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卒業-I 幸福論


 あ けーてぞ け さーぁは わ かーれゆぅくー♪


 中学の卒業式の翌日が公立高校の合格発表の日だった。

「真ちゃん! あった、あったよっ」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、志野原愛美〔しのはら いつみ〕は我がコトのように喜んだ。その腕に引っ張られる格好の幼馴染の恩人様は迷惑そうな表情で呆れたとばかりに彼女を見下ろす。

「おまえね……そんな喜ぶってコトは、なにか? 俺が落ちるとでも?」

 と、ものすごく不機嫌そうに言った。

 ギクリ、としたのは冗談だよ?

「ち、ちがうよ! だって、真ちゃんと同じ高校に行けるんだって思ったから嬉しくて」

 そう、つい気持ちが高ぶってしまった。

「うれしい……」

 涙が零れそうになるのを必死にこらえて、パチパチと瞬きをしてもう一度合格発表の掲示板を眺めた。

 確かに、彼の「596」という受験番号がある。

「感動してるとこ申し訳ないけど、志野?」

「なぁに?」

「自分の番号は見たワケ? 俺、知らないから確認のしようがないんだけどさ」

「 あっ! 」

 あ、ってなんだよ? と笑って、春日真〔かすが しん〕は愛美の受験票を覗きこむと顔を上げてすぐに声を上げた。

「あー、アレだ。549」

「……あ、あった? わたしのあった?」

 愛美は見るのが怖かった。

 番号がなかったら、奈落の底に突き落とされたも同然だ。今の今まで、自分が落ちるという想像をしなかったから余計に不安になる。

 そんな彼女を見て、彼は「馬鹿?」と小突く。

「あるよ。俺が受かるんだから、志野は余裕だろーが!」

 嫌味か? と睨む真に泣きそうな顔で愛美は訴えた。

「……わ、わかんないよぅ! そんなの。わたし、運悪いし」

「ったく。面倒なヤツ……ホラ、見ろ。549、あるだろ!」

 グイ、と下を向く愛美の顔を真の手が持ち上げて、促した。


「ある……」


「誰が運が悪いって?」

「わたし?」

「んなワケあるか!」

 うん、だよね? と愛美は、愛美の腕を振り払い先に歩いていく彼の背中を見つめた。

(きっと、わたしの運は真ちゃんに出会うことで使い切ってるだけ、だもん……)

 そう考えると、強運なのかもしれない。

「志野?」

 後方でボゥとしたように佇む愛美に気づいた彼が振り返り、彼女の名を呼ぶ。


 それだけで、十分だって思うから。


「真ちゃん!」

 彼の待つ固くツボミを結んだ桜の木の下に駆けていって、抱きつく。

「おいっ!」

 嫌そうな声が耳元に流れてきても、愛美ははなさなかった。

 パッと顔を上げて、笑う。

「高校でもよろしくね、真ちゃん」

 その距離が息がかかるほど近いことも、周囲に未来のクラスメートとなるかもしれないギャラリーがたくさんいることも彼女には問題ではなかった。

「はいはい、よろしく」

 諦めた真が応えてくれること、「また、志野のお守かよ?」と皮肉っぽく呟く仕草まで目に焼きつける。



 忘れないよ。


 わたしは……一生、今の貴方を忘れない。


 キスしていい?



 訊く前に、唇を寄せた。


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