#10 勇者と三賢者ってそういう感じなんだ
鳥のさえずりすらも聞こえない静けさの中、紫乃は目を覚ました。暗くなってきたから、家に泊まっていたのだけはなんとなく覚えていた。窓からは朝日が射していた。
見渡すと、壁にもたれたナイトと布団で寝ているソフィが見える。一番早く起きたのは紫乃らしい。
なんとなく、家の中にあるものを見た。生活に必要な最低限のものぐらいしか置いてないらしい。食器だとか家具らしきものぐらいしかない。
ふと、本棚にある数少ない書物を見た。手を取ってパラリと捲ってみる。読めない文字がずらっと並んでいる。そりゃそうだ、ここは異世界なんだから。
ただ挿し絵などを見る限り、伝記というかおとぎ話に近いような内容が書いてあるように見えた。剣を持ってる一人とローブを着た三人、もしかして勇者と三賢者だろうか。
そういった存在がいても、スタフティの侵攻を遅らせるしかできなかったのも悲しい話か、とぼんやりと考えた。
「ドリーム様?」
気がつくと、紫乃の後ろにソフィが立っていた。起きたらしい。ナイトもいつの間にか目を覚ましていたようで、窓の外を確認していた。
「おはよう、ソフィ。なんかこういうのって寝てる間に全滅しそうって思ってたけど意外と大丈夫なんだ」
「あの恐ろしいことをおっしゃるのはやめていただけませんか!?」
「いやなんかさ、迷ったんだよね。寝ずにずっと見張るのもありかなって。魔法少女って寝なくても平気そうじゃん」
「さすがに無理があるのではないでしょうか……?」
と、ソフィは返答しながら紫乃の持っている本を覗き込んだ。
「それは、勇者様と三賢者様の書物ですか?」
「そうなんじゃない?読めないからわかんないけど」
「君さ、勝手に物色するのはどうなの?」
呆れたように、ナイトが言う。窓の外の確認をし終わったらしい。おそらく周囲にスタフティがいたかなどを確認してたのだろう。
「別にちょっと気になっただけなのに」
「勇者様と三賢者様のことが気になるのですか?」
ふてくされた紫乃に苦笑しながらもソフィは尋ねた。
「うーん、ちょっとね。なんか選ばれた戦士みたいな感じでいいの?」
「近しいですが、少し違います。勇者様は、聖剣を扱える資格を持つものです。聖剣に選ばれたものが勇者様になります」
あまりにも想像通りの勇者、という枠組みの存在であったため、紫乃は言うことがないなと続きを聞くことにした。聖剣がどういうものかは少し気になったが。
「三賢者様は勇者様とは違っていて、称号に近いものです。その時代のもっとも優れた魔術師が三人が賢者と呼ばれるようになります」
「なんで三人なの?」
「魔術の方向性の違いです。創造、破壊、守護それぞれに秀でたものが賢者になりますから」
聞き流してはいたが、魔術師というのだから使用するのは魔術師というものらしい。魔法少女の使う魔法とは違うのかもしれない。だって、魔法の国とかいうメルヘン存在のせいで作られたものだから。
でもせっかくなので紫乃は聞いてみることにした。
「魔術ってさ、私たちの使ってる魔法となんか違うの?」
「それはちょっと僕も気になってた」
「ええと……魔法少女様の魔法は特定のことしかできない代わりに簡単にその現象を引き起こしますけど、魔術はなんというか理論を組み立ててしっかりと発動するといいますか……」
「まあ魔法はイメージでどっかんするけど、魔術はしっかり編みながら使うぞ!ってことか」
「君は噛み砕くの上手いね???」
「これアホだと思われてただろ」
ナイトに軽口を返しながら、ソフィの知識量に少し紫乃は驚いた。ただのソフィと言っていたので姓はない結構酷い身分の存在だと勝手に思っていたが、こんな終末を迎えかけている世界だと関係ないのかもしれない。
「そういやソフィも使えるの?魔術って」
「生活魔術というものに分類するものなら……こう、明かりを灯したりとか楽に洗濯を済ませたりとか」
「ふーん、便利だ」
戦いはできないだろうな、と思いつつもそういった魔術も存在するんだなと気の抜けたような返事で返し、立ち上がった。この本はそこら辺に置いておく。
「よーし、休んだしそろそろいくぞー」
「そういえば、外にはスタフティはいないみたいだよ。遠くまでは確認してないけど」
「マジカルサーチ使えばわかるから無駄じゃない?」
「魔法を使用する頻度が高いと疲れるから気をつかったんだけど!?」
ナイトは紫乃に比べて魔法少女に詳しい分、こういった気づかいも得意なのかもしれない。
◆
昨日と同じ、紫乃がソフィと手を繋ぎながら侵食を防ぎ、ナイトが障害を排除する役回りで進むことにした。
まだ、侵食されていない領域は見えない。山を抜けておそらく平原だったであろう場所を進む。所々に崩れかけた家が見える。灰色になっているだけじゃなくて、壁や扉が破壊されている。スタフティとの戦闘の後なのかもしれない。
そういった場所を進むときだけ、ソフィが握る手の力が少し強くなった。きっと、不安があるのだろう。
「そういやナイトさんのスペシャルマジックってなに?」
「ああ、強化系だよ。攻撃と防御が上がるみたいな」
「なんか全うに戦闘ビルド過ぎるな……」
「君が戦闘向きじゃなさ過ぎるだけだよ」
緩く会話をしていると、遠くに踏み鳴らす音がした。大きな灰色のなにかが動いている。
「げっ、あれギガントだったりする?」
「そうだね」
「うわ、そんな頻繁に会うのかよ」
「ノーマルタイプのスタフティよりは少ないだけで、そこそこいるよ」
「まじか」
どうやらまだこちらには気付いていないらしいので、壊れかけている家の影に隠れてやり過ごすことにする。倒せなくはないだろうが、消耗は激しいだろうから。
「ノーマルタイプのスタフティはあくまで侵食を広げるための個体で、ギガントは戦闘目的の個体なので、敵の排除が必要だと判断された場所にはこうして派遣されているのかもしれません。とはいっても、魔法少女様でもなければノーマルタイプを倒すのも一苦労なのですが……」
遠くに見えるギガントの様子を伺いながらソフィが教えてくれた。スタフティごとに役割が定められているのだろうか。
「それにしても、ソフィはスタフティに詳しいね」
「そ、そうでしょうか。そういったことを調べている方から聞いたことがありますので」
「え、どんな人?」
「三賢者様の弟子です」
「はー、そういう」
確かに、国を代表する魔術師みたいなものだろうからそれを支えるような人もいてもおかしくないのか。弟子が次期賢者になることもあるだろうし。勇者は逆にそういうのはないんだろう、と勝手に紫乃はイメージで決めつけた。
「オレトロスがラスボス、ギガントが戦闘用、ノーマルタイプが侵食の拡大用なのはわかったんだけど。じゃあテリオンってやつはもしかして対魔法少女用ってこと?」
「たぶんね。魔法少女が活動してようやく出てくる個体だし、魔法少女と同じ数だけ現れてるんだから。でも、あれだけ強かったら魔法少女じゃなくても負けると思う」
遠くを見つめるようにナイトは答えた。そうなったら、自分用のテリオンもいずれでてくるのだろうか、どうせ先だしいいかと紫乃は考えないことにした。
「テリオンってどれぐらい強いの?」
「それはちょっと、伝えづらいな……僕が会ったテリオンは破壊力がすごかったかな。盾ごと腕を吹き飛ばされたし」
ナイトの盾はかなり頑丈そうだった。なんならギガントすら受け止められそうに見えた。なのに、それごと腕を吹き飛ばすぐらいならきっととんでもないパワーなのだろう。ソフィと紫乃はそれを想像して顔をしかめた。
「あのときは負けたけど、復活したんだから次は勝つよ」
「えと、魔法少女様は腕が生えるのでしょうか?」
戸惑うようにソフィは尋ねる。確かにソフィと出会ったときはすでにナイトには実体があった。幽霊もどきだと思われてないらしい。
こういった魔法少女がいる、ぐらいの情報は広まってても魔法少女が倒されてすでにいないとかそういった話は広まっていないのかもしれない。
「いや、ナイトさんは幽霊だから。一回死んでます」
「え、え!?」
「まあそんな感じだけど、雑じゃない???」
「え、本当にそうなのですか!?」
ちらりと見たナイトの手は少し透き通っていた。




