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03 生きてさえいれば

 「移民の国」と言えば、誰もが頭に浮かべるのは、北米大陸に存在している世界最強国家の誉れ高き、アメリカ合衆国である。であるが故に、巨大な「神」が最初に降り立ったのは、この「移民の国」であった。ワシントンやニューヨークではなく、南部の州にて移民・難民が集まる地域であった。

 巨大な、ただひたすら巨大な物体であった。空を覆うと言う表現がピッタリな形で降り立った「神」は、世界中から集まってきた移民・難民を前にして、声高らかに宣言した。

「君達、生きたくはないかい?」

「君達、もう理不尽な競争にはウンザリしていないかい?」

「君達、後悔しない人生を生きたくないかい?」

「……じゃあ、僕達についておいで」

 断る奴は1人も居なかった。その場に居た移民・難民は、自分が信仰するべき相手を見出していた。今まで神様を信じていないわけでは無かった。でも、実際に現れて、実際にその声を聞いた「神」は、これが初めてであった。死後の幸せが何だと言うのだ。死んで天に昇っても、空の上には宇宙が広がるのみで、幸せな死後の生活が待っている訳では無い。

 「オーバー・サイズ」。その「神」はそう名付けられた。どんな事情があろうとも、この「邪神」に対して「ゴッド」だの「ジーザス」だのと呼ぶつもりにはなれなかった。こいつらは断じて「神」なんかじゃない。デカいだけの怪物だ。「神」は自分達に見えないからこそ「神」なのであり、人間の目に見えた時点で、それはただの「物質」である。「悪魔」だってそうだ。目に見えないからこそ、その手で触れられないからこそ、その声を聞けないからこそ、その存在を信じられるのだ。その条件を1個でも満たせなければ、それは「ただの物質」であって、「神」でも「悪魔」でもない。

 「オーバー・サイズ」は、自分達の信徒に対して、「望む物」を与え始めていた。「力」だ。もう2度と理不尽な理由でもって蹂躙される事のない、強大な「力」が欲しい。「オーバー・キッズ」と呼ばれた信徒達は、かつて自分達の人生と生命を弄び続けた「国家」や「世界」、「権力者」に対して、物理的な復讐へと乗り出していた。

 無論、日本もその標的の1つに入っている。何も日本だけが移民・難民に対して、特別に寛容で親切であったと言う客観的な根拠は一切無い。むしろ、「問題自体存在しない」と言うスタンスでもって、これに関するあらゆる議論・反論・異論を封じ込めてきた、極めて悪質な対応をしてきた国家であるのは事実である。

 日本の各地にも、「オーバー・サイズ」の呼びかけに応じて、「オーバー・キッズ」となった移民・難民が現れていた。街を踏み倒し、人々を踏み潰し、山を踏み荒らしていた。


 美津徹は、「フジ」の顔を不安げに見上げる。

「ねぇ、「フジ」。僕達、死ぬの?」

 「フジ」は徹に対して、家族に対して答える。

「俺が守る」

「大丈夫なの?」

「分からない。俺は命を賭けて守る。それしか言えない」

 徹は、「フジ」の手を握って言う。

「大丈夫だよ。「フジ」が居れば、どんな奴がいても、大丈夫だよ」

 それは自分に言い聞かせている言葉であった。


 烈沙苗は、半べそでその映像を見ていた。あの巨大な生き物が、自分を踏み潰そうとしている。自分を憎んでいる。自分を嫌っている。それは見た目からでも充分に伝わっていた。

「「ムサシ」、これからどうするの?」

 沙苗は、ついさっき人間に変身して蘇った飼い猫に対して、不安と恐怖が綯い交ぜになった口調で尋ねる。

「どうとでもなるわよ。生きてさえいれば」

「生きてさえいれば?」

「ええ、死んだらそこでお終いですもの」

「「ムサシ」みたいな猫や犬って、他に居るの?」

「どうかしら。居たとして、味方かどうかも分からない。何にせよ、生きてさえいれば、どうとでもある」

 「ムサシ」は沙苗の手を握る。

「だから、絶対に生き延びましょう。友達ですもの。私が守るから。何としても、諦めないで、生き抜くのよ」


 「オーバー・キッズ」は、「オーバーサイズ」から与えられた「力」に対して、完全に理性や人格を失っていた。身体に溢れる「力」が、その矛先を求めて、「オーバー・キッズ」の攻撃性を駆り立てていた。俺はもう最強だ、誰が相手でも負けはしない。その「力」を更に駆り立てるのは、自分達に降りかかっていた理不尽な扱いに対する「憎悪」である。あいつらには、俺達が受けていたのと同じ扱いを受けるが良い。もう俺達にはその「力」があるのだ。

 その時、目の前に「何か」が現れた。「オーバー・キッズ」の足が止まる。絶対に止まる筈の無い足なのに。もう誰にも負けない筈なのに。人間と同じ体躯であるが、その小さい身体に込められている「力」は、恐ろしい。こいつら、「人間」じゃない。「人間」であれば、さっさと逃げている。こいつは、誰だ。

「私は「家族」を守る。その為に産まれてきたのだから」


 空を飛ぶ「オーバー・キッズ」が、前に進むのをやめる。自分達の目の前まで飛んできた奴がいる。そして、そいつは人間の身体をしているが、それに込められた「力」は計り知れない。自分達に向かってくると言う事は、自分達の敵であるのは間違いない。

「お前は誰だ」

 聞く者の耳は勿論、身体の芯まで響いてきそうな声で聞く「オーバー・キッズ」に対して、相手は答える。

「俺の「友達」を傷つける奴には、容赦しない」


 「オーバーサイズ」は、自分達の立場を弁えていた。この星の「神」と「悪魔」のツートップと示し合わせた上での入植であり、どんな扱いを受けても文句は言えない立場にあると言うのは、理解していた。今もそれには納得している。

 つまり、これがあの2人の言う「平等な選択肢」と言う奴なのだろう。「犬」と「猫」を選んだのだって、意図的であるのは間違いない。「選択肢」として、これ程都合の良い対象は無い。

 「オーバーサイズ」は、自分の眼下にて新しい神様を崇め讃える信徒達に対して、もう1つの啓示を示した。

「君達、自分達を否定する奴は嫌いだろう」

「君達、自分達を傷つけてくる奴は嫌いだろう」

「君達、自分達が悪役にされるのは嫌だろう」

「なら、全力で戦わないと、生き延びられないよ」

 「オーバーサイズ」の啓示は、全ての「オーバー・キッズ」に届けられていた。目の前に居る「敵」に対して、全力で殺しにかかる。この瞬間、新しい戦いが始まった。



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