#2 何も受け継いでないなら代替わりではないだろ
目の前に広がる灰色一面の世界、結城紫乃は佇んでいた。魔法の国の住人と契約し、魔法少女になって世界を救うための冒険の幕開けだ。
ちなみに、紫乃が魔法少女になることを了承したのは現実感のない展開に浮かれていたのもあるが、シンプルにスタフティが紫乃の住んでる地域にも出現するような存在だからでもある。
それはそれとして、殺風景すぎないか。紫乃が辺りを見渡しても一面灰色である。
「ジャンルが異世界転生になってない!?」
「転生はしてないだろ」
冷静なツッコミがきた。黒猫がひょこっと顔をだす。魔法の国の住人はこの世界にやってくることはできないが契約した魔法少女とともにならやってくることができるのだ。
「ねえ、あれなに?」
紫乃の差した方には大きな城に巻き付いているドラゴンのようなものが見える。
「あれはスタフティだ」
「あれが?!?えっ、あれ倒すの!?!!」
「そうだ」
「いや、無理でしょ。私、撹乱するみたいな魔法とかばっかなんですけど!?」
紫乃は叫んだ。そりゃそうだ。目の前には遠くからみても姿がわかるぐらいでかい存在だ。あれが倒すべき敵、スタフティであると言われても困る。でかいし。でかすぎるし。城に巻き付いてるんだぞ。どんだけ大きいんだよ。
「いきなりあれを倒す必要はない。そのうちあれを倒せばいい、魔法少女ドリーム」
「……待って、魔法少女ドリームってなに???」
「お前の名前だ。十二代目魔法少女ドリーム」
あー、そういうことか。と紫乃は頑張って納得しようとする。こういう児童系の作品では変身後に固有の名前がついているからだ。
いやでもドリームは安直とかどころじゃなくてよくわからないしな。なんだよ夢って。
そもそもなんだ、十二代目って。代替わりするには何も受け継いでないし、先代も知らないのに。
「え、私が十二人目の魔法少女ってことですか?」
「そうだ。ちなみに先代の十一代目はお前の隣の地域に住んでいる」
「意外と近いな!?代とかつけてるから、もっと古い時代の人かと思ったじゃん」
「???スタフティの影響が出だしたのは最近なんだから、同じ時代に決まってるだろう」
「いや、知らないよ!じゃあなんで代目とかつけるの。十二人目とかでいいじゃん」
「そっちの方が箔が付くだろう」
「そんな理由かい」
結構魔法の国の住人は適当だけど、イメージさえあってればいいよね、の価値観のためらしい。いや、魔法少女のイメージがあっているかは怪しいけど。
「っていうか、じゃあ歴代魔法少女ってどうしてるの?」
「全員敗北した」
「……いやまって!?十一人敗北したところに私送られてるのっ!?」
すでに仲間送られてるんじゃん、と一瞬安堵してたのも崩れされた紫乃はさすがにやばいか?と考え出した。楽観的すぎである。
「敗北と言っても死ぬことはない。もとの世界に戻るだけだ」
「そんなログインみたいなノリで言われても」
「ちなみに一度敗北すると戻ることはできない」
「垢BANじゃん……」
確かに、無限に立ち向かえたらこうやって新しい魔法少女とかもいらないけども。
「そういや歴代魔法少女ってどんな感じなの」
「そこはおいおい」
「おいおいってなんだよ」
黒猫はあまり答えてくれなさそうなので紫乃は気持ちを吐き捨てた。
そういえば、せっかく異世界に来たんだし魔法も使ってみたいな、と紫乃は杖を眺めた。この持っている杖もマジカルロッドというノーマルマジックの一つだ。これから魔法の球をだせるらしい。
いきなりこれでそこら辺を攻撃してみてもいいが、そんな野蛮な生物でもないしと思い、他の魔法を使うことにした。
「"マジカルサーチ"」
そう唱えると、周囲の様子がなんとなくわかる。今は山の麓にいるらしく、木々があることがわかる。
そして――それ以外にも二足歩行のなにかがいた。人ではない。この魔法ではなんとなく周囲の様子がイメージでわかるだけで正確にどういうものがいるのかがわかるわけではないが、人間とは動き方や形が違う。
ちなみに、魔法を使う際はわざわざ魔法の名前を言わなくてもいい。なんとなく言ってしまうだけである。
「ねえ、なんかここら辺なんかいるんだけど」
「スタフティだな」
「え?二足歩行の変なやつなんだけど」
「ああ、スタフティだ」
「え、こんな敵まみれのところに移動させられてんの!?」
「この世界はだいたいこんな感じだな」
「終わってんだろ」
と、叫んでいるうちになにかが紫乃たちの元へとやってくる。複数いるそれは、全員が灰色で二足歩行の存在だ。顔の部分には目や鼻などのパーツが見当たらないが、大きな口だけがあるのがわかる。
そう、スタフティだ。
「いやさ、造形が魔法少女ものの敵じゃないよ!"マジカルロッド"」
紫乃は杖を構えた。杖の先端が光る。力を込めていくと、それが球体となって発射されていく。
それと共に、紫乃の元へと集まったスタフティたちもこちら目がかけて走ってきた。直線的に走っていくスタフティとそれに向かって発射された魔法の球、その二つはぶつかり、スタフティは弾き飛ばされてその体が崩れていく。
「なんか弱くない???」
「魔法少女の力はスタフティへの特攻があるからな」
「そういや言ってたな、そんなこと……」
適当にマジカルロッドからの攻撃により、スタフティの群れはなんか一掃された。魔法少女ドリームの大活躍である。そうか?
「ってうわっ!」
と、そこに潜んでいたスタフティ一体が突然飛びかかってきた。一直線に進むことしかできないスタフティと違い、こっちはそこそこ賢いらしい。
「魔法少女パーンチ!」
勢いに任せて、紫乃は拳を付き出した。踏み込んだ魔法少女の正拳がスタフティの顔にめり込む。顔から崩れて、スタフティは消えた。
「いや、殴るだけでも勝てるんかい」
「魔法少女の力はスタフティへの特攻が――」
「ありすぎだろ」
なんか楽に周囲のスタフティを一掃したので、山を登って今の様子を確かめることにした。
「そういやさっきの小型のがスタフティだけど、でかいのもスタフティなんだよね」
「そうだ。というよりも小型の方は手下のようなものだ。本体はあのでかい方だ。我々はあれをオレトロスと呼んでいる」
「へー」
気の抜けた返事をしながら、山の頂点に紫乃はついた。
山の頂点からも、城に巻き付く巨大なスタフティが見えた。そこを中心として視界に見える範囲は灰色にまみれている。山であれ森であれ、居住地でさえ。
「灰色すぎない?」
「スタフティに侵食された領域はそうなる」
「いやなにその設定。侵食されるとどうなるの?」
「まともな人間は住めないだろう。これは有毒な性質がある。いずれ他の生物などを飲み込み、あの小型のスタフティにしてしまう」
「恐ろしいな!?っていうか、それだと見てる範囲ほとんど侵食されてない?」
「そうだな」
「滅びかけてない?」
確かに、これは世界の危機か。紫乃はなんとなく納得した。これがそのうち魔法の国で暴れまわって侵食するとすごいことになるわけか。
「あのオレトロスから小型のスタフティが産まれていき、それが周囲を侵食していく。そういった化け物だ。世界も滅ぶだろう」
「めっちゃ淡々と言うじゃん」
「ちなみに、お前のいる世界にも沸く」
「え、めっちゃ世界背負わされてない???」
そういえば、カラス頭と会ったのもスタフティに遭遇したからだったなと紫乃は思案した。その時のスタフティはあくまでも獣のような姿だったが、それに襲われてそこを助けられた。
カラス頭から繰り出される、綺麗なフォームの拳は正確にスタフティの顔面をとらえて破壊していた。かっこいいね。
「まあ要するに、あのでかいのがラスボスって訳ね。確かに、ゲームだとラスボス最初にちら見せするようなパターンあったなあ」
「いずれ、あれと直面することにはなるな」
「これさ、冷静に考えたんだけどさ。ジャンルが異世界転移とかじゃなくてポストアポカリプスじゃね?」
少なくとも滅び行く世界を冒険する物語ではある。




