#6 私って最強ですか?
まだまだ灰色の空間が広がっている。もうすでに、城に巻き付いてる巨大なスタフティ――"オレトロス"は見えなくなっていた。大きめの山に登ればまだ見えないこともないかもしれないが、すでに平野のようなところに来てるので、登ることもない。
辺りには、侵食されて灰色になっている居住地が見える。
「うわぁ、こう見ると滅んだ世界って感じがすごい」
「そうだね。だから、君に救ってほしいんだけど」
「うわ、なんかこの人も気持ち悪くなってきたな。救うっていうけどさ、あのオレトロスとかいうの倒した後ってこの侵食されたのどうにかなるの?」
「倒さなくても、侵食された領域を修復することはできる。スタフティがいるなら再び侵食されるだけだが」
「え、そんな方法あるんだ」
黒猫の言葉に紫乃は目を丸くした。倒したら全部解決する風には見えなかったので、なんとなく聞いた疑問だったが、意外とそんな簡単にしそうだったからだ。
具体的に、どうやって解決するのかと聞こうとしたとき、ふと遠くに人影のようなものが見えた。
「あれ、人がいますね」
ポツリとこぼした紫乃の言葉に、ナイトが驚いたようにハッと顔を上げる。
「ここはまだスタフティの侵食されている空間だよ。こんなところに人がいるわけないけど……」
「え、でも見たんだけど。ほら、そこに……」
と指差した先には、誰もいなかった。ただ灰色の景色が広がっているだけである。
「誰もいないね」
「えー?そんなことないと思うけどなあ」
おかしいな、と首をひねるものの先ほど見かけた人影は見当たらない。
「スタフティと見間違えたのではないか?」
「うーん、そういう感じじゃなかったんだよなあ……」
スタフティは人の形に近いが、二足歩行と言っても手をぶらぶらさせて歩いたり、歩き方も変に腰が低かったりとあまり人に近い動きではない。それにシルエットだって違う。顔の形状などが歪だからだ。目も足も耳もなさそうなのに口だけがある、不気味な造形をしているものを人影と見間違うこともないよな、と紫乃は思案する。
そう、ちょうど目の前にいるやつに近い。口が大きいし――
「って、スタフティいるじゃん!?」
「君、もうちょっと注意した方がいいよ」
「そういうのは後で!」
口を大きく開けたスタフティがのそのそと、紫乃の方へと歩きだした。それに追従して、物陰からぞろぞろと複数のスタフティが姿を表す。
「"マジカルロッド"」
紫乃はしまっていた杖――マジカルロッドを召喚し、スタフティに向ける。
「ちょっと試したかったんだよね。このマジカルロッドってさ、魔法の球を撃てるんだけどその球の大きさとかそういうの変えれるっぽいからさ」
「へー、便利そうだよねそれ」
「ちなみにナイトさん、スタフティとの戦闘に対して助言とかあります?」
「これだったら適当にやってても勝てるよ」
「さすが先輩のアドバイスだ、参考になりますね!」
雑なナイトのアドバイスに、まあ確かにこれ相手ならそんな苦戦することもないのかと思い、戦いに望んだ。
敵の数は見る範囲には八体程度、物陰から出てきたのを見るにもう少しいるかもしれない。
まず、杖の先に力を流し込む。一気に大きな力を撃ち込むのではなく、散るように小さな力を何度も撃ち込むように軽い力での発射を継続させるイメージで。
魔法の球が散弾のように散ってスタフティへと向かっていく。スタフティには人間らしい知能はない。攻撃が来ていることもろくに理解していない。闇雲に突っ込んできて、散らばった魔法の球に直撃する。魔法の球の大きさは飴玉程度、一撃ではスタフティは死なないがそれを受けた衝撃で直進が止まり、続けて何度もそれを受けることになる。
蜂の巣にされたスタフティは、体中を穴だらけにしながら崩れ去っていく。これで三体は始末した。
「おお、やるね。僕は遠距離の攻撃方法とかなかったからなあ」
「私は逆に近距離がないんだけどね?」
「殴ればいいと思うよ」
「脳筋か???」
軽口を叩きながらも、実際なら近接の戦闘手段も何か欲しかったなあと紫乃は心の中でぼやいた。それこそ、ナイトの力のように。
次は大きな魔法の球を作ってみる。杖の先に力を集中させて、それを一気に放つ。さすがにスタフティも危険だと気付いたのか、それを避けて、地面に魔法の球が炸裂する。土煙が辺りを包んだ。
「大きな魔法はさすがにスタフティにも感づかれる」
「魔法の国の住人ってみんなこう後だししてくるの?」
「うーん、どうだろう」
たしなめるような黒猫の発言に、紫乃は顔をしかめて毒づく。
その時に、ぼんやりと紫乃は思い付いたことがあった。
散らばったマジカルメモリーにはドリームのスペシャルマジック――コネクトが通用した。つまり、マジカルメモリーの一部でも魔法少女として認識されていることになる。その結果、今のナイトが形作られた。
だったら今のマジカルメモリーがひとつになったナイトも、魔法少女として認識されるはず。それだったら、コネクトは使えるんじゃないか。その結果、何が起きるかはよくわからないが、紫乃とナイトの力を繋ぐことができるかもしれない。
「ドリーム!前!」
ナイトの声に紫乃が反応するよりも先に、あんぐりと口を開けたスタフティが紫乃の腕に噛みついた。二匹目のスタフティも同じように胴体に噛みつき、三匹目のスタフティの手が紫乃と体を貫く――ように見えた。
「やられた~なんちゃって、のマジカルミラージュなんだけど。どう?驚いた?」
「いや、ビックリしたんだけど!?」
スタフティが攻撃したのは、マジカルミラージュによって作られた幻だった。スタフティが幻を攻撃している隙にナイトの隣に滑り込む。
スタフティの意識が幻でできた紫乃に向いたおかげで、試す時間ができた。
「"スペシャルマジック"――"コネクト"」
ナイトの手に、紫乃は合わせた。そのまま力がナイトの方に伝わっていく。
指先から少しずつ半透明だったナイトの体が実体を持っていった。
「コネクト、当たり魔法じゃん」
「これは、もしかして……僕が実体を取り戻している?」
「そういうことになるだろう。マジカルメモリーの一部にコネクトが使えるなら、完成したマジカルメモリーの形である今のナイトにもコネクトは使用可能、ドリームを通じてナイトは実体を取り戻したのだろう」
「めっちゃ解説するじゃん。普段あんま役に立たなさそうなのに」
呆けているナイトをよそに、紫乃は自分の考えが当たっていることに喜びを覚えた。マジカルメモリーを集めるだけの力なんて役に立たないと思っていたが、こうしてナイトは実体を得た。
つまりは、戦えるということだ。
ナイトの背後からスタフティが迫る。
「ナイトさん、早速役に立ってもらえますか?」
「なんだかよくわからないけど、幽霊みたいなままじゃ格好つかないと思ってたんだよね」
ナイトはすぐさま、背後から迫るスタフティへ振り向く。
「"マジカルソード"」
振り向き様にナイトの手元に剣が召喚され、その剣は正確にスタフティの胴体をとらえて真っ二つに引き裂く。
「"マジカルシールド"」
後ろからも迫ってくるスタフティに、盾を向けたまま突進し、そのままスタフティの顔面を盾で殴って砕いた。
「おお、ナイトさんやるぅ!」
「残りもやった方がいい?」
「いや、試すんでいいです」
「試す?もしかして……」
「正解!」
「答えいってないけど!?っていうかそれは気軽に使わない方が――」
「"マジカルストライク"――」
ナイトの制止を無視し、杖を残ったスタフティたちの方へ向ける。
「――"ランサーショット"!」
一瞬だけ、チカッと光が通り抜けた。杖から放たれた光線が残り三匹のスタフティをまとめて貫き、遠くの方へと抜けていく。
「必殺技のわりに、派手じゃないんだ」
「ちょっと、マジストは頻繁に使えないんだから考えて使おう!?」
戦闘を終えた紫乃に焦ったようにナイトが言う。
使用した後にどっと疲労感がのし掛かってきた。確かにこれだけ疲れるなら連発はできないかと紫乃は一人納得した。どうせなら、もう少し強い敵で試した方がよかっただろうし。
「まあまあ、ナイトさんも戦力として増えたしいいじゃないですか」
「そうだけど……」
「っていうか、コネクトすごくない?」
「そうだね。この力があるなら、歴代の魔法少女たちの力を全部借りることだってできるだろうし」
「一作品目から劇場版の展開じゃん」
と、気の抜けたように突っ込む紫乃に、再び人影が見えた。今度ははっきりと。
「ナイトさん、あっちにやっぱり人がいるんですけど」
「え、本当に?……本当だ」
「でしょ?おーい、大丈夫ですか!」
走って近寄って見ると、どこか動きがおかしい。ぎこちなく歩いている。壊れた機械のように、震えながらこちらに振り向いた。
「……そっか、こんなところにいながらスタフティに襲われてないのもおかしいと思ったんだよ」
「……いや、これもしかしてそういうことですか?」
「そうだね、想像通りだと思う」
その人物の右腕を見る。破れた服から見せる肌の先に、大きく肥大化したような手が見えた。そこだけ灰色に染まり、指は人というよりも獣に近いかもしれない。若い顔立ちの少女、本来は綺麗な女の子に見えただろうそれは、顔の左側は目や耳どころか髪の毛すら見えない。半分だけ灰色の何かに覆われていた。
「――彼女は、スタフティに侵食されかけている」
「鬱展開は勘弁して欲しいんだけどなあ」
冷や汗を滴しながら、紫乃は振り絞るように呟いた。
・スペシャルマジック コネクト
魔法少女同士を繋ぐ力。
魔法少女の記憶の残滓であるマジカルメモリーも対象であり、記憶を完全な状態に修復し、自身を通して力を与えることもできる。
・ノーマルマジック
魔法少女の使う基本の四つの魔法。攻撃や何かの影響を与えるものなど様々だが、おおよそ一枠は武器。ナイトのように二枠装備がある魔法少女は他にいない。
装備している武器はしまうことができる。
・マジカルストライク ランサーショット
貫通力の高い一撃を放つ。ただし威力そのものに関しては他のマジカルストライクに比べて極めて小さい。




