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014 生きるか死ぬか

 そこにはもう「受容」も「共感」も無かった。剥き出しの「憎悪」と「怒り」だけがあった。それは単純な子供の喧嘩以上に複雑でアンビバレントな感情であり、「めでたしめでたし」で終わる訳がない、お互いの首にロープを縛り付けて反対方向に走り出す、地獄の徒競走の始まりである。


「連中が「復讐兵器1号」と名付けた武器は、金属製の巨大な矢です。あれを電磁カタパルトに乗せて、「地球」に撃ち込んだのです。最初から海を狙っていたのは、こちらに対する牽制と言うよりは、試射のつもりだったとみるべきでしょう。最初から、あんな威力のある武器だと想定していなかったと思います」

「根拠は?」

「現にあれから3日も経つのに、「復讐兵器1号」は1発も「地球」に撃ち込まれていません。こちらが、今の我々の様に「対策会議」をしているのは、彼らにも分かっているのに、その間に1発でも世界の主要都市に撃ち込めば良いのに、こちらが発射装置を見つけても尚、音沙汰無し。「自由の女神」だって、まだニューヨークの記念公園に建っています。なのに、何の反応も無いという事は」

「怖れている、と言うのか。しかし、どちらが怖ろしいのだ。「復讐兵器1号」の威力か、あるいはこちらの報復か」

「両方ですが、前者の方が大きいと思います。こちらの報復手段は限られていますが、「復讐兵器1号」の威力は、かつて冷戦時代にて重視されていた「抑止力」としては大きすぎます。お互いに同質の武器を突きつけ合って「引き分け」、と言う展開は望めません」

「あんなに最上段から剣を振り下ろしておいて、今更握手の手なんて差し伸べられないだろう。で、我々に残された限りある「報復手段」として、どんな手段があると言うのかな」

「私に限らず、我々の仲間もまた、この事態を憂慮しています。「オーバー・キッズ」の生き残りを潰して回って、安全を確保して後に「月」への逆侵攻、と言う当初の目標は、もはや現実的ではありません」

「では、安全を確保する前に、敵の本丸を攻めると言うのか」

「それこそ、危険な行為だと思います」

「そうだ、君達が攻めている間に、「地球」に「復讐兵器1号」を撃ち込まれたら、手も足も出ないままに「地球」が滅びるのだからな。そこはどうやって防ぐつもりなのだ」

「どうもしません。必要な犠牲として受け入れてもらうしかありません。「地球」の防衛に力を入れすぎて、肝心の「月」侵攻作戦が失敗したら」

「本末転倒、元も子もないか」

「どうか、お覚悟を」


 「ジェラード」の主導する会議の議論の様子をみながら、彼女の「家族」であるジェントル・マイクロトスは、その内容に満足していた。「「オーバーサイズ」対策会議」と言う仰々しい名前のついた会議は、始まってまだ1時間も、いや30分も経たない内に、佳境から終幕へと雪崩れ込もうとしている。

 ここまでの議論の流れは、見事な物である。出席者の反応も決して悪くない。結論に向けて、話は進んでいる。このまま出席者同士で衝突なく終わってくれたら万々歳だ。


「つまり、このままでは、我々は怒り狂った「地球人」の反撃を受けると、それを避けるのには「和平交渉」しかないと、そう言うのか」

「それしかありません。「オーバー・キッズ」が、あの「天使」達に勝てないのは分かりきっているのですから。それを避ける為に、我々は宇宙へと侵出したのです」

「何なら、「逃げる」と言う手もあります。このままこの都市を捨てて、「オーバーサイズ」の導きにより、「火星」にでも逃げ延びれば」

「話にならんな。君達、我々がどうして「オーバーサイズ」からの天啓を得られたのか、その大元の原因は何だと思う」

「……我々が移民・難民だからです」

「そうだ。我々がこのまま宇宙を逃げ回り、都合の良い惑星の近くに別の勢力が居たとしたら、そこでもまた君達の様に「逃げる」選択肢を選んでいたら、我々の髪の毛が白くなる前に、いや、老衰で死ぬ前に、「第二の故郷」なんて永遠に手に入らないのだぞ」

「しかし、「天使」達は「人間」を巻き込んで、大々的な会議を開いているでしょう。今頃は我々の様に、今後の対策会議でも開いていると思いま、いえ、確実にしています。間違いなく、彼らも同じく「決戦」に向けて準備を始めています。今度は、「負けても次がある」と言えるものではありません。「生きるか死ぬか」しかありません」

「だがな、あの間抜けな広報官の名演説、貴様らも聞いたと思うが、あんな上段振りかぶったハンマーを、途中で止める事が出来るのか。今頃は、「地球人」も、こちらの和平交渉なんぞにこれっぽっちも「期待」もしていないんだ」

「では、このまま「月」を墓標にして滅びろというのですか。それこそ、「地球人」の悪しき発想、自棄っぱちも良い所の馬鹿の1つ覚えです」

「……頭を冷やそうか。私も、君達も、少し熱くなりすぎたな」

 月面都市「オーバー・ムーン」の行政地区にある会議室の一角にて、司教に直訴している数人の若手の信者達がいたが、彼らはこの場にて「死」を覚悟して直訴していた。

 元々、「命」なんぞ惜しくて、こんな直訴なんてしない。どのみち、このまま事態が流れるに任せていたら、自分達は全員死ぬのだ。死ぬと分かっていて、何もしないままで居るよりは、「今後の出世」「組織での立ち位置」「人間関係」、全てを無視して、「正解」を選ばせるべきだ。「正解」は最初から分かりきっている。それでもそれを選べないのは、彼らが無視した3つの要素が、深く関わっている。

 もし組織なんぞ組まずに動いていれば、こんな羽目にはならなかったのかもしれない。そう言う意味では、あの「犬」と「猫」が生まれ変わった「天使」達の方が、賢く立ち回ったのかも知れない。クソ、人間の創る組織って言うのは、どうしてこうもいつもいつも、所属する人間の足をひたすら引っ張り続けるのだろうか。


その「混乱」を見据えながら、神殿にその巨体を埋めている神、「オーバーサイズ」は、誰にも伝わらない形で、胸の内にて呟く。

 終わりが近づいている。「地球」の最期ではなく、自分達の最期が近づいている。もうどうにも止められないだろう。「復讐兵器1号」は、その想定外の高性能故に、使う側の首を絞めて、使われた側の怒りを買いすぎた。もうどうしようもないだろう。こちらが「和平交渉」をするなんて、最初から出来ないと知っていて、あの若い男性は上司に直訴したに違いない。和平は第三者からの仲介が無ければ、なかなか成立するものではない。たとえ第三者を抜きにしたとしても、状況は改善しない。

 であれば、久々に示すしかあるまい。また天啓を出すのだ。どうせ自分は宇宙の果てから放逐されてここへ辿り着いた流れ者、「移民」「難民」のレッテルなんぞ苦にはならない。

「君達、まだ生きたいか。生きたければ、3番宇宙港の宇宙船に集合してくれ」

「あくまでも、「移民」「難民」がイヤだという物は、神殿に集まってくれ」

「これから、僕と神殿に集まった者達で、最後の抵抗を行って時間稼ぎをする。その隙に、宇宙船で脱出するんだ。無理に戦いたくない連中に犠牲を強いるつもりは無い」

「逃げても良いんだ。そのまま一生、「移民」「難民」の立場が消えなくとも、それしか生きる道が無いとしても生きるべきだ。チャンスさえあれば、何時でもどうにかなるものなんだ」

「だから、今日の「混乱」と「殺戮」の原因となった僕自らが、死んだとしても君達を逃がす。それで良いだろう?」

「だから、好きにしてくれ」


 信徒達は泣いた、泣き崩れた。半分は悔し涙で、半分は嬉し涙だ。「死」を覚悟していた「オーバー・ビリーバー」にとって、渡りに舟が来たのだ。しかも、神は自分達に逃げろと言っている。もし嘘で無ければ、本当の覚悟であれば、こんなに嬉しい事はない。

 そうだ、生きてさえいれば良いんだ。他人に「死」を無理強いする事以上に酷い事なんて無いんだ。悔しさ半分嬉しさ半分で、信徒達は二手に分かれて、街を走り出す。


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