いきなりくぐもった声が響くと思うと俺の巨体が浮き上がり、部屋の奥へと引き寄せられていく。
自分に見えない何らかの力働いているという事、1人だと思いこんでいた部屋に誰かがいた事、部屋の奥に行くほどに強くなっていく威圧感。
一気に展開した流れに俺はパニクるが、なすが儘に身体を引き寄せてくる力に身を預ける。
やがて、部屋の終わりが見えると闇に覆われたそこに1つの影を確認する事が出来た。
影が手を軽く振るうと、俺に働いていた未知の力が消え去り自由の身となる。
「いったい、なんなんだ!?」
地響きを立てて着地した俺は先の力の主であろう影に対して苛立ちを隠さずに睨みつける。
ヒシヒシと感じる威圧感から相手が俺よりもかなり格上なのかは分かるが、だからって後込みなんてしない。
「ほぅ、儂を恐れぬか?よほどの勇気の持ち主かそれとも、力の差すら分からぬ愚鈍の塊か……」
「あー……多分その両方かな」
俺は昔から強い相手に食ってかかる悪い癖がある
。
昔っから対して強くもないのに、年上で身体が二周り近くも大きなイジメっ子に正義感翳して、食ってかかり返り討ちによく合っていた。
しかし、どれだけ殴られようと傷つこうと俺の癖は治る事は無かった。
「ムカつくんだよ、力翳して我が物顔で闊歩してる奴が。自分より弱い奴を探して威張るその様が。強けりゃ偉いと信じているその考えが」
「ほぅ、どうやらお主は愚者の類らしいの……」
放たれている威圧感がドッと強くなる。思わず声を出しかけるが、歯を食いしばる事でそれを押さえる事が出来た。
と言っても、それは最初だけの事まるで物量があるような威圧は俺の身体をジリジリと後退させていく。
「じゃが、儂は賢者よりも道化のが好みでの。気に入ったぞ」
「……なら姿を見せてくれよ。1人で喋ってるみたいで余り気持ちよくない」
フッと俺を圧倒していた威圧感が消え去り、声の主は愉快げに笑い声を上げる。威圧が消えた今ならばと俺は相手に姿を見せるように言ってみる事にした。
「そうじゃな、儂が姿を見せるのはシステム的に良く無いのじゃが……まぁ、よかろう。儂もお主の姿をよく見たくなった」
先程の威圧感とは打って変わって、友好的な空気を放つ影は指をパチリと鳴らすと部屋の入り口から紫っぽい炎が灯り、最後に声の主を覆っていた闇を晴らす。
俺は思わず絶句していた。
目の前にいるのは絶世の美少女だった。
病的なまでに白いも美しい肌、大きな紅い瞳は白い肌に良く映えている。
美人には姉貴と奈津美を普段見慣れてるせいで耐性が出来てる筈なのだが
、その瞳にじっと見つめられると何だか恥ずかしくなってつい目を逸らしてしまう。
「ほぅ、ゴーレムとは珍しいの……ふむふむ、お主……名は何と申す?」
俺の前にウィンドウが現れ、名前を入れるよう指示が出る。
キャラメイクの時に名前を聞かれなかったと思ったが、此処で入力すんだな。
「……ハルク」
俺は入力を終えると目の前の美少女に向けて名を告げる。
春久の久をクと呼んで、ハルク。
憧れのヒーローの名であり、俺がVRMMO等の大抵のゲームにつけている名前だ。
「ハルクか……うむ、良い名前じゃな」
「なら、あんたの名前も聞いていいかな?」
「儂か?」
俺が名を尋ねると目の前の少女は悪戯っぽく笑う。
「儂はアスタロト・ヴォン・ミステルリア。魔王アスタロトじゃ」