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013 復讐兵器1号

 「フジ」は、思わず天を仰ぐ。イヤな予感がしたのだ。何かが始まる前触れか、あるいは既に始まっているのか、まだ分からないが、とにかく悪い予感で胸が張り裂けそうであった。住んでいるマンションのベランダに出て、天を仰ぐ「フジ」の目に、そいつはハッキリ見えた。月から何かが飛んできている。ここへは飛んでこないが、何処へ目指しているのかまでは分からない。

 クソ、最悪だ。月から「地球」への直接攻撃。最も恐れていた事態に突入したのだ。


 「ムサシ」は、避難所にて烈家と共にごろ寝していたのだが、ガバッと起き上がって、避難所になっている体育館を出て、天を仰ぐ。夜空に浮かぶ美しい月、その華麗な姿に黒いシミが見える。それはどんどん大きくなり、こちらに向かってくる。この避難所には直接落ちないだろうが、このまま行けば、海に落ちる。

「起きてぇ! 今すぐ山に逃げるわよ!」

 「ムサシ」は叫び、烈家の寝床へと向かうと、沙苗と直翔と明美を起こして、手近な山へと向かう。その様子を見ていた他の避難民も、次々とそれに続いていく。


 「月」の都市、「オーバー・ムーン」にて建造された「復讐兵器1号」の発射装置は、1発目は大平洋、2発目は大西洋、3発目はインド洋と、てんでバラバラではあるが、「海」への試し撃ちである意図を包み隠さずに、「月」の岩石から作り上げた「復讐兵器1号」、バカデカい金属の矢を電磁カタパルトより撃ち出していた。

 3本の矢は、大気圏突入時の空気の摩擦で燃え尽きる前に成層圏へと突入、太平洋、大西洋、インド洋にそれぞれ撃ち込まれる。「復讐兵器1号」は、海底までその勢いを維持したまま突き刺さり、その力は波という形で周囲に発散されて、やがては津波となって沿岸部に到達していた。

 3発の「復讐兵器1号」の実験に成功したと確信した時点で、「オーバー・ムーン」に居る「オーバー・ビリーバー」の広報官は、月から「地球」へとライブ中継でもって、全てのチャンネルへと動画と共に声明文を発表する。

「我々にはもう貴様らは必要ない。頼る意味も無い。我慢の必要だってない。このまま忌まわしい記憶と共に、消えて無くなるべきだ。お前達が我々に対して行ってきた鬼の所業を思い起こせ。一瞬でも良い、人間らしい振る舞いや言動が、そこにはあったのか。貴様らには「神」はいない。だが、我々には「オーバーサイズ」が居る。もし我々に降伏する意志があるのならば、ニューヨークの自由の女神を爆破しろ。お前達に自由など必要ない事実を弁えている証明として、爆破しろ」


 「オーバーサイズ」は、冷汗三斗と言うのがどう言う心理状態なのか尋ねられたら、正に今この心理状態がそうだと答えられる自信があった。「復讐兵器1号」は、正にその名の通りの威力を示した。いや、示しすぎた。ちゃんと目標に命中したのは良かった。大気圏の摩擦で燃え尽きないで成層圏に突入出来たのも良かった。だが、その勢いが衰えないままに海底に突き刺さって、その衝撃で大津波が発生したのは、計算外の出来事であった。

 恐らく、万単位で死人が発生して、百万単位の避難民も発生して、天文学的数字の被害総額が発生しているだろう。もしそうなった時、「地球」に居る人間達が感じるのはどんな感情であろうか。「恐怖」? まぁそれもあるだろうが、それ以上に彼らを燃え滾らせるのは「怒り」だ。これは天災では無く人災なのだから、そう言う感情に流れていくのは至極当然の流れである。ましてや、ご丁寧に「復讐兵器1号」なんて名前も付けてしまった。言い訳は不可能だ。

 もはや、月面都市「オーバー・ムーン」とそこに住む人々「オーバー・ビリーバー」に残された道は2つに1つ。「生きるか死ぬか」だ。恐らく、「自由の女神」は津波にあって流されていなければ、今後もあの記念公園に立ち続けるに違いない。お互いに総員玉砕するまで戦い、例え1人だって生かすつもりは無いだろう。

あの広報官が読み上げた原稿、あれを書いた奴の心境と思惑とは裏腹に、「オーバーサイズ」は早くも自分とその信徒達の行く末について、ある程度のみきりをつけていた。「地球」には、誰もが気付かない形で、「神」も「悪魔」も存在しているのである。まだ不介入を貫いているが、いつ名乗り出てくるのかは分からない。


 「フジ」は、テレビで、ネットで、次々と報じられる惨状を見せられて、もうこれ以上呑気に構えてはいられない、と決断していた。美津徹は、不安そうに「フジ」の顔を見て言う。

「僕達、死ぬの?」

 その震える声を聞いて、「フジ」の胸は勿論、両親である尚実と直田も同じく、酷く痛む。まだこの年齢で、こんな地獄絵図を見せられて、平静ではいられない。死ぬまで残るトラウマが、心に刻み込まれて、一生苦しみ続けるのだ。それがどんな結果を生むのか、そして、子供だけでなく大人達の心身両方にそれ以上のトラウマを刻み込めばどうなるのか。「オーバー・ビリーバー」の広報官の強気満々な態度からは、そう言う思慮深い仕草や兆候は一切見受けられなかった。


 「ムサシ」と烈家は山へとひたすら走り、坂を駆け上っていた。その後ろには、他の避難民も続いている。水が、あまりにも膨大な水が、巨大な並となって後ろから迫ってきているのだ。まさか、この世に産まれて2度もあんな光景を見る羽目になるとは思わなかった。

 まだだ。まだ死なない。まだ終わりたくない。生きるんだ。どんなに無理な状況でも、諦めないで進むんだ。それは決して歌詞に入れたらエモい表現ではなく、人間の本能であり、動物の本質なのである。「生きている証」と言っても良い。

 死んでたまるか。その一念のみで駆ける人々は、ようやっと安全そうな高台にまで辿り着くと、波に呑み込まれて、瓦礫の山になっていく街を見つめていた。元々、「オーバー・キッズ」との戦いで、半分は壊されていた街並みが、今度こそ全て瓦礫の山と化す光景を見届けていた。

「……チクショウ」

 誰かが、ぽつりと呟くのが聞こえた。そのたったの一言が、その場にいる人々の感情に火を付けていた。鍋底から強火を浴びせられて、グツグツと煮え滾る麻婆豆腐の様に、「憎悪」と「怒り」が広がっていた。

 この現象は、ここだけでは無いだろう。この光景を見ている全ての人間の胸の中にて進行中の、集団心理と言う奴だ。

 誰かが「ムサシ」の手を握ってきた。沙苗の小さい手が、「ムサシ」の手を握りしめている。耐えられまい、この幼子には。「憎悪」と「怒り」で満ちる中で、子供はそれに乗っかるべきなのか、あるいは冷静になるべきなのか、判然としないものだ。それよりも、街が瓦礫の山と化していく、目の前の光景の方が痛ましいだろう。

 どちらにせよ、作る方も辛ければ、食べる方も辛い、誰も得しない麻婆豆腐の出来上がりである。寒い土地では美味しくいただけるが、子供のお腹には刺激が強すぎる。

 ここで、「ムサシ」は約束を思い出す。どんなになっても、沙苗だけは守り抜く。烈家の「友達」として、誓ったのだ。例え結末がどうであろうと、「ムサシ」は烈家の一員として、この約束を守らなければならないのだ。



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