プロローグ
既に何番煎じか分からないVRMMOものです。
のんびり書いていきます。
VRMMO《Life》の制作発表が行われたのは今から3年程前になる。
既にVRMMOはゲーム業界のジャンルの1つに上げられる程普及している世の中に《Life》は衝撃を与えた。
《Life》が推すのは上限を無くしたレベルでも、
無限とも言われる程多く存在するスキルでも、現実と見紛うばかりのグラフィックでもない。
《Life》の世界の主役は魔物なのだ。
プレイヤーは魔物となって、領地を広げようと必死な人類や他の魔物と争うというシンプルな設定。
自分が人ならざるモノになり好きに暴れる事ができるという謳い文句に世の中の人は胸踊らせる。
実際、人外のキャラクターを使用できるVRMMOは存在している。
しかし、それは飽くまでも人狼や吸血鬼等の人に限りなく近い存在だけに過ぎなかった。
理由として、現実の身体と余りにもかけ離れたキャラクターを設定し、プレイするとゲームを終え現実世界へと意識が戻ると架空と現実の身体の差に脳がついていけずに混乱してしまい、脳にダメージが残ってしまうという事が挙げられる。
しかし、《Life》は独自に開発された補助システムを搭載。
家と変わらぬ大きさのドラゴンから、本物の蟻程の大きさしかない魔物の幼体までプレイヤーは自由な姿を選ぶ事ができるという。
さらに、プレイ可能な魔物の種類は数千にも昇るらしく、ステータス割り振りやスキルによって自分だけの魔物が作成できるという魅力がある。
既に全体の80%は完成されているにも関わらず 、情報は小出しにしか去れず《Life》の登場を心待ちにしているプレイヤーは長期に渡り生殺し状態が続いた。
この俺、志木春久もその1人だった。
そして、遂に今日の午後12時。
βテストすら秘密裏に行われたVRMMO《Life》がサービスを開始する。
―――
俺はようやく覚醒した意識の中ゆっくりと布団の中から這い出る。
自分でいうのも何だが俺の寝覚めはかなり悪い。
大音量で鳴り続ける目覚まし数十個に囲まれても爆睡していた俺は兄貴曰わく「例え家の隣が爆破されても寝続ける」らしい。
その俺が目覚まし18個という異例の少なさで予定時間を1時間しか寝過ごさずに起きれたのだ。
これはきっと家族揃って俺を褒め称えるに違いない。
俺は寝間着のジャージの上から適当に上着を羽織りリビングへと向かう。
「おはようさん、皆の衆」
リビングには家族全員が揃っていた。
全員といっても幼い頃に両親と死別している為、 兄貴と姉貴、それに妹の3人なんだが。
「おぅ、春。今日はやけに早いじゃねェか。幾ら寝坊助のお前でも《Life》の稼働日は寝過ごさなかったみてェだな」
「当たり前だよ兄貴、長い間お預けくらってたんだから」
真っ先に声をかけてきたのは一家の大黒柱の兄貴、名前は暁人。
親が死んでから遺産目的で手を伸ばしてきた親戚を一喝して追い払い、高校を中退しまだガキんちょだった俺達を養ってくれた優しい兄貴だ。
ただし、その見た目は金髪のウルフロングに刃物の如く鋭いツリ目。重度のヘビースモーカーで必ずと言って良い程その口には煙草かその代用品がくわえられている。
どうみてもヤンキーにしか見えない。
「春くん、さっさと席に着きやがりなさい。朝ご飯が冷えちまうわよ」
「分かったよ、姉貴」
丁寧なのか口が悪いのか定まらない特徴的な口振りなのは姉の美冬。
グラビアアイドルも裸足で逃げ出すスタイルの持ち主なのだが、兄譲りの鋭い目つきと歯に衣着せぬ物言いに、言い寄ってきた男の心は深い傷を植え付けられている。
俺がベーコンエッグとサラダが乗せられたプレートが置かれている俺の席につく。
「いーよなー、兄ちゃん達は。サービス開始と同時に《Life》出来んだろ?アタシも学校休みたいなー」
俺の前の席で朝食をとっている妹の奈津美。
大学生の俺や社会人の兄貴や姉貴とは違い奈津美は高校生。
わざわざ《Life》の為に休みを取った兄貴達や、この日を見計らい授業すら取っていない俺とは違い普通に授業があり、サービス開始時に立ち会えないのだ。
会話から分かる通り俺達家族は全員が《Life》を楽しみに今日を迎えた。
兄貴に至っては初回生産5万本で予約開始から5分もたたない内に完売してしまったらしい《Life》を前日に家族分手に入れてきてくれた。
「「学校は行け(行きやがりなさい)」」
「むぅー」
兄貴と姉貴に怒られ、奈津美はその整った顔をしかめる。
身内の俺が言うのも何だが、奈津美はかなり美少女だと思う。
ロングストレートの髪は兄貴と同じ金色。これは染めた訳でなく父親からの遺伝だ。
さらに姉貴に劣らぬスタイルの持ち主で未だに胸が成長し続けているらしい。
口は悪いが誰にでも分け隔て無く接するその気さくな性格で男女問わず人気があると言われたと保護者懇談に行った兄貴が嬉しそうに語っていた。
物心つくまえに死んでしまったからイマイチ覚えていないのだが、父親は日本人でなく金髪碧眼の持ち主だった。
兄貴に聞いたが何処の国の出身かは教えてくれなかったという。
片や母親はゲーム狂いの純日本人。俺達のゲーム好きの血は母親から受け継がれてるみたいだ。
「安心しろ、お前が必死扱いて勉強してる間にお前の分まで楽しんどいてやるから」
俺は姉貴からご飯を受け取り、食事を始めながら 奈津美に口を開く。
「兄貴の馬鹿野郎!!いいもんねっ、私はその分ギリギリまで情報を得れるんだからなっ」
「あいあい、分かったからさっさと学校行け」
何やら最後まで文句を言いつつも奈津美は学校へ行った。
「奈津美には少し申し訳ねェな。」
兄貴が紫煙を吐き出しつつ、申し訳なさそうに呟く。
まぁ、確かに少々申し訳ない感はあるのは確かだ。
だからこそ、奈津美がゲームを始めた時に兄らしく色々アドバイスしてやれる程にやり込むべきではないだろうか?いや、そうに違いない!!
「なら、今日は早めに夕飯を済ましちまいましょう。食い終わってから皆で奈津美ちゃんのレベル上げでも手伝ってやりましょ」
姉貴の言葉に俺も兄貴も反対する事は無く、俺は食事を終えると姉貴と一緒に洗い物を済ませ自分の部屋へ戻っていった。