受験生/探偵
受験生
今日も息子は、受験戦争の最前線に立っている。
昔、何気なく見かけたインスタント味噌汁のCMへの謎の憧れを抱いていたが、そんな生半可な意志ではなく、限りなく効率良く、生まれた頃から異常なまでの負けず嫌いと執着心を発揮し、机に齧り付いていた。妻からの問い掛けにも応じず、いつまでも。
私の学生時代には見れなかった生き様を前に、流石に我が子の頑張りに問答無用で褒めちぎりたいのだが、言葉を掛ければ明日にも水死体辺りで見つかりそうなので今はとりあえず大人しくしておこう。
それは勿論、連休でも体に遠慮せず。
だが、やはり止められない感情があるもので、不恰好な形のおにぎりに冷蔵庫に在る最強の具材を使い、永らく溶かさずにいた味噌汁を夜明けに運ぶ。
表面張力で溢れを意識しながら扉を開いた先――
珍しく居眠りに興じたおはようの一言も出せない疲れ切った丸い背中は、お盆をそっと側に置かせた。
ちゃんと、布団で寝かせるべき、だったろうか。
足が机の下に張り付き過ぎてて、私には、もう。
今となっても、どうすることもできなかった。
探偵
そろそろ頃合いだ。
仕事の辞め時には丁度いいだろう。今思えば――夢であった難事件を解決する名推理などでは無く、見るに耐えん不倫現場や甲斐性なしの亭主の尾行。
なーんて、つまらん上に見つかると途端にギリ、逆さにならない恨みを買われやすい。
そして、心の何処かで燻り続ける不完全燃焼へ引導を渡す前にピッタリな依頼が転がり込んできた。
なんと家に忍び込んだ不法侵入者の捜索だとか、
この手堅い案件に対して、この世界に踏み込んだ雛からずっと商売敵の定番の忠告も聞き納めかぁ~。
軒並みニュースに陳列する行方不明の数々に不謹慎にも俺の眠る全細胞が躍動し、快く引き受けた。
今日、不審者扱いされてた制服ともおさらばだ。
よし。行ってきます。
しかし、ふと冷静を極めると中年に差し掛かった女性に執着する野郎とは変な物好きが居るもんだ。
早速、お部屋の物色。否、捜査を始めた。
殺風景に相応しい空間に理路整然とした説明の相手に負けず劣らずの難敵。髪の毛はおろか家主の指紋一つ残らぬ極度の潔癖症にちょっとばかりの疑問が頭に浮かび、散漫になった不信感が依頼者にも。
って、何やってんだ。
その落ち着きのある背には被害の渦中の筈の嫌なオーラを放った御姿を視界の端に捉えて、俺は初めて口を滑らせ、奥底の問いを投げ掛けてしまった。
「まだ、今日は」
と。
犯人は必ず、現場に戻ってくる。
探偵に憧れた映画でも、そう言ってたなぁ……。




