06 基本戦略
「「オーバーサイズ」は今、ここには居ない。アメリカの南部の州でスタジアムに居たと言う目撃記録は残されているが、1週間前に出て行ったらしい」
「出て行くって、何処へ。他に行く場所なんてあるのか」
「確かに、「地球」にはもう居場所は無い」
「良いから早く答えを書けよ」
「「月」に居るんだよ。今、「オーバー・ビリーバー」は「月」に都市を築いている」
「笑えねぇ冗談だな。そんな技術、移民や難民の集まりの「オーバー・ビリーバー」にあるのかよ」
「「オーバーサイズ」が宇宙から来た「移民の神」だとすれば、元居た星の科学がこっちより進んでいれば、そいつを使う筈だ」
「馬鹿な。それって、5歳児に中学生の数学を解かせるようなもんだろう。天才児なら兎も角、普通の5歳児には出来ないだろう」
「だが、事実だ」
「分かった。100歩、いや、1000歩譲って、そうだとしても、「月」への物資の補給はどうする。まさか、あの不毛の星で「自給自足」なんて出来る筈が無いだろうが。そこはどう説明をつける?」
「自給自足出来ている。と言う結論にならざるを得ないな。この星にある国で宇宙開発を行っている国々の記録を調べたが、月に向かった宇宙船は勿論、あれ以来、宇宙船の打ち上げは行われていない」
「おいおい、また「オーバーサイズ」の超科学で説明するつもりかよ。そんな魔法みたいに都合の良い技術なんて何処にある」
「だな。たった1週間で月に都市を建設したってだけでも信じられないのに、その短い間に水と食料、空気の自給自足まで出来る様になったのは、どうしても受け入れられねぇ」
「ひょっとして、このコミュニティ立ち上げたの、「オーバー・ビリーバー」の手下か?」
「そう言うと思ったから、観測所に縁のある仲間を頼んで、月の写真を撮影させてもらった。これがそだよ」
「偽造じゃ無い証拠なんてあるのか。今時、生成AIならその程度のフェイク画像は幾らでも作れるんだからな」
「自分に都合の悪い情報は全部フェイクって言うのか」
「都合の良い、悪いじゃなくて、「嘘の様な本当の話」は大抵嘘だと言う事だよ。このコミュニティに所属しているユーザー同士だって、お互いの事が分かっているわけじゃ無いんだぜ。そう簡単に信用出来るかよ」
「良いじゃないか。取り敢えず、画像だけでも見てみよう。最初から嘘だと決めつけて判断する前に、1度見てみようじゃないか」
「1枚目の画像が、3日前に撮影した敵の月面都市の写真。2枚目が1週間以上前に撮影された同じ箇所の写真。3枚目が、昨日撮影した月面都市の写真」
「よく作ったな」
「AIがか?」
「違う、「オーバー・ビリーバー」の連中が、だよ」
「信じろっての?」
「じゃあ、今「オーバーサイズ」は何処に居るのさ。この「地球」の何処かにいる筈なんだろう。あんなにデカい図体なのに、「地球」の何処かに居れば誰かの目には触れるんだから、すぐに見つかるはずだろう。それが何処にも見つからないで、月にこんな都市が出来上がっているのなら、やっぱりあいつら「月」に行ったんだよ」
「「月」の裏側じゃなくて、表側に都市を建設した理由はどうするんだよ。太陽が照らしている表と、そうじゃない裏とで、気温差はとんでもない事になっているぞ」
「多分、裏にも作れるんじゃないか」
「そんな簡単そうに言うけどよ、実際出来るのかよ」
「表に作れるのなら、裏にも作られる。そう言う話だよ。同じくらいに過酷なんだろう? だったら、表だけでなく裏にも作れるだろうって、そう言う話だよ」
「そうだとして、今後俺達はどうする? どうやって「家族」や「友達」を守っていく?」
「今は兎に角、「地球」に居る「オーバー・キッズ」をどうにかするしかないだろう。連中、真正面からの力押しではこちらに勝てないと分かって以来、ゲリラみたいに不意打ちばっかりしている」
「例の、「ビッグセブン」か」
「どうにかして、居場所を割り出さないと。こう言う時、「家族」や「友達」の組織の動きは鈍いな。何をあんなに遠慮しているんだよ」
「今まで虐げられていた移民・難民が、宇宙の果てから来た「神様」の力を得て巨大な化け物になって復讐してくるなんて、予測していた人間が居たとすれば、そいつどうかしているぞ」
「ぐうの音も出ない」
「では、こちらも組織化するか。こんな無料サービスのネットコミニュティでのやり取りじゃなくて、本格的に全世界で繋がれる通信網や情報網を作るとか」
「悪い、そう言う話はパスしたい。組織化しても、誰がトップに立つのか、誰が下にいて戦うのか、そう言う議論でこっちも時間を浪費する事になるからな。「巧遅より拙速」で、さっさと「オーバーサイズ」を倒さないと、被害ばっかり大きくなって、犠牲ばかりが増えていくだけだ」
「でも、全体の目標は統一した方が良いな。「家族」や「友達」を守る為、と言うのは基本として、「オーバーサイズ」に勝つ為の統一した目標が要る」
「物事は手順が大事だからよ。「ビッグセブン」を倒して、「家族」や「友達」の安全を確保してから、「月」の「オーバーサイズ」を打ちのめす。これで良いじゃん」
「手順としてはそうなるわな」
「変に複雑な手順を組むよりは良い。これに賛成」
「反対意見がなければ、「ビッグセブン」打倒→「地球」の安全確保→「月」へと進撃、この方向で行って、後は出たとこ勝負って事で良いな」
「異議無し」
「了解」
「OK」
「じゃあ、このコミュニティのやり取りを公表したい。皆で、可能な限り大勢で、出来る限り観衆の目に触れる形で、ばら撒くんだ。世界中にな」
そこまで読み終えて、「フジ」はスマートフォンから目を離して、美津直田の方を見る。
「それ、信用出来ると思うか。ただの怪文書か、あるいはフェイクかも知れないと思うのだが」
「フジ」は、視線を尚実と一緒に眠っている徹へと向ける。あの2人の為にも、いい加減な判断は出来ない。
「本当だとすれば、「オーバー・ビリーバー」側でも何か動きがあるはず。それまで待ちます」
「そうだな、こう言う大事な判断は慎重にやるべきだな。で、「フジ」はどれだけ仲間がこの星に居るのか、分かるのか?」
「「犬」や「猫」なんて、そこら辺に幾らでもいます。その内の2,3%が「仲間」だとしても、相当な数になる」
直田の背筋が、冷たく凍る。それは即ち、世界を滅ぼす力にもなり得るではないか。人間は今、自分の力ではどうにもならなくなった「犬」や「猫」をリードで繋げて、危険な綱渡りをしているのだ。
「ムサシ」はその文書を読み終えて、烈沙苗の顔を見る。沙苗の瞳は、まるで夜空に光る星の如くキラキラしている。
「これって、世界中に「ムサシ」みたいな戦士がいるって事よね。それって凄いじゃない、この戦い、楽勝よ、楽勝」
「だと、良いんだけどね」
流石に「友達」の発言を看過できなかった「ムサシ」は、自分の想いを率直に語る。
「同じ敵が居る今なら仲良く出来るけど、こんなの長続きしないでしょう。「オーバーサイズ」を倒した後の事も細かく取り決めないと、後悔の涙で泉を作ることになるわよ」
「それじゃあ、これって偽物なのかしら」
「全体の意見ではないわね」
バッサリと斬って捨てる様に言う「ムサシ」。沙苗は少し残念そうにしながら答える。
「なんで、「オーバーサイズ」はこの星に来たのかしら。違う星に行けば良いのに、なんで此処に来たのよ。お陰で、こっちはとても迷惑だわ」
子供の感覚では、そう言う感想になるだろうな。「ムサシ」は冷然と、その感想を受け止める。逆に言うと、大人がこう言う事を言うのは「大人気ない」と感じてしまう。大人なら、もう少しまともな理屈なり感じ方なり出来る筈なのに、それをやらないのは、当の本人の器量を示すものであり、自分の器が大きいと主張したければもう少し頭を使うべきである。
避難所に来てから1週間、あれ以来、「ビッグセブン」が時折海から上陸してきては、海沿いの都市を蹂躙している。海から離れた土地に暮らそうとしても、7つに分かれる海に囲まれている大地には、何処にも逃げ場などない。
「ムサシ」は、そこで1つのアイデアが頭に浮かぶ。まだ言語化出来ていない、有形無形のアイデアであるが、こう言うアイデアは大抵誰もが頭に1度は浮かぶものだと思って、あまり形にしない内に、「ムサシ」はそれをあっさり忘れてしまっていた。




