表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

挿絵(By みてみん)



アイカが死んだ場所。

と言っても、明治通り付近以上の情報はなかった。


……のだが、予想外な『良いこと』があった。



「痛い痛い痛い痛い!!」



ケイにとっては災難でしかなかった。


明治通りに入るとすぐに、ケイの頭が断続的に痛み出した。

しかもある特定の方向へ進むと、頭痛はさらに酷くなった。



「なるほど。ダウジングだな」



アオイは興味深そうにケイを覗き込んだ。



「よし。より痛みが強くなる方向に行こう」

「ウガガ、イヤダアアアア!」

「痛みの最高点に手掛かりがあるかもしれんな」

「イギダグナイ〜〜〜〜!!!」



行くしかなかった。

ケイの元客・アイカのことで今わかっているのは、死に場所くらいだった。

だからと言って出向くのはどうかと思ったが、ケイを悩ます呪いを解くには、その原因を探らねばならなかった。


アイカは本当に『おまじない』で死んだのか?

死んで俺と一緒になるだなんて、荒唐無稽な話を信じて。



確かめに行くしかなかった。



ケイは歯を食いしばり、脂汗を垂れ流しながら歩いた。

頭痛は、通りを北上するほどに強くなった。

交差点を曲がり、ホテル群の中に入っていくと、耳鳴りまで始まった。



耳鳴りは、甲高い誰かの嗚咽にも聞こえた。



おかしくなりそうだった。

視界が白み、意識は混濁する。

一歩踏み外せば、奈落へと落ちてしまいそうな気がする。


そんな中でも、アオイの黒キャップだけは鮮明に映った。


ケイは黒キャップを目印に、なんとか前へと進んだ。

黒キャップの上には、あの変な白い鳥が乗っていた。


そういえば、とケイは涎を垂らした。

さっきの子たちは、なんでこの鳥にツッコまなかったんだろう。

結構目立つけどなーーーー。



すると急に、頭痛が激しくなった。



「アアアアアアアアア!!」



歩くことができなくなった。

頭蓋骨が砕けるほどの激痛が走った。

巨大な板で殴打されたような衝撃が続いた。


無理だ。

立っていられない。

これ以上は進めない。


だがケイには、それをアオイに伝えるのもままならなかった。



「ウウウウウウウウウ〜〜〜ッッ!!」



ケイはその場にしゃがみ込んだ。

眼前が霞む。

脳みそが外に漏れている。

血に濡れた黒髪が、顔に手に、絡みついている。

もう嫌だ。耐えられない。本当に、これ以上はもうーーーー。



「でかした」



遠い霞の向こうから、アオイの声が聞こえた。



「どうやら、ここが『最高点』だ」



それと共に、ケイの眼下に何かが落ちてきた。

長方形の小さな箱だった。

箱はカタンと音を立てて、ケイに表面を見せた。

そこには見慣れたロゴと一緒に、こう書かれていた。



『キツい頭痛・生理痛に!』



「市販薬だ。効くかわからんが、飲んでおけ」



ケイを箱を引きちぎって開けた。

中の錠剤をいくつも口に放り込むと、バリバリと噛んで飲み込んだ。


苦い味が口の中に残り、頭痛は続いた。

それでもプラシーボ効果なのか、少し楽になってきた気がした。

視界も徐々に、クリアになっていく。


ケイは頭を探り、両手を見下ろした。

脳は漏れていないし、黒髪も絡みついていなかった。


ケイは大きく肩を上下させて、深呼吸をした。



「………何なんだよ、マジで」



ケイは体を起こし、汗まみれの顔を持ち上げた。




そこには、背の高いマンションがあった。


似たようなビルは他にも立っている。

だが、そこだけマンションだけ深く闇に落ちているように見えた。




もしかして……ここで、アイカが……?

そう思うと、また頭と胸に鋭い痛みが走った。




「ふむ、さすがに痕跡はないな」



アオイは地面に座り込んでいた。

ケロイドだらけの右手でアスファルトを擦ると、指を鼻先に当てた。



「仕方がない。再現をしてみるか」

「再現ンン?!」



ケイは思わず大声を上げた。

嫌な妄想が、苛烈な痛みで縮み上がった脳裏を埋め尽くした。



「ま、まさか、アンタが飛び降りるってわけじゃ……」

「ない」



アオイは2文字でケイの妄念を切り捨てると、すくりと立ち上がった。



「『智』を借りる」



『智』を……『借りる』?

確かアオイは世界中から『ネタ』ーー『智』を集めていると言っていた。

それはなんとなく、それこそフリーライターの仕事として、ケイでも想像がついた。


だが、『智を借りる』ってなんだ?


アオイは左腕を水平に掲げた。

すると、それまで頭上にいた鳥が飛び降りてきた。

白い鳥はそのままばさりと翼を広げた。



「んなッ……」



ケイは目を丸くした。

フクロウにもワシにも似た、真っ白な鳥。

その翼の内側は、同じように白くはーーーーなかった。


右翼の羽一枚一枚には、びっしりと模様が羅列していた。

それらは文字に見えたが、ケイには読めなかった。


左翼は、また異様だった。

上部は白く、だが下部の羽は、そこだけ墨を浸したように真っ黒だった。


どちらの翼にせよ、現実のものとは思えなかった。



「うーん、どれにしようか」



アオイは指で右翼の、模様の羽々を撫でた。

慣れた手つきだった。

まるで商品棚から、似合いのアイシャドウを探すような仕草だった。

アオイは無数の内から1本の羽を選ぶと、翼から引き抜いた。


鳥が突出した嘴を開けた。



『ブラックミラー。借智料7。賃借しますか?』

「妥当。賃借する」

『賃借しました。帳簿残高-52です』



その瞬間、左翼の羽がいくつか白から黒に塗り変わった。

鳥は翼をはためかせ、アオイの頭上へと戻った。

アオイは抜いた羽を掲げると、厳かな口調でこう言った。



「書架よ。叡智の炎よ。この手に貸与を許し給え」



突如、地面が燃え上がった。

ケイは悲鳴を上げ、反射的に飛び退いたが、アオイはその場に留まっていた。

むしろ青白い光は、アオイを中心としていた。

光は地面を蛇行した。

その線は円環となり、車輪のような形を成した。


アオイの頬がにわかに紅潮した。



「汝に勝る神はなし」




羽が発火した。

炎はアオイの手中で形を変え、黒く丸い鏡となった。




「な、にが……」



ケイは、目の前の超常現象を受け入れるのに困難していた。

頭は「手品?トリック?!」と繰り返した。

肌は「そんなモンじゃない」とわかっていた。


鳥肌が立つ。

鼓動が高鳴り、胸がざわめく。

なにか、神々しさすら感じる。


結果、ケイの口から出たのは次の言葉だった。



「…………ま、魔法……?」



アオイは首を振った。



「魔法?違う違う、『借智』だ」

「しゃくち……?」

「『大書架』から『叡智』を借りたんだ。もちろんタダではないがな」



意味がわからなかった。

アオイは続けた。



「これはジョン・ディーの鏡だ。実物は大英博物館にあるが、まあ『智』は物質ではないということだ」



またしても完全に意味がわからなかった。

アオイもケイが理解できていないとようやく気がつき、黒い鏡を手に肩をすくめた。



「つまりこれは『過去を映す鏡』だ。この場所を映せば……」

「アイカの自殺を再現できるってコト!?」



ようやく合点がいって、ケイは無邪気に声を弾ませてしまった。

そして言ったそばから、戦慄をした。


待て。

俺は……アイカの死に様を、見なくちゃいけないのか?

アイカが死んだというこの場所で。

『レンタルした』という、その超次元的な力で。



「その通りだ」



アオイは冷然に頷いた。


待ってくれ!


ケイはアオイに手を伸ばした。

しかしそれよりも早く、アオイは鏡をマンションの暗がりに向けた。


黒く滑らかな鏡の表面が、沸々と泡立つ。

泡は波うち、きめ細かい凸凹のヒダとなった。

それはまるで手の上の小さな海のようだったが、やがて動きを止めた。


「面白い!こうなるのか」と、アオイはやや興奮した調子で言った。



「見てみろ。過去がレリーフになったぞ!」



アオイは鏡をケイに見せた。

ケイは顔を背を間も無く、鏡上の浮き彫りを目に入れた。



「……ウ、ぶ」



瞬間ケイは崩れ落ち、嘔吐した。

アスファルトの上に、ドロドロの内容物が流れ落ちた。



鏡の表面に形作られたもの。

それは紛れもなく、ケイの元客・アイカの変わり果てた姿だった。

綺麗にヘアメイクされた頭が砕け散っていた。

飾られた体はうつ伏せに、液体の中に浮かんでいた。



こんなの嘘だ、幻想だ、とケイは頭を振った。

仮に真実だとしても、俺には関係がないと信じたかった。

それでも見逃すことは、到底できなかった。



アイカの小指には、短い糸のようなものが巻かれていた。



レリーフに色はなかった。

しかしケイにはそれが何か、容易に見当がついた。




ーーーー好きな人の髪を手に入れて

ーーーー小指に巻いたら、夜空にダイブ♡




「なんなんだよッ!」



ケイは胃液と共に吐き出した。



「なん……ッなんなん、なんなんだよッ!これッッ!!」

「呪いの原因だ」



アオイの声は冷静だった。



「君と共にいたいという、切なる願いだ」



「推奨はできないがな」と、アオイは渦の瞳を伏せた。

その憐憫を伴う視線は、ケイをより一層情けない気持ちにさせた。



「うるせえよッ!アンタも俺のせいだって言うのかよ!!」



ケイは犬のように叫んだ。

このまま四つん這いになってでも、逃げ出したかった。



「優しくしてくれた?営業に決まってんだろ!みんなやってる、なんでわかんないんだよ!」



でももう、そんな余力もなかった。

見ないでいたことを、ケイはすでに直視してしまった。



「立替も夜もお前が始めたんだろ……続かなきゃ会わない……そんなん、自己責任だろ……」



ケイは嗚咽した。

ボロボロになった顔のいたるところから、体液が流れ出ていた。



「お前だって、俺のこと都合よく使ってたじゃん……毎日メンケアさせんなよ、当たり散らしてくんなよ……客なんて人じゃねえんだよ、そう思わんとやってけねえよ……」



アオイは、何も応えなかった。

体内の全てを吐き出そうとするケイを、ただ黙って見下ろしていた。


アオイはそのまま、しばらく鏡を指でなぞっていた。

そしてあるところで手を止めると、暗闇の中で目を閃いた。



「おい、これを見ろ」



アオイは素早くケイの元にしゃがみ込んだ。

ケイに向けて、再び鏡のレリーフを見せた。


ケイはボロボロと涙をこぼしながら、力無く首を振った。

あんなものは、二度と目に入れたくなかった。



「目を逸らすな」



アオイは強い口調で叱咤した。

もう一度、鏡をケイに突きつけた。



「ちゃんと見ろ。光明はある」



ケイは引きちぎれんばかりに首を振った。

硬く目を瞑って呻きながら、唯一の逃げ場へと転げ込んだ。



しかし、そこには何もなかった。

それどころか瞼を介してでも、アイカの姿が目に浮かんだ。

よく褒めた髪型と服装で、血の中に倒れるアイカの最期。



胸が突き刺されたように痛い。

逃げる場所は、もうどこにもなかった。



ケイは薄目を開けた。

急に開けた視界が、夜なのに不思議と眩しかった。

漂白されたその先には、アオイのケロイド指があった。

指は鏡のある一部分を指していた。


それはアイカ本人ではなく、その横に転がる四角い物体だった。



「……スマホ……?」



ケイは素直に呟いた。

見覚えがあった。モコモコケースに包まれた、アイカのスマホだった。


ケイは重い瞼を持ち上げる。

よく目を凝らすと、スマホの画面が見てとれた。


スマホには、メッセージのやり取り画面が映し出されていた。

メッセージは、アイカに飛び降りる場所を指示していた。



誰かが、死ぬ直前のアイカと連絡をとっているーーーー!



ケイは急いでスマホ画面上部に注目した。

差し出し人の名前を確認した。

そこにはこう表示されていた。



「『キルケ・ゴール』……?」








SNSにて更新ポストなどをしてます

X

https://x.com/_ohsko_


ブルースカイ

https://t.co/YrR7qkmi8z


(Xは日常垢を兼ねてるので、純粋に更新だけ追うにはブルスカがお勧めです)


コメント、ブクマ、評価等いただけるとめちゃくちゃHAPPYです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ