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除夜-S トラウマ


 俺は怖くて仕方がない。


 彼女がそばにいないと不安でたまらなくなる。


 また勝手に傷ついてるんじゃないかって、思うから。


 ほんと、心臓に悪いんだ。



(だから、コレ 絶対 恋愛じゃねぇーし!)

 と、自らに言い訳をして春日真〔かすが しん〕はその相変わらずガリガリで肉の薄い体を支えた。

「真ちゃん」

「危ねぇーよ、おまえ」

 いつも「そう」であるように まったく 危機感のない志野原愛美〔しのはら いつみ〕に腹立たしいやら、ホッとするやらで真は面白くないと睨みつけた。

「ごめんなさい」

 素直に謝りながら、そのくせ改善はみられないからタチが悪い。

 そんな彼の心情を知ってか、知らずか彼女は不思議そうに首を傾けた。

「あれ? でも、どうしているの?」

「あー、そこで見かけて……心配だったから後ろについてた。案の定、だったな」

 愛美に対しては、考えるよりも先に体が行動するのはいつものことだった。

 一緒にいた女の子の怒った顔が目に浮かぶけれど、どうしょうもないと息を吐く。

「志野は丈夫じゃないんだから」

「そうだよね。わかってるんだけど……真ちゃん、また彼女に振られちゃうよ?」

 「今日、約束してたじゃない?」と言われるまでもなく、そうだろうなと笑うしかない。

(彼女、っていうか、アレは女友達なんだけど)

 それにしても、真が女友達と約束していたことを愛美が普通に知っている事実に複雑な心境になる。情報源は十中八九、栗石兄妹の片割れ栗石要〔くりいし かなめ〕だろうな、と苦々しく思い浮かべた。

 特にやましい何かがあるわけではなかったが、できれば気づかれたくないと思うのは幼い頃からのアレコレが普通の幼馴染よりも深いせいかもしれない。

 そう。

 真と愛美は普通の幼馴染よりも、少し関わり合いが深い。

 それは、愛美のプライベートな問題であり、その問題は彼女の身体的、精神的な成長に深刻な影響を及ぼす種のデリケートなものだ。

 今でも、真はあの小学生の頃の自分の言動に後悔している。

 幼かったとは、周りの大人(先生や、両親)が慰めてはくれたし、戻ってきた愛美もむしろ真に感謝して異常に懐いたくらいなのだ。

 縋るものは、真しかいないのだと刷り込まれた雛鳥のように見上げた眼差しを今でも忘れられない。

 それまでは。

 ガリガリの野良猫みたいで、ずっと警戒心をむき出しにしていたのに……あの出来事が彼女を変えた。

「あー、うん。でも、しょうがないよ……これで振られるんなら」

 当たり前だ、と胸が苦しくなる。

「そうかなあ?」

 何も分かってないふうで愛美は絶対の信頼を真に向けてくる。

 だから、心配をするのは当たり前なのだ。

「そうなんだよ。俺からすれば、志野に怪我されるほうがたまんないよ。おまえには前科がありすぎる」

 あんな場面は二度とご免だ、と睨みつければ彼女は笑った。


「 真ちゃんは優しいね 」


「そうでもねぇよ」

 即座に言い返して、憮然となる。

 愛美は真のそんな表情をうっとりと眺めていたかと思うと、「あのね」と切り出した。

「――願掛けに来たの。真ちゃんと一緒の高校に行けますように、って」

「ふぅん、志野ならもっと上に行けるのにな」

 ぼんやりしているくせに、彼女は思いのほか頭の回転がいい。真の進学する高校も平均より上だが、それでも学校の先生たちはガッカリするだろう。

「ううん、無理だよ」

 やけにキッパリと愛美は言って、石段を上りはじめた。今度は慎重に上る彼女の後ろについていくと年が明けたらしく太鼓の音が響いた。

「あけましておめでとう。今年もよろしくね」

 振り向いた愛美が幸せそうに言ったから、ホッとする。

「はいはい、よろしく。前を見ろ」

 トントントン、と跳ねる足取りで最後の段を上りきると、彼女は両手を掲げて喜んだ。



 心の片隅で、俺は。


 ほんの少し。


 もしかしたら、彼女と離れずにすむことに、いま。


 安堵したんじゃないかって、考えた。


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