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走る王子と悪役令嬢  作者: 南蛇井


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6/7

――後悔は、成功のあとにやって来る。

王子アルバートが止まった翌朝、

城は奇妙な静けさに包まれていた。


鐘は鳴った。

儀式も、報告も、政務も滞りなく進んだ。

だが、いつも欠けていたはずの違和感が、今度は別の形で残っていた。


ヒロイン・リディア


王子は、走らなかった。


それだけで、胸の奥が冷えた。


彼は庭を歩き、

回廊に立ち、

誰かとすれ違えば、軽く会釈をする。


――見ている。

――聞いている。

――応じている。


それは、リディアが望んでいたはずの姿だった。


なのに。


(……違う)


彼の歩みは穏やかだ。

速さも、迷いもない。

だがそこには、かつて彼の背中にあった

**“触れてはいけない距離”**が、消えていた。


走っていた頃、

彼は遠かった。

だからこそ、追いかける意味があった。


今の王子は、近い。

近すぎる。


リディアは気づいてしまう。


――止めたのは、彼の足ではない。

――彼が“外側”に立つ自由だった。


彼女の胸に、

初めて後悔が生まれる。


「私……

 彼を、こちら側に引きずり込んだ?」


悪役令嬢・ディアナ


ディアナは数字を見ていた。


王子が走らなくなってから、

城の決定は早くなった。

会議はまとまり、

対立は調停され、

国は、安定していた。


それが、いちばん恐ろしかった。


「……完璧すぎるわ」


走る王子は、

秩序を乱す存在だった。

計算に入らない変数。

だからこそ、世界は歪みながらも動いていた。


だが今は違う。


王子は、

王子として正しく存在している。


止まったことで、

彼は“物語の外”ではなく、

“中心”に収まってしまった。


ディアナは唇を噛む。


――私は、

――彼を止めたかったのではない。


自分の策が届かない存在を、

証明したかっただけだ。


なのに今、

王子は策にかけられ、

それを受け入れ、

何事もなかったかのように歩いている。


勝利のはずだった。

完全な支配のはずだった。


それなのに――


「……これは、壊した、ということじゃないの?」


二人の共通点


リディアとディアナは、

別々の場所で、同じ結論に辿り着く。


王子を止めたことで、

世界は良くなった。


それが、

何よりも耐え難かった。


走る王子は、

役に立たなかった。

理解できなかった。

手に負えなかった。


だが同時に、

誰のものでもなかった。


今の王子アルバートは、

皆の期待に応え、

誰の役割にも収まり、

正しく、穏やかに、ここにいる。


――あの背中は、もうない。


二人は知っている。


自分たちは、

「危険な異物」を排除したのではない。


世界にとって都合の悪い自由を、消してしまったのだと。


そして、

もし王子が再び走り出す日が来るなら――

それは、

止められた“その後”を知った彼が、

自分の意思で選ぶ走りになる。


それが何を壊すのか、

あるいは、何も壊さないのか。


後悔とは、

その瞬間を、

心のどこかで待ってしまう感情だった。

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