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015(最終部) 騎士と武士

 彼女は日本の山と人里の境目にある空き家の窓から、「月」を見上げる。「マルミ」と言う「天使」から祝福を得て、生きる理由を探すよりも、生きる術を学ぼうと決意して、今此処に居る。

 「オーバーサイズ」には恩も借りもあるのだが、今更「恩知らず」と言われようとも、「決戦」に加わるつもりは無かった。もう理由探しは止めだ。これからは、術の学習をしていこう。一度も名前を名乗らなかった彼女は、このまま名無しの権兵衛となって、この地で生きるしかない。1度「オーバー・キッズ」としての洗礼を受けて、化け物へと変身できる力を得た彼女は、誰かが、とてつもなく強い誰かが殺してくれない限り、永遠に生き続けなければならない。

 生きてさえいれば良い。「マルミ」はそう言い残した。あの「天使」からの福音を、彼女は決して忘れていない。だからこそ、見届ける程度のことはやっておこう。そう思って、こうして「月」を見上げているのだ。


 美津徹の気持ちは腐っていた。彼にとって一番の「家族」である「フジ」が、徹の猛反発を受けても、「月」での決戦に出向いてしまったのだ。猛反発したその翌日には、「フジ」の姿は家から消えていた。

 折角、死んだと思ったら生き返ったのに、とても強くて、とても優しい、頼りになる「天使」だったのに。塞ぎ込む徹に、尚実は言う。

「今日から、家に避難してくる家族が居るの。そこの娘さんも、調度あなたくらいの子供なの。その子と友達になりなさい」

 そう言われても、まだ拗ねている徹であったが、家に避難してきた烈沙苗と言う女の子を見て、徹は直感で悟っていた。そうか、この子も自分の「天使」を決戦場に連れて行かれたのだな。自分と同じくらいに、落ち込んで、捻くれて、腐っている表情が、それを過不足無く現していた。

 その視線を見返している烈沙苗もまた、同じ事を感じていた。この自分と同じくらいの年齢の男の子も、自分の「天使」に出て行かれて、不貞腐れていたに違いない。自分もついさっきまで、「ムサシ」が忽然と姿を消したのでパニックになっていたが、それから数分後に両親から本当のことを告げられて、沙苗は怒り散らかしていた。

 自分は「ムサシ」に別れを言えなかったではないか。こんな仕打ちがあるのか。烈火の如く怒っていたが、津波で瓦礫を残して消滅した故郷を後にして、一時的に引き取ってくれる親切な家族があると聞いて、その家に来てみれば、なる程、ここも同じ事情らしい。

 徹と沙苗は、それから暫くの間、見つめ合った末に2人揃って遊び始めた。ボール遊び、人形遊び、積木遊び、それに駆けっこ、何でも良いから遊び始めていた。


 「ジェラード」を先頭に「月」へと向かった、「犬」「猫」が変身した「天使」達は、「月」の表側に建造された、「オーバー・ビリーバー」の街、「オーバー・ムーン」に足を踏み入れていたが、人の気配は無かった。宇宙港と思しき施設には、1隻も船が残されていなかった。

 しかし、見れば見るほど、「天使」達は背筋が凍り付く思いであった。「オーバーサイズ」が授けた超科学は、見れば見るほど、創作物の世界に迷い込んだ錯覚を見る者に与えていた。進んだ技術は魔法と同じ、なんて月並みなジョークは、この際誰にも言えなかった。これは魔法ではなくて、限りなく魔法に近い科学であった。

「……壊そう。この街を」

 「天使」達の指示役を担う「ジェラード」は、決断する。今の人間には過ぎた力だ。それだけは分かっていた。まだ人間に扱いきれるものではない。

 その時、不意に頭の中に直接語りかけられる様な声が、五感を震わせながら聞こえてくる。

「僕はここだ。月の裏側だ。そこでケリを付けよう」

 間違いなく、「オーバーサイズ」の声だ。罠なのか、あるいは本当にケリを付けるつもりなのか。どちらにせよ、この街は残してはならない。


「……街を燃やしたな」

「流石は、「地球人」の飼い犬や飼い猫、やる事為す事、全部飼い主に似ている」

「ただ、燃やしたのは正解だ。あの超科学を今の「地球人」が正しく使えるとは思えない」

「……さて、来たようだよ」


 デカい。本当にデカい。「オーバーサイズ」とはよくぞ名付けた物だ。「ジェラード」以下、数十人の「天使」達は、自分達が初めて対面する「敵」の全容をその目で見ていた。

「やぁ、君達。待っていたよ。もう終わりにしよう」

 「オーバーサイズ」の天啓が、直接頭に注ぎ込まれる。そして、周囲から続々と「オーバー・キッズ」が現れて、「天使」達を取り囲む。それに対して、数十人の「天使」達が一斉に、「月」の裏側に広がる暗闇の中で、エネルギーを貯め始める。そして、その全てを相手に浴びせていた。


 「ヘルロイド」は、友の邸の中で、自分の身体が「猫」のそれに戻り始めているのを感じていた。「天使」達は、騎士と武士は、その役割を終えたのだ。

 猫に戻ったら、何をしようか。先ずは、友が葬られた場所まで行こう。そして、墓守りでもしていよう。今度こそ、死ぬまで。


 補佐官が白い館の地下室に行くと、ブルドッグの「レイズ」がお座りして待っていた。それを見て、補佐官は思わず喝采をあげようとして、その感情を押しとどめようとして、結局大喝采をあげる。理不尽な戦争はもうお仕舞いだ。

 

 月を見上げる2つの影。その影は、同時に涙を零す。


 完


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