将来の夢/飢え
将来の夢
将来の夢はもう、朧げな存在になってしまった。
子供の頃は毎日のように期待に胸馳せていたのに今思い出そうと無駄な努力に少しでも海馬を使えば、日々の疲労が祟って頭痛が耐えられなくなる。
飲み仲間との酒の肴にするにはあまりにも重く、家の子に教えを説くには現実を直視し過ぎていて、どうにもこの不完全燃焼を鎮火するには至らない。
だから、唯一の休日である今この瞬間に消化するとしよう。儚い希望に向かって進んだ何もかもを。
全ての始まりは齢七に満たぬ初めての夏休みだ。
最初の最初で不思議な出来事に浮かれてたのか、こうして大分前の体験談を話せるだけの記憶は新鮮に保たれているようで、先にもそう困らなかった。
まだ初夏の真昼時に多少の暑さしか感じず――日暮れには住み心地の良い涼しさが漂っていた年だ。
子供には無限に等しき楽しい行事で溢れる季節、際立って、俺は甲子園への憧れを強く抱いていた。
少年野球時代は秘めた才能がピカイチと周りに持て囃されても、己を甘やかさず努力に励んでいた。
だが、時を経る毎に競争相手が増加傾向を辿り、身体能力では飛び抜けていても、実力は横並びに。
未だ眠った才能の芽とやらは開花の瞬間を生まず、絶対的なポテンシャルを発揮する奴等を前にする度、俺は死に物狂いで喰らい付いて並走していた。
しかしその現状を、まだ微かに在った希望を、完膚なきまで粉々に打ち砕かれた絶望の日が訪れた。
寧ろ、今の方が印象に残っている。
それは何の変哲もない、ただの別チームとの練習試合。いつも通り、俺は全力で挑ませてもらった。
今更ながらの紹介だが、主人公の象徴。基本作品の中枢にはピッチャーが……俺もその一人に名を連ねる勢いで突っ走っていたつもりだった。が――。
大して面積も取らない、とても小柄な年下少年。
変化球が禁止の試合である程度、ものにできたコントロール重視の外角低め際際に全力投球を放る。
一球目、綺麗に想像通りの場にボールが入ってからやっとバットを振る仕草に驚きを隠せずにいた。
しかし、依然として無愛想に此方を見つめ、まだその目は勝負を諦めずに闘士を燃え滾らせていた。
二球目、又しても二週遅れの空振り。
まるで惰性で行うかの動作に敵のチームメイトの応援に耳を傾けるも、特に変わった言葉は混じらず、普通に自分たちの課せられた仕事に勤しんでいた。
ノーボール、ツーストライク。もう後がない――追い詰められた現状に焦りを抱かず、冷静に受け取り、一瞬、バッターボックスから外れてゆっくりとバットを短く握りしめ、ライン状に爪先を乗せていた。
いっそスピードに振り切り、ど真ん中目掛けて全身全霊を振るうのも手だったが、相棒的な存在になりつつあるキャッチャーと信頼のある監督を信じ、なんて戯言で真意は他人任せの責任転嫁に走った。
そして、俺は努力に裏切られた。
賭けに乗らない生き様を見兼ねて切り離されたのか、ボールは遥か彼方へ頭上を通り抜けていった。
あぁ、コイツは本物だ。
いつ醒めるかも分からない俺よりも、もう既に化けた怪物に言い訳も出ず、ただ只管に完敗を喫した。
案の定、数年後には大スターとしてテレビで何度と見た。一方で礎となった人間は二度とボールを、円な瞳の眩しい我が子にも決して持たせなかった。
それはきっと、知ってほしくないからなのだろう。
飢え
節約。何でも節約だ。
交通費、家賃、生活費、食費、雑費全てに於いて無駄なものを最大限に省き、日々の生活に強いる。
それは自由な時間の制作と豊かな日常の排除に在らず、ただの自身に募る欲求不満の解消に過ぎない。
行き過ぎた自制心だと、心が壊れるだのと。外野がうるさく指摘しても軽く受け流して貫き続けた。
次第に飢えていく何かを欺いて、意志を優先させた。
けど、遂に恐れていた出来事が起こってしまった。
体が追いつかない。
ある種の老いとしても捉えられるが、大多数は疲れと過去の咎を今一度示し、耳が酷く痛くなった。
この殺風景で虚しい病院での目覚めは――自身を我に返らせるきっかせに繋がったのかもしれない。
そうだ。そうに違いない。
次はもっと上手くやろう。




