後編
好きなこと、やりたいこと、それらに打ち込んでいる時の幸せを感じよう――そう思いながら、ひたすらにお菓子を作った。
そしてやがて国内最大級のお菓子コンテストで優勝。
お菓子作りに戦いを持ち込むのは好きじゃない、と思いながらも、一応参加してみたコンテストで好成績を収めた私は、一瞬にして有名人に。
毎日のように飛び込んでくる取材や仕事。
平凡だった日常は一変した。
今や私はこの国で最も熱い人物となっている。
誰もが私を、そして私が作ったお菓子を、揃って称賛する。
私はついに手に入れた。
圧倒的な居場所を。
見下されることのない立場を。
……でも、そんな時だからこそ、誰よりも謙虚でいなくては。
称賛されるようになったからと浮かれていてはいけない。
褒められるからと偉くなった気になってはいけない。
私は私。
いろんな意味でそれを忘れないようにしないと。
◆
お菓子作りで地位を得て大金持ちになった頃、前もって連絡もせず、自宅にオーディがやって来た。
「久々だな、アリーナ」
「オーディさん……」
彼の顔なんてもう二度と見たくなかったのに。
「すっげぇ金持ちになったな」
「そう、ですね」
こんな形でまた彼に会うことになるなんて。
「今なら相手してやってもいい」
「何ですか?」
「だ! か! ら! 今ならもう一回婚約してやってもいいって言ってんだ!!」
「いえ……結構です」
だが今はもう怖くない。
なぜなら私には居場所があるから。
あの頃とは関係が明らかに違う。
「お帰り下さい」
「は、はあ!? お前独身だろ!!」
「それはそうですけど」
何を言われようとも傷つかない。
色々な経験をしてそんな強さを手に入れた。
彼のような人間のくだらない悪意に負けるほど今の私は弱くない。
「行き遅れだろ? 俺が拾ってやってもいいって言ってるんだ! それが分からねえのか!」
「お帰り下さい」
「おい! まともに話をしろよ! 言ってることがおかしいだろ!」
「オーディさん、あなたとお話しすることはありません。ですからお帰り下さい」
「はあああ!?」
「これ以上居座るようでしたら警備の者を呼びます」
「俺が犯罪者だってのか!?」
「お帰り下さいと申し上げているのです。それに従わないなら、それはもうただの迷惑な人でしかありません」
そこまで言うとオーディはようやく去っていった。
――翌朝彼はペンキを持ってきて私の家の外壁に悪口の絵を描こうとしていて近所の人に通報され、その場で逮捕された。
牢屋送りとなった彼は、反抗的な態度を取り過ぎたために『更生の可能性なし』と判断され、逮捕後一ヶ月ほどで処刑されたそうだ。
人に嫌なことを言う。
人に嫌がらせをする。
常にそんなことしか頭にない彼はこの先もきっといろんな人に迷惑をかけたことだろう。
そういう意味では、これによって誰かが救われたのかもしれないとも思える。
明日、明後日、そしてそれよりずっと先の未来。そういうところで彼に傷つけられるかもしれなかった人が救われた。そう考えるなら、彼が処刑されたことにも意味は生まれるはず。彼がいなくなったことで傷つかなくてよくなった、という人がいるのなら、悪い話ではない。
罪なき人が傷つけられる世界であってほしくない。
普通に生きている人が穏やかに暮らしていける世界であってほしい。
……そう願っている。
人々の笑顔のために。
私は今日もお菓子を作る。
◆終わり◆




