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挿絵(By みてみん)




「……つっても、どうやって捕まえればいいんだ……?」



ケイは拳を緩めた。

固く握ってみたはいいものの、その矛先をどう向ければいいか見当がつかなかった。

ケイは眉尻を下げ、アオイにヘルプの目を向けた。

アオイは嘆息で、その視線を返した。



「なんだ君は。締まらん奴だな」

「だって『キルケ・ゴール』って明らかに偽名じゃん!なんか『智』?でわかったりしないの?!名探偵の頭脳を借りるとかさあ!」

「……悪くないアイディアだが、まあそう急くな」



アオイは地面に置いていた、黒い鏡を拾い上げた。



「幸いコイツの『借智』時間がまだ残っている。見ろ。手がかりは他にもありそうだ」



鏡にはアイカの死に様が、レリーフとなって浮かんでいる。

腰が引けた。

確かに『キルケ・ゴール』を捕まえる、とは決心した。

だがその鏡は、ケイにとってあまり見返したいものではなかった。



「…………」



アオイは顔を顰めた。

ケイの胸ぐらをぐいと掴むと、鏡の前へと引き寄せた。

ケイは反射的に目を瞑ろうとした。

しかし寸のところで瞼を止め、薄目でなんとか鏡を見た。

そこには変わらず、アイカのあの姿があった。


また、頭痛で胃液が迫り上がってくる。



「抑えろ抑えろ」



アオイはケイから手を放した。



「注目すべきはアイカではない。こっちだ」



アオイは鏡の端の方を指差した。

ケイは最初、それは何だかわからなかった。

「え?」と気抜けた声で反応すると、アオイの指は、よく見ろ、と言わんばかりに該当箇所を突いた。

ケイはもう一度、鏡にできたレリーフを観察する。

その図像には、どことなく意味があるように思えた。



「これ……もしかしたら人影なんじゃ……?」



ケイが恐る恐る答え合わせを求めた。

アオイはあっさり「だろうな」と答えた。



「鏡はアイカの死亡直後を映している。警察にしては早すぎる」

「じゃ、じゃあ……野次馬?」

「で、なくもないが、墜死体に躊躇なく近づける者はそう多くないだろう」



アオイはケイを見上げて言った。



「ーーーー思うに、最初からここで『人が死ぬ』と知っていた者じゃないか?」



ケイの脳天を、衝撃が劈いた。



「『キルケ・ゴール』……!』



その瞬間、ケイの眼下がボウッと光を放った。

アオイの手の中で、黒い鏡が燃え始めたのだ。

炎は瞬く間に、鏡を焼き尽くしてしまった。


「ああッ」とケイと手を伸ばした時には、すでにそこは虚空となっていた。



『借地時間は終了しました』



無機質な音声が、ケイの耳元で鳴った。

それは白い鳥の声だった。

ケイはジトリと睨むも、鳥は丸い目玉をくるくると回し、首を傾げるだけだった。

「そいつに人の文句など効かんぞ」とアオイは煤を払うように、手をはたいた。



「まあこれで、いくつか推論が立つ。整理してみよう」



アオイは1本、火傷指を立ててみせた。



「①『キルケ・ゴール』はSNSの『おまじない』を用いて、扱いやすい者を選定している」

「扱いやすいってアンタ……」

「まあ、その辺りは君の方が詳しいかもしれないな」



ケイは苦笑した。

それからすぐに真面目な顔をして、考えを巡らせた。


思うに、何かに縋りたくて、でも誰にも頼れない居場所がない子が選定されている。

例えばーーーーそう、アイカのように。


ケイの脳裏に、横たわるアイカの姿が想起される。

思い出したくないが、簡単には忘れられない。

アイカの手には、確かに毛が付着していた。


ーーーー好きな人の髪を小指に巻いて、飛び降りる。

ーーーーそうすれば、ずっと一緒にいられる。


それが『おまじない』の言い分だった。

『おまじない』を信じた子が、どれくらいいるかはわからない。

噂が拡散されている分、被害者はアイカだけではないように思えた。



「②」と、アオイは次の指を立てる。



「『キルケ・ゴール』は、特定の場所での死亡にこだわっている。明確な指示を出すまでにな」

「……場所?」



ケイは腕を組み、首を傾げた。

すると目端に体液で汚れた袖が入って、「ハッ!」と跳ね上がった。



「もしかして……それが呪いを起こすトリガーだったり?!」

「土地の呪術的作用はある。が、アイカのケースを見るに、この場所が『呪術的に特別か』は正直わからない」



ケイは「うぐ」と喉を鳴らした。

確かにこの場所は、人死にが出ている分嫌な感じはするが、それ以上の云われはない気もした。

正直わからない、というのが素直な意見だろう。


アオイは仕切り直して3本目の指を立てた。



「③『キルケ・ゴール』は被害者死亡直後、確認に来ている可能性が高い」



ケイは先ほどの影を思い出す。

鏡が燃え消える直前目にした、謎の人影。

あれが『キルケ・ゴール』本人とは断定できない。

しかし間違いなく、死の淵にいるアイカを見下ろす者がいた。


ピキリ、とこめかみに痛みが走った。

厚かましさを自覚しながらも、ケイの中に怒りが湧いた。



「なんでッ!なんのために……ッ!!」



「わからんな」とアオイは手を引っ込めた。



「そもそも『キルケ・ゴール』の目的自体、不明確だ。『おまじない』伝授という倒錯的慈善活動?呪詛拡散?……馬鹿馬鹿しい」

「で、でも俺は実際」

「そうだな、君は呪われている。だがそれは偶発的産物なのかもしれない。少なくとも『キルケ・ゴール』にとってはそうだ。ないとは言い切れないが、奴は君を確認しには来ていない」



確かに、とケイは妙な納得をしてしまった。

『こう』なってからというもの、ケイから離れる者はいても、逆に近づいてくる者は皆無だった。

もちろん遠くから観察されていたのなら、話は別だがーーーー。



「だが、アイカの元には間近に来ている」



アオイはきっぱりと言った。



「だから『キルケ・ゴール』にとって、『ここ』で『ちゃんと死んだか』が重要なのだろう」

「うう、なんなんだそれは〜〜〜」



ケイは金髪をわしゃわしゃ掻き回した。



「結局なんなの!何が起きてるの?!」

「『キルケ・ゴール』はSNSの『おまじない』を使って人を集め、特定の場所で自殺させている。遂行確認までしている。君の呪いはその副作用かもしれない」

「えッ俺オマケ?!てか、まとめありがとね?!?」



ケイは両腕を広げ、アオイに振り向いた。

アオイは「落ち着け」と再びため息を吐いた。



「できることはある。逆に、だ。『おまじない』を信じた者として『キルケ・ゴール』と連絡を取る。そして奴の指示に従い、実際飛び降りる。そうすればーーーー」

「『キルケ・ゴール』が現れる!?」



アオイは眼光を鋭くして頷いた。



「おそらくな」



ケイは「おお!」と両手を叩いた。

『キルケ・ゴール』という謎の人物。

一体何者なのか、どこにいるのかもわからない。

これじゃあ手も足も出ない、と思っていた。


なんてことはない。

実際に飛び降りれば、そこに奴は現れるのだ。



「……いやちょっと待って?!」



ケイは顔色を一気に青くした。

ワンテンポ遅れて、この作戦の大穴に気がついたのだった。



「ガチで飛び降りるの?!え?DMで呼び寄せて……捕まえるじゃダメなの?!」

「駄目だろうな」



アオイは冷淡に言った。



「『キルケ・ゴール』は慎重な性格だ。だからちゃんと死んだかを確かめにくる。つまり本当に飛び降りなければ、奴は現れない」

「でもーーーー」

「大丈夫だ。この役は私がやる。『借智』をすれば死ぬことはない」



本気で言ってんの?と、ケイは思った。

だが言葉にはできなかった。


アオイと目が合う。

謎めいた渦の瞳が、ケイを見上げる。

正直これまで、アオイが何を考えているのかよくわからなかった。

しかし今は、その過去を聞いたのもあって、思いが実直に伝わってきた。




本気だ。

『智』はこういう時にこそ、使うものだ。




眩暈がした。

額から汗が垂れ、目に入って瞬いた。

口の中が気持ち悪い。

どう返答すべきかわからず、ケイの唇は半開きになっていた。



目の前の人がまた、身を投げようとしている。

自分は再度、しかもより積極的に、加担せねばならないーーーー。



頭が痛い。



アオイはフ、とケイから目を話した。

ケイにはそれが、見放されたように感じた。

「私一人でもやる」と突き放されたように思えた。


白い鳥が羽ばたく。

鳥はアオイの腕に降りると、ばさりと両翼を広げた。

翼内側の、左右で異なる紋様が曝け出される。

アオイは右翼へと手を伸ばした。

火傷痕が残る指を、羽一枚一枚の上に滑らせていく。



「いや、やっぱ待って」



ケイはようやく言葉を発した。



「アンタじゃダメだ」



アオイはケイをチラと見ると、小さく笑みを浮かべた。



「心配するな。今回割ともう借りているが、それでもまだ余裕がーーーー」

「そうじゃなくて!!」



ケイは声を張り上げた。

勢いで余計なことまで飛び出そうになり、口を一文字に結んだ。

ケイは勢いよく腕を振り上げると、アオイに向かって指を差した。



「……ッアンタの、その服装ッ!男にヘラって『おまじない』に頼るタイプ見えないッ!」



アオイは眉を上げる。

アオイはTシャツにジーンズ、黒キャップに派手髪という格好をしていた。

あくまでもケイの観測内での話だが、そのようなスタイルの子は、精神的に健康なことが多かった。



「病み系の子の特徴は、俺の方が詳しい、だろ?だから……俺が、手を入れる」



ケイはバン、と自身の胸を叩いた。



「アンタをコーディネートする!その方が『キルケ・ゴール』も引っ張りやすくなるだろ?だから……『智』を使うのはちょっと待ってくれ」



アオイは大きな目で、じっとケイの顔を見た。

相変わらず、全てを見透かすような瞳だった。


アオイ一人にやらせるわけにはいかない。

関わると決めたなら、もっと腰を据えて踏み込まねばならない。


そうイキり立って口にしたももの、アオイの僅かな沈黙は、ケイの自信を急速に萎ませた。

やっぱ変だったかな……と、ケイは目を伏せかけた。

すると、「わかった」という声が聞こえた。


ケイは顔ごとぐんとあげる。

アオイは、目を細めて笑っていた。



「君に任せるよ」



鳥も、すでに黒キャップの上に戻っていた。



「ま……」



ケイは歓喜と興奮で拳を上げた。



「任せとけってんだッッ!!」



アオイはまた、今度は声をあげて笑った。



こうして、ケイとアオイは『キルケ・ゴール』を捕まえる『囮作戦』を開始した。








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(Xは日常垢を兼ねてるので、純粋に更新だけ追うにはブルスカがお勧めです)


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