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走る王子と悪役令嬢  作者: 南蛇井


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2/7

走る意味

ある日、王子アルバートは初めて、足を止めた。


それは誰かに呼び止められたからではない。

道が塞がれたわけでも、疲労が限界に達したわけでもなかった。


ただ、霧の向こうに、何もなかった。


草原は続いているはずだった。

地平線も、風も、朝の冷たさも、確かにそこにあった。

それなのに、彼の中で「次の一歩」が、どこにも向かわなかった。


走ることで消してきたものが、初めて追いついたわけではない。

むしろ逆だった。

走り続けることで避けてきた問いが、ようやく意味を失ったのだ。


――走らなくても、世界は静かだった。


王子は空を見上げた。

そこには使命も、物語も、期待も浮かんでいない。

ただ、雲が流れている。


城ではその日も、

ヒロインが想いを募らせ、

悪役令嬢が歯噛みし、

人々が王子の不在を語っていた。


だがそれらは、もはや王子アルバートの物語ではなかった。


彼は再び走り出す。

止まったことを、誰にも告げぬまま。


今度は、

逃げるためでも、忘れるためでもなく、

追い越すためでもない。


ただ、走るという選択を、

自分のものとして続けるために。

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