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04 約束

 お互いに睨み合う、「オーバー・キッズ」と、人間の姿をした「敵」は、相手の「力」の大きさを感じながら、1歩も引かないままに睨み合っていたが、「敵」の方が先に動きを見せる。身体に「熱」を、「力」を貯め始める。

 膨大なエネルギーを貯め始める「敵」の動きを見て、「オーバー・キッズ」は高をくくる。その程度のエネルギーを貯めてどうするのだ。どうやら、こいつは虚仮威しらしい。このまま無視して通り過ぎるか、あるいは踏み潰していくか。ここは今後の用心も兼ねて踏み潰していこう。

 そう思った直後、「敵」が貯めているエネルギーが、グンと上がる。あっと言う間に単位が変わるくらいの勢いである。「オーバー・キッズ」の巨軀にも匹敵するエネルギーかと思いきや、それをアッサリ超える勢いにてエネルギーが貯まり続ける。

 「敵」は、小さい太陽の様にエネルギーの塊となると、右手を「オーバー・キッズ」に向けて、叫ぶ。

「ぅてえっ!」

 溜まった膨大なエネルギーは、一条の光線となって、右手から放たれた。光線は「オーバー・キッズ」の身体をいとも容易く焼き切り、触れた部分から燃え上がって消えていく。

 生き残った「オーバー・キッズ」は、次々と撤退を始める。真正面から挑んでは、命が幾つあっても足りないと判断したからであるが、その背中に対しても容赦なく、貯めたエネルギーを撃ち込み続ける。


 似た様な光景は、世界中にて見られていた。特に多い地域とか、少ない地域とかに分かれる事は無く、全世界にて一斉蜂起を行った「オーバー・キッズ」に対して、「それ」は一斉の反撃していた。全滅はしなかったが、こう言う時デカい、否、デカいだけのボディは色々と不便であると思いつつ、次々と光線に焼き殺されていった。


 「フジ」もまた、近場を通りかかった「オーバー・キッズ」を焼き殺して、家に帰還していた。巨大な物体が燃えているのだから、強烈な臭いや煙が発生していなければおかしいのだが、臭いも煙も発生していない。

「「フジ」、凄い、凄いよ「フジ」!」

 自分に対して「憎悪」と「殺意」を向けていた相手を、一瞬で殺してしまった「フジ」に対して、美津徹は惜しみなく褒め称えていたが、その両親はあんまり良いリアクションを返していない。無理も無い。この光景が意味する所を、両親は正確に読み取ったのだ。

 もう此処に居るのは、格好良い雑種の大型犬「フジ」ではない。恐ろしい能力を持った化け物なのだ。心はまだ「フジ」のままだとしても、いや、「フジ」のままだとすれば余計に脅威である。人間でさえ、その強大な力を制御出来ないのに、元を辿れば「ただの犬」であった「フジ」が、正しくこの「力」を用いていけるのだろうか。

「お父さん、お母さん、「フジ」とっても格好良いよ! 強いよ! ずっとここに居てもらおうよ!」

 うん、この息子の反応は良い。このくらいの男の子にとって、強大な「力」を使って「敵」と戦って勝つと言うのは、万国共通の永遠の夢であり願望でもある。自分が執行者ではなく、ついさっきまで「飼い犬」だった人間であれば、余計に燃え上がるという物だ。

 だからこそ、両親は驚くより先に、喜ぶより先に、恐れていた。この「フジ」の「力」を思い通りに扱い始めたら、美津徹はどうなってしまうのか。恐らく、歴史に残る暴君となるに違いない。分不相応な「力」を手に入れた先にあるのは、破滅があるのみである。

 「フジ」は、ただ両親を見つめる。「フジ」は何も言わないまま、微妙な表情を浮かべている両親を見る。美津徹もまた、この両親の無言の態度を見て、父と母が「フジ」に対してどう言う感情を抱いているのか、次第に理解し始めていた。だからこそ、徹は両親の方を真っ直ぐ見て訴える、

「「フジ」は、僕達の家族でしょ?」

 美津尚実と直田は、2人で顔を見合わせる。「家族」、なる程、確かにその通りだ。現実問題、あの巨大な「あれ」が居る以上、「フジ」の様な存在が居たとしても、もう不思議でも何でも無い。

 直田が、1歩前に出て言う。

「……約束を守れるか、「フジ」」

「ああ、俺は家族の為に生きている」

「……ならば、宜しい。今後、何があったとしても、徹だけは守り抜いてくれ」

「分かった」


 目の前に迫るのは、巨大な肉塊の如く蠢く「オーバー・キッズ」の体躯である。家も、車も、人も、道も、建物も、あらゆる物を踏み潰して迫り来る「オーバー・キッズ」に対して、1人の娘が立ち塞がる。

 足を止める「オーバー・キッズ」と、これを睨み付ける娘。数秒した末に、娘の身体が「熱」を帯び始める。エネルギーを貯め込んでいるのだ。こんな小さい身体で集められるエネルギーなんて、たかが知れている。「オーバー・キッズ」は油断して進撃を再開しようとしたが、それが甘い見通しであると、すぐに気が付く。

 貯め込んでいるエネルギーが、1秒ごとに桁が1つ増えるレベルで大きくなり続ける。まるで太陽である。これは危険だ、早く逃げなければ。

 娘がエネルギーを右手に集中させると、小さい太陽が現れる。そして、叫びながら、これを投げる。

「燃えろぉ!」

 小さい太陽は、その場に居た「オーバー・キッズ」を全て燃やし尽くしていた。巨大な身体、巨大なだけの身体は、あっと言う間に小さい太陽の「熱」と「エネルギー」にて溶かされていく。


 「ムサシ」は、家から逃げようとしていた烈家族の前に戻ると、笑顔で言う。

「今はもう大丈夫よ。これで暫くはあいつらも手出しできないでしょう」

 烈直翔、明美、沙苗の3人家族は、自分達の最高の友が、恐ろしい「力」を手に入れたのを知って、直翔は怖れ、明美は驚き、沙苗は興奮していた。

「すごい、「ムサシ」、世界一強い女戦士になったのね」

 沙苗は「ムサシ」の身体に飛びついて、歓喜の感情を爆発させていた。それを見て、直翔が複雑な表情をしながらも、沙苗を「ムサシ」から引き離す。

「沙苗、ここに居るのは、もうあの可愛い「ムサシ」ではない。恐ろしい、とても恐ろしい「ムサシ」になってしまったんだ」

 この幼い娘の為に、なるべく分かり易い言葉を選んで話した。その成果もあってか、沙苗はすぐに反論する。

「「ムサシ」は「ムサシ」よ、私の友達よ。友達同士で助け合うのは、当たり前でしょ」

「沙苗、「ムサシ」は友達にするにはもう強すぎるんだ。強すぎて、対等な友達関係にはなれないんだ」

「イヤ、「ムサシ」は捨てない。捨てるなんて嫌ぁ」

 この埒のあかない綱引きに、一応の妥協案を示したのは、明美であった。

「あなた、こう言う時は正論だろうと正解だろうと、なかなか通じる物では無いわ。「ムサシ」、1つ、約束して。どんな事になっても、私達を、沙苗を傷つけないで」

「良いわ、約束しましょう」

「……御免なさい、友達なのに、こんな扱いなんて、酷すぎると分かっている」

「気にしないで、こうなる事は分かっていたから」

 「ムサシ」はそう言うと、この家族と共に暮らしていた家があった方角へと目を向ける。そこもまた、瓦礫の山となっている。暫くは、居心地の悪い避難所での暮らしとなるだろう。それはそれで億劫になる事実であったが、こうして約束を交わした以上、大人しくするしかない。


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